ナイア モノローグ
この世界を、いつまでも人間たちの好きにさせてたまるか。奴らは自分たちが弱者であり、モンスターを大量に虐殺することを正義の行いだと声高に叫んでいる。
……ハッ、その理屈なら虫が人間を虐殺しても問題ないということになるな。
ナイアのモノローグ1
そんな人間たちは、俺を殺すために勇者を選任したらしい。
「……面白い」
魔王城を中心とした世界全土にわたり、モンスターが人間の生活領域を徐々に侵略している。たった一人の人間が抗うことなど、できるはずもない。俺は改めて魔王軍の編成から、モンスターの配置を見直し、魔法の研鑽、武器の手配を行い、勇者の来訪を待った。
しかし、待てども待てども、勇者選任の知らせ以降、勇者についての情報が届かない。調査に向かわせた配下たちも、情報はおろか姿をくらませた奴もいる始末だ。苛立ちを抑えられず、俺は姿を変えて人間たちの村を渡り歩いた。世界を征服するという計画の前に、あの不穏な存在を排除しておきたい。しかし、どの村の者たちも「勇者はまだ来ていない」と口を揃える。
まさか、この地に来るだけの力もないというのか……?
さらに村を渡り歩いていくと、ある商業都市の居酒屋で、初めて「勇者を知っている」という人間を見つけた。どうやら勇者はこの街によく顔を出すらしい。居場所を聞くと、ここから北、山を越えたところで「モンスター牧場」を作っているという。
絶句した。
モンスター牧場!?
モンスターを奴隷として扱っているのかとも考えたが、何より意味不明なその名称に苛立ちを覚えた。
「……その勇者が作った牧場の場所を教えてくれ」
__
空からその地を見下ろすと、見知った俺の配下の気配がした。
……勇者に捕まっていたのか。
こんなところで道草を食っている奴に負けるなんて、情けない。
静かにその牧場地の中心に降り立ち、周囲を見渡す。地面に足をつけると、柔らかく青々と茂る草むらに小さな花が咲いていた。穏やかな景色、そして吹き抜ける風が花の香りを運ぶ。先程までの苛立ちが凪いでいき、冷静に周囲の気配を探る。
「……驚いたな、こいつは、ドラゴンか」
ナイアですら滅多に会わない伝説級のモンスターの気配に目を見開く。そして、気づくと周りには低レベルのモンスターたちが、俺を遠巻きに観察している。
「フン、雑魚が……」
一歩、奴らの元へ足を踏み出すと、背後から鈴のような声が聞こえ、俺は振り返った。
……勇者だ。
一目で分かった。
纏うオーラは人間のそれではない。腰に差した聖剣、常時展開される魔法耐性の効果。それらから数多の冒険と研鑽が読み取れる。
しかし、勇者は穏やかに俺に手を振っている。この締まりのない表情は一体何だ。
「お前が……勇者?」
俺の言葉に足を止め、まじまじと俺の顔を見つめるその姿に、呆れを通り越して頭痛がする。俺が勇者の肩を掴むと、周囲のモンスターたちは、怯えながらも俺に敵意を向けてきた。
「……勇者、ここは一体なんだ。お前はこんなところで何をしている」
驚いたように見開いたその大きな目、気の抜けたように開く口元。俺はこの何とも言えない苛立ちを、俺に向けられた敵意に寄せることにした。
「お前ら……俺様を裏切り、勇者に擦り寄るとは…」
遠くで、俺の直属の元配下が身を隠したことに気づく。まさか、勇者に下っていたとはな。
「あなた、だれ?」
その短い言葉に、不思議と胸が高鳴った。
な、なんだ…これは。
「……フン、ただの通り過がりだ」
こんな辺鄙な土地は、モンスターくらいしか来ないのかもしれない。しかし、俺は「魔王ナイア」だとは言えなかった。勇者との戦闘を心待ちにしていたというのに、いざこの勇者を見ると「敵」になりたくないという不思議な感情が湧いてくる。
「モンスターを飼いならし、支配者気取りか。
……お前ら、慈悲だ。助けてやる」
俺の顔を知っている奴らは青ざめている。ほんとうに飼い慣らされたようだな。俺より勇者に心を寄せたいらしい。
「来ない奴らは皆殺しだ。この場に居ない奴らも全員連れて行く」
そう言った瞬間、不意に横から勇者に腕を掴まれた。視線を向けると、懸命に俺を説得しようとしていた。その慌てた様子を鼻で笑うと、勇者の腰に腕を回し、引き寄せた。
自分でも、どうしてこんな行動に出たのかわからなかった。ただ、この勇者が俺を見つめているという事実に、どうしようもない昂りを覚えた。
「お前も来るか?」
低い声で、勇者を試すように見つめる。そもそも、こいつの目指す先は俺の城だ。剣を抜くか、説得を続けるか。腰に回した腕に力を加え、さらに引き寄せて勇者の返答を待つ。
牧場のモンスターたちも、お前の答えを待っている。
上空の雲のさらに上、青空のまだ遥か天上から、勇者に加護を与えた女神は微笑みながらこの光景を見つめていた。形はどうあれ、やっと勇者が魔王に対面したのだ。勇者はこの世界の悲願、魔王討伐を果たすのか、それとも……
Fin…
……ハッ、その理屈なら虫が人間を虐殺しても問題ないということになるな。
ナイアのモノローグ1
そんな人間たちは、俺を殺すために勇者を選任したらしい。
「……面白い」
魔王城を中心とした世界全土にわたり、モンスターが人間の生活領域を徐々に侵略している。たった一人の人間が抗うことなど、できるはずもない。俺は改めて魔王軍の編成から、モンスターの配置を見直し、魔法の研鑽、武器の手配を行い、勇者の来訪を待った。
しかし、待てども待てども、勇者選任の知らせ以降、勇者についての情報が届かない。調査に向かわせた配下たちも、情報はおろか姿をくらませた奴もいる始末だ。苛立ちを抑えられず、俺は姿を変えて人間たちの村を渡り歩いた。世界を征服するという計画の前に、あの不穏な存在を排除しておきたい。しかし、どの村の者たちも「勇者はまだ来ていない」と口を揃える。
まさか、この地に来るだけの力もないというのか……?
さらに村を渡り歩いていくと、ある商業都市の居酒屋で、初めて「勇者を知っている」という人間を見つけた。どうやら勇者はこの街によく顔を出すらしい。居場所を聞くと、ここから北、山を越えたところで「モンスター牧場」を作っているという。
絶句した。
モンスター牧場!?
モンスターを奴隷として扱っているのかとも考えたが、何より意味不明なその名称に苛立ちを覚えた。
「……その勇者が作った牧場の場所を教えてくれ」
__
空からその地を見下ろすと、見知った俺の配下の気配がした。
……勇者に捕まっていたのか。
こんなところで道草を食っている奴に負けるなんて、情けない。
静かにその牧場地の中心に降り立ち、周囲を見渡す。地面に足をつけると、柔らかく青々と茂る草むらに小さな花が咲いていた。穏やかな景色、そして吹き抜ける風が花の香りを運ぶ。先程までの苛立ちが凪いでいき、冷静に周囲の気配を探る。
「……驚いたな、こいつは、ドラゴンか」
ナイアですら滅多に会わない伝説級のモンスターの気配に目を見開く。そして、気づくと周りには低レベルのモンスターたちが、俺を遠巻きに観察している。
「フン、雑魚が……」
一歩、奴らの元へ足を踏み出すと、背後から鈴のような声が聞こえ、俺は振り返った。
……勇者だ。
一目で分かった。
纏うオーラは人間のそれではない。腰に差した聖剣、常時展開される魔法耐性の効果。それらから数多の冒険と研鑽が読み取れる。
しかし、勇者は穏やかに俺に手を振っている。この締まりのない表情は一体何だ。
「お前が……勇者?」
俺の言葉に足を止め、まじまじと俺の顔を見つめるその姿に、呆れを通り越して頭痛がする。俺が勇者の肩を掴むと、周囲のモンスターたちは、怯えながらも俺に敵意を向けてきた。
「……勇者、ここは一体なんだ。お前はこんなところで何をしている」
驚いたように見開いたその大きな目、気の抜けたように開く口元。俺はこの何とも言えない苛立ちを、俺に向けられた敵意に寄せることにした。
「お前ら……俺様を裏切り、勇者に擦り寄るとは…」
遠くで、俺の直属の元配下が身を隠したことに気づく。まさか、勇者に下っていたとはな。
「あなた、だれ?」
その短い言葉に、不思議と胸が高鳴った。
な、なんだ…これは。
「……フン、ただの通り過がりだ」
こんな辺鄙な土地は、モンスターくらいしか来ないのかもしれない。しかし、俺は「魔王ナイア」だとは言えなかった。勇者との戦闘を心待ちにしていたというのに、いざこの勇者を見ると「敵」になりたくないという不思議な感情が湧いてくる。
「モンスターを飼いならし、支配者気取りか。
……お前ら、慈悲だ。助けてやる」
俺の顔を知っている奴らは青ざめている。ほんとうに飼い慣らされたようだな。俺より勇者に心を寄せたいらしい。
「来ない奴らは皆殺しだ。この場に居ない奴らも全員連れて行く」
そう言った瞬間、不意に横から勇者に腕を掴まれた。視線を向けると、懸命に俺を説得しようとしていた。その慌てた様子を鼻で笑うと、勇者の腰に腕を回し、引き寄せた。
自分でも、どうしてこんな行動に出たのかわからなかった。ただ、この勇者が俺を見つめているという事実に、どうしようもない昂りを覚えた。
「お前も来るか?」
低い声で、勇者を試すように見つめる。そもそも、こいつの目指す先は俺の城だ。剣を抜くか、説得を続けるか。腰に回した腕に力を加え、さらに引き寄せて勇者の返答を待つ。
牧場のモンスターたちも、お前の答えを待っている。
上空の雲のさらに上、青空のまだ遥か天上から、勇者に加護を与えた女神は微笑みながらこの光景を見つめていた。形はどうあれ、やっと勇者が魔王に対面したのだ。勇者はこの世界の悲願、魔王討伐を果たすのか、それとも……
Fin…
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