古より愛をこめて
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海馬くんに似ている神官セト様と、遊戯くんご本人のファラオと、遊戯くんのおじいさんに似ているシモン様。
そして、千年リングの男の人。
あれ……?
初めましてなのに、どこかで会ったことがあるような気がするのはなんでだろう。
知り合いに似ている人たちと一緒にいるからそう感じるだけなのかな。
「ナナシ様、私の顔に何か付いておりますでしょうか……?」
「いえ、すみません違います何でもないです!」
ハッとして私は首を横に振った。
ずっと人の顔をじろじろと見ていたら失礼だよね……反省。
こちらを伏し目がちに窺 い見ながら、千年リングの男の人は「さようでございますか」と静かに言った。
「フフ。ナナシ、マハードをあまり徒 に見つめてやるなよ。いくらこの国イチの優れた魔術師でも人には得手不得手ってものがあるからな」
「はいっ。以後気をつけます!」
「ファラオ……!」
「ナナシが素直で嬉しいぜ」
千年リングの男の人の名前はマハード様かぁ。
千年アイテムを持つ神官様で、しかも一番すごい魔術師様なんだね。
魔術ってどんなのだろう。見てみたいな。
「神官マハードよ、今頃のこのこと手ぶらで参上するとはな。茶も淹 れず再び王の間へ踏み入った日には貴様の神官としての地位は剥奪されると思え!」
「神官セト……それはファラオがお決めになることだ!」
口元に笑みを浮かべて詰 るセト様を、シモン様が窘 めた。
「くっ……ならばマハードよ、来期の俸給査定を楽しみにしておくことだな!」
「それはこのシモン・ムーランの職分だ!」
なるほど。シモン様は厳格な上司……といった感じかな。
そして、臆せず職域を超えていくセト様もきっとすごく仕事熱心な人だ。
沈黙したまま二人の会話を聞いているマハード様の背中を、ファラオがポンと軽く叩いた。
「マハード、自責の念にとらわれずこれからの茶汲 みを立派に果たしてくれ!」
「は!私めの命に賭けて!」
「……なんて冗談だからな。ツッコんでくれていいんだぜ?」
「申し訳ございません……」
皆をまとめるのは、コミュニケーションのとりやすいツッコミ可の寛大な王 。
ああ、これが社会人の言う『風通しの良い職場』……!
それでも真剣に応答するマハード様からはとても真面目な人柄が伝わってくる。
……うん。少しだけここの人たちのことがわかってきた気がする!
「あのっ、お茶汲みなら私やりますねー!行ってきます!」
「おいナナシっ!」
私は王の間を後にして廊下を抜け、中庭を囲む回廊に駆け出た。
知らない間に皆に迷惑をかけてしまっていたお詫びにここは私が……!
……なんて思って飛び出してきたものの、給湯室ってどこにあるのかな。
まあその辺の人に聞いてみようか。
「お待ちくださいナナシ様!貴女様のお手を煩 わせるくらいならこの私めが!」
名前を呼ばれて振り返ると、私を追いかけてきてくれたらしいマハード様の姿があった。
すごい魔術師様なのにいつも助けてくれて優しい。そんな人だ。
まるで、私のよく知る、あの…………
あの……最上級魔術師の………………
あああ!!
喉 まで出掛かっていたものが一気に溢れ出す。
「ブラックマジシャン!!」
「………………!?」
突然大きな声を出した私に驚き、マハード様はきょとんとした顔で立ち止まった。
そうだよ……物腰柔らかな雰囲気もファラオを見るあの真剣な眼差しも、全部ブラックマジシャンに似ているんだ……!
でもそれは、同じに見えてもきっと遊戯くんの──
「ナナシ、様……?」
引き寄せられるようにマハード様のもとへ足が向かう。
ほとんど無意識だった。
身体をマハード様にぴたりとつけて目を閉じ、頬と手のひらを胸板に添わせる。
触れている場所から力強い拍動と、とても心地よい温もりが伝わってくる。
「嬉しいな……ずっとこうしていられたらいいのに……」
「………………!!」
ソリッドビジョンでは決して触れられない生 の証 が、確かにここにあるんだ。
その事実に、心が、体が、震えてくる。
だって……だって……
だって、他人の空似だとしても魔法衣 を着たらほぼ完全実体化ブラックマジシャンだよ!?
デュエリストなら誰でも感動するよね……!
クリボーとか羊トークンもぎゅーってしてみたいな。似ている生き物どこかにいないかな。やわらかくてもふもふして気持ち良さそうっ。
「ふふ。ブラックマジシャンは固いよねぇ 」
「……ナナシ様!それ以上は、もう……っ!!」
マハード様の切羽詰まったような声で我に返り、私はすぐに一歩離れた。
ファラオから注意を受けたばかりなのにまたやってしまった!しかも、無断で体を密着させるなんてかなりのやらかしを……。
つい、マハード様に重ねて見てしまっていたんだ。
いつも肌身離さず持っていた、自分のブラックマジシャンのことも。
「マハード様、申し訳──」
「この度の非礼を心より深くお詫び申し上げます!誠に申し訳ございません!!」
私が頭を下げるより早く、マハード様は膝を折って跪 いた。
えっ。なんで?これはどういう状況なの……?
謝罪読み謝罪?チェーン?マハード様から順番に効果の処理??
「制御の及ばぬ己自身の至らなさゆえナナシ様にご不快な思いを……」
「えっ。えっ」
「如何 なる罰も受ける所存でございます……!」
マハード様は右の拳を左胸の前できつく握りしめ、唇をかたく引き結んだ。
どうしよう。困ったな。
こうなったらもう日本式最上級謝罪魔術──土下座で対抗するしかない。
「謝らないといけないのは私でマハード様は何も悪くないです!大変申し訳ありませんでしたっ」
「ナナシ様何を!?おやめください!」
平伏する私にマハード様の慌てた様子が窺 い取れる。
よし!この謝罪デュエル、私がもらった……!
「──ナナシ、それは何の遊びだ?」
突然頭上から降ってきた声、それはファラオだった。
ファラオは伏している私の脇に手を入れ、ひょいと持ち上げて起こしてしまった。
気がつけばセト様も一緒で、眉をひそめてこちらを見ている。
「貴女ともあろうお方がそう易々 と地に頭をつけてはなりませんよ」
「はいセト様……重々気をつけます……」
土下座は禁じ手だったみたい。
うぅ、勝利を確信した後の完全敗北……。
「ときにマハードよ、なにゆえ顔を赤らめているのだ?そのように身を屈めたままで」
「……………………」
セト様は未だ跪 いているマハード様に視線を落とした。
「さては」と言って何やら注視していた鋭い目は、やがてじとりとした半目に変わる。
「お気をつけ下さいナナシ様。人畜無害を装 うこの手の輩 が一番始末に負 えないのですよ」
「はい……?」
「こ、これは違うのですナナシ様!私はそのような心算 など一切なく……!」
「はあ……」
どうしよう。何かを一生懸命訴えてくれているけれど話についていけてない。
ファラオはやれやれといった感じで肩をすくめた。
「まあ仕方ないさ。それより隙あらばナナシを籠絡 しようとするセトの方がよっぽどたち悪いぜ」
「なんと人聞きの悪い。籠絡 などせずともナナシ様は既に私の有り余る魅力に惹 かれておられますゆえ……」
「ハァ〜〜〜?自惚 れるのも大概にするんだな!」
「正当な自己評価であると仰 っていただきたい!」
ふふ。ファラオとセト様、また仲良く議論してる。
こういう二人の関係憧れるなぁ。
「……っと、今はそんなことよりナナシに大事な話があるんだ!」
ファラオは「はい解散!」と言って手のひらをパンパンと打ち鳴らし、私の手を引いて回廊をずんずんと歩いてゆく。
もしかしてこれはファラオと二人きり、今度こそゆっくりお話できるチャンスかもしれない!
でも、大事な話って何かな。
連れられた先が恐ろしい反省部屋とかじゃないといいな。
(4話へ続く)
そして、千年リングの男の人。
あれ……?
初めましてなのに、どこかで会ったことがあるような気がするのはなんでだろう。
知り合いに似ている人たちと一緒にいるからそう感じるだけなのかな。
「ナナシ様、私の顔に何か付いておりますでしょうか……?」
「いえ、すみません違います何でもないです!」
ハッとして私は首を横に振った。
ずっと人の顔をじろじろと見ていたら失礼だよね……反省。
こちらを伏し目がちに
「フフ。ナナシ、マハードをあまり
「はいっ。以後気をつけます!」
「ファラオ……!」
「ナナシが素直で嬉しいぜ」
千年リングの男の人の名前はマハード様かぁ。
千年アイテムを持つ神官様で、しかも一番すごい魔術師様なんだね。
魔術ってどんなのだろう。見てみたいな。
「神官マハードよ、今頃のこのこと手ぶらで参上するとはな。茶も
「神官セト……それはファラオがお決めになることだ!」
口元に笑みを浮かべて
「くっ……ならばマハードよ、来期の俸給査定を楽しみにしておくことだな!」
「それはこのシモン・ムーランの職分だ!」
なるほど。シモン様は厳格な上司……といった感じかな。
そして、臆せず職域を超えていくセト様もきっとすごく仕事熱心な人だ。
沈黙したまま二人の会話を聞いているマハード様の背中を、ファラオがポンと軽く叩いた。
「マハード、自責の念にとらわれずこれからの茶
「は!私めの命に賭けて!」
「……なんて冗談だからな。ツッコんでくれていいんだぜ?」
「申し訳ございません……」
皆をまとめるのは、コミュニケーションのとりやすいツッコミ可の寛大な
ああ、これが社会人の言う『風通しの良い職場』……!
それでも真剣に応答するマハード様からはとても真面目な人柄が伝わってくる。
……うん。少しだけここの人たちのことがわかってきた気がする!
「あのっ、お茶汲みなら私やりますねー!行ってきます!」
「おいナナシっ!」
私は王の間を後にして廊下を抜け、中庭を囲む回廊に駆け出た。
知らない間に皆に迷惑をかけてしまっていたお詫びにここは私が……!
……なんて思って飛び出してきたものの、給湯室ってどこにあるのかな。
まあその辺の人に聞いてみようか。
「お待ちくださいナナシ様!貴女様のお手を
名前を呼ばれて振り返ると、私を追いかけてきてくれたらしいマハード様の姿があった。
すごい魔術師様なのにいつも助けてくれて優しい。そんな人だ。
まるで、私のよく知る、あの…………
あの……最上級魔術師の………………
あああ!!
「ブラックマジシャン!!」
「………………!?」
突然大きな声を出した私に驚き、マハード様はきょとんとした顔で立ち止まった。
そうだよ……物腰柔らかな雰囲気もファラオを見るあの真剣な眼差しも、全部ブラックマジシャンに似ているんだ……!
でもそれは、同じに見えてもきっと遊戯くんの──
「ナナシ、様……?」
引き寄せられるようにマハード様のもとへ足が向かう。
ほとんど無意識だった。
身体をマハード様にぴたりとつけて目を閉じ、頬と手のひらを胸板に添わせる。
触れている場所から力強い拍動と、とても心地よい温もりが伝わってくる。
「嬉しいな……ずっとこうしていられたらいいのに……」
「………………!!」
ソリッドビジョンでは決して触れられない
その事実に、心が、体が、震えてくる。
だって……だって……
だって、他人の空似だとしても
デュエリストなら誰でも感動するよね……!
クリボーとか羊トークンもぎゅーってしてみたいな。似ている生き物どこかにいないかな。やわらかくてもふもふして気持ち良さそうっ。
「ふふ。ブラックマジシャンは固いよねぇ 」
「……ナナシ様!それ以上は、もう……っ!!」
マハード様の切羽詰まったような声で我に返り、私はすぐに一歩離れた。
ファラオから注意を受けたばかりなのにまたやってしまった!しかも、無断で体を密着させるなんてかなりのやらかしを……。
つい、マハード様に重ねて見てしまっていたんだ。
いつも肌身離さず持っていた、自分のブラックマジシャンのことも。
「マハード様、申し訳──」
「この度の非礼を心より深くお詫び申し上げます!誠に申し訳ございません!!」
私が頭を下げるより早く、マハード様は膝を折って
えっ。なんで?これはどういう状況なの……?
謝罪読み謝罪?チェーン?マハード様から順番に効果の処理??
「制御の及ばぬ己自身の至らなさゆえナナシ様にご不快な思いを……」
「えっ。えっ」
「
マハード様は右の拳を左胸の前できつく握りしめ、唇をかたく引き結んだ。
どうしよう。困ったな。
こうなったらもう日本式最上級謝罪魔術──土下座で対抗するしかない。
「謝らないといけないのは私でマハード様は何も悪くないです!大変申し訳ありませんでしたっ」
「ナナシ様何を!?おやめください!」
平伏する私にマハード様の慌てた様子が
よし!この謝罪デュエル、私がもらった……!
「──ナナシ、それは何の遊びだ?」
突然頭上から降ってきた声、それはファラオだった。
ファラオは伏している私の脇に手を入れ、ひょいと持ち上げて起こしてしまった。
気がつけばセト様も一緒で、眉をひそめてこちらを見ている。
「貴女ともあろうお方がそう
「はいセト様……重々気をつけます……」
土下座は禁じ手だったみたい。
うぅ、勝利を確信した後の完全敗北……。
「ときにマハードよ、なにゆえ顔を赤らめているのだ?そのように身を屈めたままで」
「……………………」
セト様は未だ
「さては」と言って何やら注視していた鋭い目は、やがてじとりとした半目に変わる。
「お気をつけ下さいナナシ様。人畜無害を
「はい……?」
「こ、これは違うのですナナシ様!私はそのような
「はあ……」
どうしよう。何かを一生懸命訴えてくれているけれど話についていけてない。
ファラオはやれやれといった感じで肩をすくめた。
「まあ仕方ないさ。それより隙あらばナナシを
「なんと人聞きの悪い。
「ハァ〜〜〜?
「正当な自己評価であると
ふふ。ファラオとセト様、また仲良く議論してる。
こういう二人の関係憧れるなぁ。
「……っと、今はそんなことよりナナシに大事な話があるんだ!」
ファラオは「はい解散!」と言って手のひらをパンパンと打ち鳴らし、私の手を引いて回廊をずんずんと歩いてゆく。
もしかしてこれはファラオと二人きり、今度こそゆっくりお話できるチャンスかもしれない!
でも、大事な話って何かな。
連れられた先が恐ろしい反省部屋とかじゃないといいな。
(4話へ続く)
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