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待っていた男

ーーという事があっての、この状況である。

百鬼丸は500mlの乳飲料のパックを開けてストローを挿し飲み始めたが、しばらくして我に返ったらしい。彼はストローを口から離すと、叱られるのを恐れているような顔をして、おずおずと飲み物を未央に差し出した。

「いいよいいよ、全部飲んじゃって」

未央は両手を振って言った。

「じゃ、遠慮なく……」

百鬼丸はすぐに飲み干してしまうと、畳の上に仰向けにごろりと寝そべった。

「はぁ、満ち足りた」

彼が食べるのを、未央はテーブルの向こう側からずっと見守っていたが、うつらうつらし始めた彼に、悪いなと思いながら(実際悪いのはどう考えても彼の方なのだが)、おずおずと話しかけた。

「ねえ、あなた何しにここへ来たの?」

百鬼丸は薄く目を開けた。

「なんだか、急にみおに会いたくなったから」

そしてまた目を閉じた。

急に会いたくなった?まるで以前から未央の事を知っているような口振りである。そう言われてみると、どこかで会ったような気がしなくもない。だが、こんなにも際立った容姿の人物なのだ。一度会えばそう簡単には忘れはしないだろう。

百鬼丸の閉じた目の長い睫毛を見つめながら、未央は脳内の抽斗をひっくり返してみたが、心当たりはやはり無い。

見ているうちに毒気を抜かれる、あどけない寝顔。

やはりどこかで、会ったことがあるような。

もしかして、かつて保育士をしていた頃の教え子だろうか?

しかし未央には百鬼丸は24、5歳くらいに見えた。とすれば、未央が保育士をしていた頃には、彼は既に小学生以上だったはずだ。

じゃあよく似た弟か妹が、私の受け持ちにいたのかな。

未央が首を捻っていると、

「みお」

百鬼丸は畳に転がったまま、未央の方へ手を差し伸べた。

「なに?」

「すごく、会いたかった」

「そう」

「おれはみおが好きだ。みおは?」

未央はこたえに詰まった。



そもそもあんた、一体誰なのよ。


だが、百鬼丸の言葉はどうやら寝言だったようで、彼は未央の返事を待たずに、幸せそうな顔で寝息を立て始めた。

彼がまさかそのままこの部屋に居候する事になるとは、その時は思いもよらなかった未央だった。


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