たとえばこんな未来
子供たちがわいわいがやがやと、笑ったり泣いたりの賑やかな食卓である。
「沢山あるから遠慮なくお代わりしろよ」
皆と一緒に大きなテーブルにつかされた飛影に、躯が声をかけると、
「しろよ、だってー」
「ママ男の人みたーい」
「いつも僕たちには、乱暴なしゃべり方しないでって言ってるのにぃ」
と口々に子供たちが揚げ足取りをする。
「うるさいねぇ、しょうがないでしょ!古い知り合いに会うと自然と昔の口調に戻っちゃうんだよ」
皆が食べている間も、躯は休みなく動き回っている。食べ盛りの子供たちにお代わりをよそったり、幼児がコップをひっくり返してぶちまけた茶を拭いたりと、大忙しだ。
子供達は食べ終わると、ご馳走さまと言うのもそこそこに、また外へ飛び出し遊び始めた。彼等は飛影と遊びたがったが、母親に「飛影はまだ帰ってきたばかりで疲れてるのよ」と嗜められたのだった。
「お母さん、片付け手伝うからいいよ、少しやすんでて」
と、長男息子が皿を片付ける。
「悪いね、じゃあ頼むよ」
躯はカップを二つ持って食卓の方へ戻って来ると、一つを飛影の前に置いて、彼の隣に大儀そうに腰を下ろした。
「やれやれ、やっと一息つけるぜ。喧しくってかなわねえだろ?」
「……。」
「かつての俺は、こういうのには一生縁がないと思っていた。ガラじゃねぇってな。でも案外楽しいもんだ。こういう忙しさも、賑やかさも」
「……。」
「壁の向こうはどうだった?」
飛影はゆっくり首を振る。
「行けども行けども、なァんもありゃしなかった」
「そうか……。」
「あーん!マァマァァァ!!」
「はいはい、今度はなあに?」
躯はテーブルに手をついて立ち上がる。
泣いている子供の前にしゃがむと、エプロンのポケットからハンカチを出して涙を拭いてやった。
それを眺めていると急に胸が押しつぶされる様な気持ちになり、飛影は静かに席を立ち…………。