古より愛をこめて
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
海馬くんに似た男の人の後について、宮殿と思われる一際大きな建物の中を歩いてゆく。
世界遺産……というよりも、古い歴史そのものの中に迷い込んでしまったような不思議な感覚だ。
テーマパークにしてはあまりにもよくでき過ぎている。
もしかしてこの先には本当にファラオが……?だとしたら、ここは古代のエジプトってことなのかな?
まさか時間と空間を飛び越えてしまうなんて。
急には信じられないけど、とても大変なことになってしまった気がする……。
広い廊下の両端に並び控えているのは、腰布を巻いた姿で手に槍を携 え、こちらに頭 を垂れる男の人たち。
わあ。海馬くんに似た人、すっごく偉い人なんだろうな……。
頭を下げる男の人たちの前を私も一緒に通るのがなんだか申し訳なくて、ひたすら右へ左へ繰り返し素早くお辞儀をしながら歩く。
そんな私の様子を見て、海馬くんに似た人は一瞬の真顔の後、くつくつと声を漏らして笑い出した。
「おやおや。本日のナナシ様は随分と調子がよろしいようで」
「はい、元気です!」
「フ……貴女の御心弾まれているお姿の珍しきことよ。さてはこの私への恋慕 の情の表れとお見受けいたしますが」
私、心が弾んで……?
あっ……ああああ!お辞儀のスピードが速すぎてノリノリでヘドバンしていると思われてしまったんだ!
誤解とはいえ、この場にそぐわない不謹慎な行いをしてしまったことに対する申し訳なさと恥ずかしさで一気に顔が熱くなる。
「た、大変失礼いたしました!これは……あの……!」
「ククク。おっしゃらずともわかっておりますよ。照れていらっしゃるのも肯定と受け取りましょう」
海馬くんに似た人は屈 んで私の顔を覗き込む。
それから私の頬をそっと指の背で撫でると「続きはまた後ほど、ゆっくりと……」と言い、再び前へ向き直った。
続き……?怒っているような感じはないし、ヘドバン許されたのかな。
ふー。優しい人で良かった。
そうこうしているうちに、とても広く開けた一室へと着いた。
重厚感のある空気が漂 い、思わず息をのむ。
「さあナナシ様、王の間でございます。玉座でファラオがお待ちかねですからどうぞ前へ」
「はい、わかりました……」
海馬くんに似た人に促 され、緊張で俯 いたまま恐る恐るこの先の玉座へ向かう。
本当に古代エジプトのファラオだとして、もし私が現人神 でもあるファラオの機嫌を損ねるようなことをしてしまったら……。
それこそ一生帰れなくなってしまうかもしれない。
そもそも、どうして私は今ファラオと会うことになっているんだっけ?
今日から新番組『MEは何しに古代エジプトへ?』始まっちゃう……?
「ナナシ!」
前方から私の名前を呼ぶ大きな声がした。
思わずびくりと肩が上がり、足が止まる。
王の間に響くのは床を鳴らす硬質な靴音。そしてそれは、徐々に速さを増して近づいてくる。
厳 かに靡 く紫色のマント、首に下がる黄金の千年パズル──
顔を上げると、そこにはよく見知った友達の姿があった。
「あ……」
ファラオって……ファラオって……!
「遊戯く──」
「どこへ行っていたんだナナシ!」
ファラオは遊戯くんだった!
こんなにそっくりさん絶対他にいないし、自分は古代エジプトの時代の王の魂だって言ってたもんね!
ちょっと安心した……。
……と思ったのも束の間、遊戯くんの胸元に引き寄せられ強く抱きしめられてしまい声を出すことはおろか息さえできない。
千年パズルを後ろに回してくれたおかげで致命傷は免 れたけれど。
「食事の時間になっても来ないし、寝室へ探しに行っても見つからない!わかるか?オレがどんな思いでお前のベッドに入って残り香で憂 さを紛 らわしたか……!」
「ファラオよ、公 の場で突然フェティシズムの告白をするのは如何 なものかと思いますが。貴方がそのようなことだからナナシ様がお逃げになるのでは?」
「ハ、うるさいぜセト。オレがいつナナシに逃げられたというんだ?何時何分カリムが何回腕立てをした時?」
「ぐっ……そのような舌先三寸の子供騙しを!いつと言うまでもなく毎時毎分ではありませんか!」
何かを言い合う声が酸欠の頭にふわふわとこだまする。
もうだめ苦しい……私このまま遊戯くんの腕の中で処 されるのかな……。
かろうじて周囲に視線を流すと、遊戯くんのおじいさんに似た人と目が合った。
「口を慎 まんか神官セト!ファラオもいい加減ナナシ様をお離しにならないと窒息死いたしますぞ!」
「おっと、すまないナナシ……!大丈夫か!?」
「……ぷはぁぁ…………!はぁ……はぁ……」
助かったぁ…………。
遊戯くんの腕から解放されて、飛びかけていた意識が戻ってくる。
記憶にあるはずのない古代エジプト生活のビジョンが走馬灯のように見えたよ……。危ない危ない。
「で、結局どこへ行っていたんだ?」
「中庭でお休みになっていただけですよ」
まだまともに話せない私の代わりに海馬くんに似た男の人が答えてくれた。
知らない間に迷惑をかけてしまっていたみたいだ。
とにかく呼吸を整えて、 深く頭を下げる。
「……はい。無断で立ち入ってしまい申し訳ありませんでした……」
「は?どうしたんだナナシ。別に立ち入り禁止になんかしてないぜ」
「そ、そうでしたか」
寛大なファラオで良かったよー。
現代ではお友達でも、ここでは初対面だもんね。
私は見知らぬ一般人でしかないから身の程をわきまえないと……。
……って、あれ?
それなら何故みんな私のことを知っているんだろう……?
「セトはナナシの半径3メートル以内への立ち入り禁止な!」
「御冗談を。半径3メートル範囲外への立ち退き禁止なら承諾いたしますよ」
「冗談じゃないぜ!」
あっ、海馬くんに似た人の名前はセト様っていうんだ!
海馬くんと名前が一緒で顔も似てるなんて偶然ってすごいなぁ。もしかして前世とかだったりするのかな。
「神の化身たるファラオと千年アイテムに選ばれし神官が仕様もない口喧嘩をするとは……なげかわしや〜〜〜」
「お言葉ですがシモン様、これは単なる口喧嘩などではありませぬ。言うなれば『合』 に至るための『止揚』 ……」
「弁証法ってやつだぜ!シモン!」
「何の結論も成果も得られておりませんぞ……」
シモン様と呼ばれた遊戯くんのおじいさんに似た人は、深い溜め息をついた。
ふふふ。セト様は海馬くんと雰囲気が違うなと思っていたけど、こういう二人の掛け合いがいつもの海馬くんと遊戯くんを見ているようで何だかホッとする。
よし、少し気持ちも落ち着いてきたところで私自身のことについて改めて聞いてみよう。
「ところであの、私は一体──」
「ナナシ様戻られましたか!」
言いかけたところで王の間に男の人が一人、足早に入って来た。
そして、やはり当然のように私の名前を呼んだ。
「ああ。もう大丈夫だぜ」
「は!安心いたしました」
今来たこの男の人も千年アイテム──現代ではバクラくんが持っている千年リング──を首から下げている。
多分、セト様と同じで偉い人なんだろうな。
そして、同じように遊戯くん……とは呼べないか、ファラオから私を探すように命じられていたんだよね。きっと。
他にお仕事もあっただろうに。身に覚えのないこととはいえ、罪悪感がすごい……。
「この度はお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした……」
「いえ、私めにそのような謝罪は……!ナナシ様がご無事で何よりです!」
「ううっ……ありがとうございます。お優しいのですね」
「……滅相 もないことでございます」
千年リングの男の人は少し不思議そうに目を瞬 かせた後、小さく微笑んだ。
(3話へ続く)
世界遺産……というよりも、古い歴史そのものの中に迷い込んでしまったような不思議な感覚だ。
テーマパークにしてはあまりにもよくでき過ぎている。
もしかしてこの先には本当にファラオが……?だとしたら、ここは古代のエジプトってことなのかな?
まさか時間と空間を飛び越えてしまうなんて。
急には信じられないけど、とても大変なことになってしまった気がする……。
広い廊下の両端に並び控えているのは、腰布を巻いた姿で手に槍を
わあ。海馬くんに似た人、すっごく偉い人なんだろうな……。
頭を下げる男の人たちの前を私も一緒に通るのがなんだか申し訳なくて、ひたすら右へ左へ繰り返し素早くお辞儀をしながら歩く。
そんな私の様子を見て、海馬くんに似た人は一瞬の真顔の後、くつくつと声を漏らして笑い出した。
「おやおや。本日のナナシ様は随分と調子がよろしいようで」
「はい、元気です!」
「フ……貴女の御心弾まれているお姿の珍しきことよ。さてはこの私への
私、心が弾んで……?
あっ……ああああ!お辞儀のスピードが速すぎてノリノリでヘドバンしていると思われてしまったんだ!
誤解とはいえ、この場にそぐわない不謹慎な行いをしてしまったことに対する申し訳なさと恥ずかしさで一気に顔が熱くなる。
「た、大変失礼いたしました!これは……あの……!」
「ククク。おっしゃらずともわかっておりますよ。照れていらっしゃるのも肯定と受け取りましょう」
海馬くんに似た人は
それから私の頬をそっと指の背で撫でると「続きはまた後ほど、ゆっくりと……」と言い、再び前へ向き直った。
続き……?怒っているような感じはないし、ヘドバン許されたのかな。
ふー。優しい人で良かった。
そうこうしているうちに、とても広く開けた一室へと着いた。
重厚感のある空気が
「さあナナシ様、王の間でございます。玉座でファラオがお待ちかねですからどうぞ前へ」
「はい、わかりました……」
海馬くんに似た人に
本当に古代エジプトのファラオだとして、もし私が
それこそ一生帰れなくなってしまうかもしれない。
そもそも、どうして私は今ファラオと会うことになっているんだっけ?
今日から新番組『MEは何しに古代エジプトへ?』始まっちゃう……?
「ナナシ!」
前方から私の名前を呼ぶ大きな声がした。
思わずびくりと肩が上がり、足が止まる。
王の間に響くのは床を鳴らす硬質な靴音。そしてそれは、徐々に速さを増して近づいてくる。
顔を上げると、そこにはよく見知った友達の姿があった。
「あ……」
ファラオって……ファラオって……!
「遊戯く──」
「どこへ行っていたんだナナシ!」
ファラオは遊戯くんだった!
こんなにそっくりさん絶対他にいないし、自分は古代エジプトの時代の王の魂だって言ってたもんね!
ちょっと安心した……。
……と思ったのも束の間、遊戯くんの胸元に引き寄せられ強く抱きしめられてしまい声を出すことはおろか息さえできない。
千年パズルを後ろに回してくれたおかげで致命傷は
「食事の時間になっても来ないし、寝室へ探しに行っても見つからない!わかるか?オレがどんな思いでお前のベッドに入って残り香で
「ファラオよ、
「ハ、うるさいぜセト。オレがいつナナシに逃げられたというんだ?何時何分カリムが何回腕立てをした時?」
「ぐっ……そのような舌先三寸の子供騙しを!いつと言うまでもなく毎時毎分ではありませんか!」
何かを言い合う声が酸欠の頭にふわふわとこだまする。
もうだめ苦しい……私このまま遊戯くんの腕の中で
かろうじて周囲に視線を流すと、遊戯くんのおじいさんに似た人と目が合った。
「口を
「おっと、すまないナナシ……!大丈夫か!?」
「……ぷはぁぁ…………!はぁ……はぁ……」
助かったぁ…………。
遊戯くんの腕から解放されて、飛びかけていた意識が戻ってくる。
記憶にあるはずのない古代エジプト生活のビジョンが走馬灯のように見えたよ……。危ない危ない。
「で、結局どこへ行っていたんだ?」
「中庭でお休みになっていただけですよ」
まだまともに話せない私の代わりに海馬くんに似た男の人が答えてくれた。
知らない間に迷惑をかけてしまっていたみたいだ。
とにかく呼吸を整えて、 深く頭を下げる。
「……はい。無断で立ち入ってしまい申し訳ありませんでした……」
「は?どうしたんだナナシ。別に立ち入り禁止になんかしてないぜ」
「そ、そうでしたか」
寛大なファラオで良かったよー。
現代ではお友達でも、ここでは初対面だもんね。
私は見知らぬ一般人でしかないから身の程をわきまえないと……。
……って、あれ?
それなら何故みんな私のことを知っているんだろう……?
「セトはナナシの半径3メートル以内への立ち入り禁止な!」
「御冗談を。半径3メートル範囲外への立ち退き禁止なら承諾いたしますよ」
「冗談じゃないぜ!」
あっ、海馬くんに似た人の名前はセト様っていうんだ!
海馬くんと名前が一緒で顔も似てるなんて偶然ってすごいなぁ。もしかして前世とかだったりするのかな。
「神の化身たるファラオと千年アイテムに選ばれし神官が仕様もない口喧嘩をするとは……なげかわしや〜〜〜」
「お言葉ですがシモン様、これは単なる口喧嘩などではありませぬ。言うなれば
「弁証法ってやつだぜ!シモン!」
「何の結論も成果も得られておりませんぞ……」
シモン様と呼ばれた遊戯くんのおじいさんに似た人は、深い溜め息をついた。
ふふふ。セト様は海馬くんと雰囲気が違うなと思っていたけど、こういう二人の掛け合いがいつもの海馬くんと遊戯くんを見ているようで何だかホッとする。
よし、少し気持ちも落ち着いてきたところで私自身のことについて改めて聞いてみよう。
「ところであの、私は一体──」
「ナナシ様戻られましたか!」
言いかけたところで王の間に男の人が一人、足早に入って来た。
そして、やはり当然のように私の名前を呼んだ。
「ああ。もう大丈夫だぜ」
「は!安心いたしました」
今来たこの男の人も千年アイテム──現代ではバクラくんが持っている千年リング──を首から下げている。
多分、セト様と同じで偉い人なんだろうな。
そして、同じように遊戯くん……とは呼べないか、ファラオから私を探すように命じられていたんだよね。きっと。
他にお仕事もあっただろうに。身に覚えのないこととはいえ、罪悪感がすごい……。
「この度はお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした……」
「いえ、私めにそのような謝罪は……!ナナシ様がご無事で何よりです!」
「ううっ……ありがとうございます。お優しいのですね」
「……
千年リングの男の人は少し不思議そうに目を
(3話へ続く)
3/14ページ