【ジョングク/ジミン】 a love potion

毎夜酷い『夢』を見る。
とても、とても酷い『夢』。


「 ジョングガ 」


不安を打ち消すように、その名を呼んだ。
その『夢』が、“ただの『夢』であれ”と祈るように。







踊ることは好きだ。
歌うことも。



成すべき事を為すためには、必要不可欠だと解っているから。
寝る間を惜しんで練習をすることなど、造作もないことだ。
成果を得るためには、努力しかない。
夜な夜な練習室で踊り倒し、気がつけば練習室の床で朝を迎えることも多かった。
それが自分のスタイルだ。
否、スタイルの筈だった。



“ …朝、か? ”


近頃、どうにも上手くこなせない。
気付けば自室のベッドの上で朝を迎えている。
寝たから疲れが取れているのかといえば、そうとも言い難い。

そう、たとえば情事の名残のような気だるさに、
目覚めても一向に体を起こす気にはなれない。

「…ッ、……ゲホッ、ゴホッ…!」

深く深呼吸をしようとして、ひゅっと入り込んだ空気が乾いた喉を刺激して、
思わず咳き込む。

「ゲホッ……っ、は……っ…」

ひとしきり咳き込んで唇を手の甲で拭い、そして、気付く。

「…っ…またかよ…」

拭った甲に視線を落とせば、そこには赤いあかい、自身の血。


ここ最近は、ずっとこれの繰り返しだ。

練習室に居たはずの自分が、気付けば自室で目を覚まし、血濡れの唇。
とてもきつく唇を噛んでいたのか、まるで口紅を施したかのように唇が血で染まっているのだ。


「とりあえず、水…」

重だるい体をなんとか動かし、キッチンでミネラルウォーターを一気に飲み干す。
乾いた喉に行き渡る水分が、心地いい。

空になったボトルの飲み口を指で弄りながら、

脳裏を霞める『夢』の断片にそっと瞼を閉じてみる。


噎せ返るような血と汗の甘い匂い。
動かない肢体の上を隅々まで艶かしく弄っていく細い指。
閉ざされた視界が解けていくその先に、歪んで映るその顔は―。

「ッ…!…は…、っ……は…ぁ…」

乱れる呼吸を整えるように深呼吸をし、
そのまま崩れ落ちるように冷たい床へと座り込む。


願望が見せている夢だとしたら、たちの悪いことこの上ない。


俺がジョングガと―?否、ジョングガが俺を―?

「有り得ないな…」

目にかかる前髪を掻き上げながら、ぼそりと呟き再び瞼を閉じると、まどろみの世界に沈んだ。




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