日記

好きな一節を。

2026/10/01 11:20
レヴュー
 皆川さんの各短編の、とりわけ好きな一節を書くだけ……。自分で読み返して陶酔する用……。増えたら勝手に追加していく。





 瞼の裏にひろがる太陽。裂け目からのぞく月。ひらめいて眼底(まなぞこ)を刺す風。
 —レイミア—



 悪臭にみちた獣舎のなかで、私は、腐って落ちてゆく太陽の幻影を見た。
 —獣舎のスキャット—



 いま、市郎の目のはしに、キラッと光ったのが、泪だとしたら、自虐の底に自分を沈めこもうと、少年の要望に応じたのかもしれないけれど、それは、雲の切れ目からのぞいた青い空のかけらが、一瞬眼球にうつって踊ったにすぎないとも見えた。市郎の表情は死んでいた。
 —蜜の犬—



 絢子は車を停めた。崖下の草むらに放り出された黒いものが目についたのである。勤務先の瀬尾クリニックにむかう途中であった。
 一瞬、幼児の焼死体かと錯覚した。
 —花冠と氷の剣—



 彼の躰の中には、殺人という行為の残滓が隅々までつまっていた。それを洗いざらいとり出して、父の手にゆだねてしまえるというのは、どんなに心安まることだったろう。
 —漕げよマイケル—



 ジャングル・ジム、滑り台、遊動円木、そういった遊具が、こどもたちの生命を照りかえすことがないので、それ自体のかかえ持つ力がにじみあらわれたように、重々しくうずくまっている。
 —天使—



 いけないわ、こんなのはいや。そう言いながら、彼を迎え入れようと、静かにひらいてゆく自分のからだが、おそろしかった。
 —ペガサスの挽歌—


 
 観念の世界においては、アモラルな行為は、卑小な日常性の羈絆を断ち切る、妖しい輝きを帯びた鋭利な兇器であった。
 —試罪の冠—



 憎悪。冷え冷えした無関心より、どれほど生きてゆくのに好ましいことか。
 憎みなさい。私は、おまえが羨ましい。
 —黄泉の女—



 庭は知っている。だから、ときどき、とびあがる気配をみせて、埃にまみれたわたしをおどし、ちらりと足をあげて、埋められたわたしの骸をみせつけて嗤う。しかし、庭は、わたしの魂が空の高みにあることを知らず、窓から吹き入る微風と尾羽のかわす快い交感に苛立って、じだんだをふみ、蕁麻(いらくさ)の髯をもつれさせるのだ。
 —風—



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