短編夢
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「このシュークリームおいしいね獏良くん!」
「ふふ。あそこは隠れた名店なんだ」
並んでニコニコとシュークリームを食べ歩く獏良とななしの二人の姿は、なんとも微笑ましい。
ななしがあまりにもおいしそうに食べるので、獏良も放課後苦労して(ライバルたちを出し抜いて)ななしを誘った甲斐があったというものだろう。
(シュークリーム食べてるななしちゃん可愛いなぁ。あの店の前で食べてたら、不●家にペコちゃんを置く以上の効果があるよ)
「気に入ってくれたなら今度また一緒に行かない?」
「うん行く行く!」
「じゃあ決まりだね」
(これでななしちゃんとまた一緒に帰れる)
自身の好物ではあるものの、シュークリームは単なる口実でしかなかった。
好きな女子との下校はやはりロマンなのだ。
だが人通りの少ない道に差し掛かった時、突如二人の前にいかにもガラの悪そうな男三人が立ち塞がった。
「よう兄ちゃん可愛い彼女連れてるじゃねえか」
「お嬢ちゃん、そんななまっちろい奴はほっといて俺たちと遊ぼうぜー?」
男たちはななしを舐め回すように見て下卑た笑みを浮かべる。
獏良はそんな男たちの視線からななしを庇うかのように一歩前へ出た。
「やめてくれないかな。ボクの大切な人なんだ」
「あぁん?てめぇはすっこんでな!」
ゴス!!
鈍い音を立て、獏良は男の一人に殴り飛ばされた。
「了くんっ!!」
ななしは倒れた獏良のもとへ駆け寄ろうとするが、男の腕がななしを捕えてそれを許さなかった。
「やめてっ、放して!」
「まぁまぁ、俺達が楽しいところに連れて行ってやるからさぁ」
「ひひひ!おとなしくしなぁ!」
男たちがななしを連れ去ろうとした、その時だった。
ドン★
「おい貴様ら……」
髪の毛のデビルウィングと鋭い眼光。
(あ、あれは……)
ぬっと立ち上がったのは、獏良の千年リングに宿る闇の人格──バクラだった。
「なんだコイツ、さっきと雰囲気が違うぞ!」
バクラが放つ凄まじい殺気に、男たちは全身が粟立つのを感じた。
「ななしを連れて行こうってのかぁ?……相当このオレ様にブチ殺されてぇようだな!!」
千年リングが光った次の瞬間、男たちは地面にへばりついていた。
「ぐ……っ!」
「……うぅ……」
「うあ……あ……」
バクラは仁王立ちになって冷酷な眼差しで見下す。
「簡単に死なれちゃ面白くねえからよぉ、たっぷりと苦痛を味わってもらおうか」
(ひいいい!た、助けっ……!)
言葉にならない苦悶の声をあげる男の腹部を、バクラは思い切り踏みつけようと足を振り上げる。
が、その瞬間。
「バクラくんストップ !」
ななしの一声で、バクラの足が男を踏みつける寸前のところでピタリと止まった。
「あのね、急がないと了くんが楽しみにしてるテレビ番組に間に合わなくなっちゃう!」
「……あぁ?番組だと?」
ななしはいとも簡単に空気を切り裂いた。
もはや空気が読めないという次元ではない。
「チッ……てめぇら命拾いしたな。
わかった、行こうぜななし」
「うんっ」
半ば毒気を抜かれたバクラはななしと連れ立って歩き出す。
(((あの……俺たちは!?)))
金縛りが解けず、未だ地面と仲良くしている三人の男たち。
どうやらバクラは罰ゲームとしてこのまま放置プレイをするつもりらしい。
彼に目を付けられてこの程度で済むなら幸いといってよいだろう。
しばらく歩いたところでふと、ななしが足を止める。
「ねえバクラくん」
「何だ?」
「さっきのバクラくん、日曜朝の特撮ヒーローみたいでかっこよかったよ!助けてくれてありがとう!」
子ども向け日曜朝の番組に彼のようなヒーローがいたらたまったものではない。
PTAで問題になってすぐに深夜枠への移行は間違いないだろう。
「ククク……オレ様は単なる殺戮者でしかねぇがよ、ななしのためだけにならヒーローにだってなるぜ」
「私にだけ?バクラくんは謙虚だね」
(ど、どういうことだ!?)
ある種の鈍さを極めているななしにはバクラのクサイ台詞が伝わらない。
「あと了くんにも言いたいことがあって……少しいいかな?」
(これからがいいトコだってのにオレ様のターンは中断なのか……)
「宿主か……仕方ねぇ」
「ご、ごめんね!またたくさんお話ししようね!」
(まあいい、最後にななしの愛を手に入れるのはこのオレ様なんだからよぉ!)
ドン★
「あれ?ボクは何を……?あっ、そうだななしちゃんが!!」
「ここにいるよー」
「……!良かったぁ。あいつらは?」
「あの人たちはバクラくんがね……」
ななしは先程のことを獏良に説明する。
その間に獏良はさりげなく千年リングを外しておいた。
この後すぐにまたバクラが出てくることを予測したに違いない。
「そういうことだったんだ。ボクは何もできなくってさ……情けないね」
「ううん、そんなことない!了くんが私を守ろうとしてくれたことすごく嬉しかった!だから……」
一呼吸おいて、ななしは極上の微笑みで続けた。
「だからありがとう、了くん」
「……どういたしまして!」
思わず見惚れてしまい獏良は一瞬放心していたが、自身もとびきりの笑顔で返した。
「ななしちゃん、駅まで送るからそろそろ行こうか」
「あ、でも了くんはこれから見たい番組が……」
「ああそれなら録画予約してあるから大丈夫だよ」
「そうなんだ!じゃあ駅まで一緒にお願いします!」
二人は駅までの道を仲良く歩き出す。
「今日録画した古代エジプトの特番なんだけどさ、今度の休みに一緒に見ない?」
「うん見る見る!楽しみだなぁ」
またちゃっかりアポ取りに成功をする獏良だった。
fin.
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