シズカ

俺が執事長を任されているこの屋敷は、旦那様が心から大切にしているお嬢様専用の場所だ。

シズカ モノローグ1

当時は屋敷を成人祝いのプレゼントにすると聞いて、親バカもいいところだと思ったし、心の中では甘やかしすぎだとも感じていた。
ある日、旦那様はあいつへのサプライズプレゼントにするため、俺に設計から関わるよう密かに指示をくださった。俺は土地の下見に向かい、旦那様から紹介された建築家に連絡を取る。あいつの家になるのなら、手は抜けない。

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室内は、温もりのある木材を基調に、花のデザインが施されたカーペットや淡い色のカーテンで飾られ、家具も全て俺が選んだ。4歳のころから世話をしてきたから、あいつの好みも十分に分かる。…おそらくだが旦那様や奥様よりも詳しいと思う。

そして、工事もいよいよ仕上がりに近づき、屋敷を出ようとしたその時

「シズカ、最近外出ばかりじゃない。ほとんど屋敷にいないけど、どうして…?」

足を止めて振り返ると、不満そうにむくれたその顔は、どこかまだあどけない。無意識に口元が緩んでしまうのを抑えながら顔を背ける。

「いいから、ガキは部屋で勉強でもしてろ。また変な本読んでサボるなよ。」

あいつの詮索するような目を無視して、言い聞かせると余計に不信感が顔に出ている。軽くため息をつき、「仕事だ」と付け加えて屋敷を出た。
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完成間近の屋敷に着くと、よく知っている後ろ姿を見つける。

「…旦那様、来られていたのですか。」

「シズカか。良い屋敷だな。あの子が気に入りそうだ。」

「ありがとうございます。」とだけ返事をし、旦那様の言葉を待った。おそらく、何か話があるのだろう。

「シズカ、本当にいい屋敷だと思う。…ひとつ、またお願いを聞いてくれないか。」

「はい、なんでしょう。」

旦那様が少し考えるような素ぶりを見せる。まるで俺の反応を窺っているかのようだ。

「シズカ…あの子は来月に成人する…婚約話も来ていることは知っているだろ?」

この話題は苦手だ。どう返すべきか分からない。

「はい、存じています。」

旦那様は優しく微笑み、ゆっくりと話し始めた。

「あの子には幸せになってほしい。できれば、好きな男と結婚させてあげたい。」

「…そうですね。」

あいつの結婚相手は良家の貴族で金持ちで性格も良い男じゃないと俺は認めないだろうと思う。

「この屋敷であの子と夫婦になってくれないか。」

……。

最初は何を言われているのか理解できなかったが、次第に顔が熱くなり始める。そんな俺を旦那様が嬉しそうに見つめていた。

「あの子は昔からシズカのことが好きだったから、見知らぬ他所の家に嫁がせるのは心苦しかったんだ。嬉しいよシズカ。」

「俺ではお嬢様に釣り合いません。…お嬢様には兄弟がいないのですから、良家の子息を婿養子に迎えるべきだと思います。俺は…この屋敷でお嬢様に仕えることにします。」

あいつはまだガキだから、一人で屋敷を管理することなんてできないだろう。…ガキの頃から面倒を見てきたんだ、俺が支えるべきだと思う。そう考えていると、旦那様が笑いながら俺を見ていた。
「ああ、すまない。それでも構わないよシズカ。娘をお願いするよ。」

「…承知しました。」
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新しい屋敷に移ってから、あいつは変わった気がする。心境に何か変化でもあったのだろうか。

「おい、待て。なんだ、そのアクセサリーは。」

見た目を飾る装飾品を好むようになり、ドレスの趣味も変わった。俺の知っているあいつが少しずつ変わっていくのを感じた。

「今度業者を呼んでやる、俺も選ぶからな。」

少し叱るような口調だったかもしれない。しかし、どこで買ったのかも分からないものを身に付けるべきではない。…こいつは旦那様の娘なんだ。成人も済んだのだし、質の良いものを身につけなければ…。そう考えながらあいつを見ると、不貞腐れるどころか、照れたように笑って俺を見つめた。

「この屋敷であの子と夫婦になってくれないか。」

ふと、あの時の旦那様の言葉が頭をよぎる。もし、目の前のこの可愛らしい彼女も、そう望んでくれるなら…と思い至り、すぐにその考えを振り払った。ありえない、あってはいけない。


_仕事が終わり、部屋に戻る。今日、あいつは下着を俺に黙って買っていた。メイドに何を買ったか聞いて、絶句する。

「…あいつは、ほんと…なんなんだ。」

あのガキ…。あんな下着をつけてどうする気なんだ。あいつがどんどん変わっていくことに、俺自身がついていけない。壁にもたれて窓の外を眺めると、月が高い位置まで昇っている。時間が経つにつれ、傾く月が夜空を変えるように、あいつの変化に俺まで変わってしまいそうだ。

Fin…
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