短編夢
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外を吹く風は冷たく、身も心も凍えそうな晩冬の折。
オレ様は部屋でベッドに横たわり、ただぼんやりと天井を見つめていた。自覚症状は発熱、喉の痛み、倦怠感ってところか。
つまり、そう──風邪をひいちまったワケだ。厳密に言えば、宿主サマが。
だが、今のオレは風邪ウイルスの野郎に心の底から感謝してるぜ。なんたってななしが放課後、見舞いに来てくれることになっているんだからな。
「ククク、ハハッ……ヒャハハハハ!」
おっといけねぇ。興奮したら熱が一段と上がった気がするぜ。まあ、オレ様からすれば大したことねえが。
しかしまだ時間があるな。少し寝ておくか。
***
──ピンポーン。
……ん……ななし、か!?
風邪なんざ何の其の。玄関へ向かう足取りも軽いぜ。
……いや、待てよ。
ここは重症を装ってななしの手厚い看病を受けるべきだよな。ゲホッ、ゴホ……よし、これでいいだろう。
「……あっ、バクラくん大丈夫?」
玄関のドアを半分ほど開けると、ななしが息を白くして心配そうにオレの顔を覗き込んできた。
つ、ついに二人だけの甘い時間が始まるぜ……!
「ああ。寒い中わざわざ悪かったな。さあ中へ入っ──」
「ようバクラ。待たせたな」
「オレも来てやったぜぇ」
「──ななしだけ入ってくれ」
はあ!?なんで当然のような顔をして遊戯とマリクの野郎までいやがるんだ!
てめぇらはお呼びじゃねえ!
ななしを中へ引き込んで素早くドアを閉めようと試みたものの、遊戯がドアに足を挟んで阻止しやがった。
どこの悪質セールスマンだよ。
「ごめんね、驚かせちゃって……さっき偶然そこで会ってね 、二人ともバクラくんが心配だから一緒に行きたいって……」
「いや、ななしは気にしなくていい」
心配だと?笑わせんな。遊戯もマリクも意図的にななしを追って邪魔しに来たくせによ。
オレ様が奴らを睨みつけると、遊戯はふてぶてしく「フフ」と笑った。
「“
「それは
悪そうな顔してるだろ。ウソみたいだろ。王サマなんだぜ、こいつ……。
まあそれは、ともかく。
玄関に霧が発生しているわけだが……?
「おいマリク、貴様は何してんだ」
「あぁ?アルコール散布してやってるんだよ。消毒消毒……」
「それファ●リーズじゃねぇか!貴様はいっぺん頭ん中を消毒しやがれ!」
オレはマリクの手からファ●リーズのスプレーボトルを取り上げる。
すると、遊戯が相変わらずの腹立つ笑みでこっちを指さしてきた。
「バクラ、そいつは万能なんだぜ。香水としても使えるしな。オレもいつでもどこでも気軽にファブっちゃうぜ」
「そういえば遊戯くん、いつもさわやかリフレッシュの香りがしてる!」
「どんだけファ●リーズ至上主義なんだよ!だいたいなぁ、用途以外には使用するなって注意書が……!っう……」
突然視界がぐるりと回り、思わず壁に手をつく。クソ。目眩がするぜ。
「ピピピピピピピピ……ピロン♪(裏声)」
うるせぇマリク。勝手にオレ様のライフを減少させんな。
もう相手にするのもめんどくせぇ。
「バクラくん、早くベッドで横になったほうがいいよね……歩けそう?」
「ああ。悪いが、ちいと肩を借りるぜ」
ななしがオレの体を支えて、寝室へ促そうとしてくれる。
華奢なその体で、懸命にオレを……。
だが、この機会だ。もう少しだけ体を預けてななしのぬくもりを感じてやるぜ……!
「今すぐななしから2フィート以上離れろ!このイカサマ下衆野郎!」
「オレが運んでやるから安心しなぁ!」
「ぐあぁっ!」
遊戯による精神攻撃とマリクによる物理攻撃を受け、床と『こんにちは』するハメになったオレ様は、二人に片足ずつ持たれてズルズルと寝室まで引き摺られていく。
病人に対してこの仕打ちかよ。殺す気か。
「え……ちょっと待って遊戯くんマリくん!バクラくんは体調悪いんだから
ああ!唯一オレ様を憂えてくれる救世主。ななしという名の女神サマ。
「すまない。つい、昨日観た映画のセリフを言ってみたくなったんだ」
「つい、昨日観た映画のシーンを再現してみたくなったんでね」
ふざけんな。現実と虚構の区別もつかねえのか。
オレ様が復調したら、貴様らは必ずこの世から除外してやるぜ……。
***
鬼畜どもの魔の手をどうにか
「熱、どのくらいかな」
ななしはオレの前髪をそっとかき上げて、
ひやりと冷たい感触が心地良い。
「わあ、熱い……結構ありそうだね」
「そうか」
「うん。比べてみる?」
次の瞬間、目の前にはななしの顔。こつん、と小さな音をたてて、オレとななしの額が合わさった。
おい。何だこの最高にドキ胸なシチュエーションは。こんなの恋人同士でしかありえねぇ行為だろ……なあ、ななし……!
オレ様は
すぐさま遊戯がオレからななしを引き離し、両肩を掴んでくるりと自分のほうへ向き直させていた。
「ななし、ダメだ!キープ・ディスタンス!おでここっつんなんてしちゃいけない!」
「ご、ごめんなさいっ」
「そいつには体温計を口にでも突っ込んでおけばいいんだ!あと尻にはネギを突っ込むとかよ!」
「えっ、ネギをお尻に……?えっ?」
「ななしに怪しい民間療法を教えんな!」
期待できる効果よりリスクのほうがデケェだろ。どんな罰ゲームだよ。
クソっ、額に残る優しい感触の余韻に浸る暇もねえ……。
「そうだバクラくん、何か温かいものでも飲む?生姜湯とかレモンのはちみつ漬けとか買ってきてみたんだけど、どうかな?」
「そうだな……それじゃあ、はちみつレモンを頼む」
「オレも同じのでいいぜ」
「しれっと便乗してんじゃねえよ遊戯!」
貴様の言っていた“為す偽善”てのはどんな効果だ?いつ発動する?
上辺だけでも見舞いに来た
「今用意してくるから二人ともちょっと待っててね。バクラくん、キッチン借りるね」
「……ああ。何でも適当に使ってくれ」
「はーい」と返事をして寝室から出ていくななしの背を、オレ様は見送る。甲斐甲斐しく動いてくれるななしが本当に愛おしいぜ。
だが、早く戻ってきてくれ。この状況で
「バクラ、そもそもなぜ貴様が表に出て療養してるんだ?」
「宿主は
「ハ、嘘だな!ななしの看病目当てなのはわかってるぜ!」
「わかってんなら聞いてくんな!」
あーはいはいそうですよ。ななしと二人きりで過ごす甘い時間をすこぶる楽しみにしていましたよ。それを貴様らが台無しに──ん?
そうだった、厄介な野郎がもう一人いたな。
「おい遊戯、マリクはどこ行った?」
「奴なら向こうでTVゲームでもやってるんじゃないか?勝手に遊ばせておけばいい」
「いいわけねえだろ。あの
ちょうどその時、リビングの方から「おいおい、みんな逆走してるぜぇ?楽勝だなぁアハハハハ!」という大きな独り言が聞こえてきた。
マ●カか……逆走してんのはてめぇだろ。おめでたい奴め。
それから程なくして、ななしが寝室に戻ってきた。
「お待たせっ、ホットはちみつレモン作ってきたよー」
ななしはカップの乗ったトレーをベッドサイドテーブルに下ろし、そこからひとつのカップをオレ様のほうにそっと差し出してくれた。
ふわりと立ち上る湯気から、甘く爽やかな香りが漂ってくる。
「はい、バクラくん。よく混ぜてきたから飲みやすい温度になってると思うけど、気をつけてゆっくり飲んでね」
「ああ。ありがとよ……」
皮肉でも何でもない、純粋な感謝の言葉が思わず口から漏れた。
……フッ、オレ様もすっかり人間くさくなっちまったもんだ。とんだアイデンティティ・クライシスだ。
だが、隣で微笑むななしの穏やかな顔を見ていると、それも悪くねえと思っちまうのさ。
……なあんて感傷的な気分を一瞬でブチ壊してくるのが、この男──
「ななし!オレはキングオブ猫舌なんだが、ななしの呼気でもう少しだけ冷ましてくれないか?」
「え、えっと……ふーふーしちゃっていいの?」
「ふーふーしちゃってくれ」
甘えやがって遊戯の野郎……!
だがしかし、唇を小さく突き出して息を吹きかけているななしの仕草……たまらねえぜ……。
決めた。今日からオレ様も猫舌だ。
──それからまた、色々あった。
ゲームを終えたマリクが今度は遊戯とデュエルをおっ始めたり、ななしが額に熱冷ましのシートを貼ってくれたり、遊戯がネギを鼻に詰めようとしてきたり、ななしが卵がゆを作ってくれたり、マリクが電気ケトルを直火にかけたり……。
幸と不幸の波状攻撃で気が狂いそうだ!
ななしに免じてどうにか
***
「バクラくん、今日はあたたかくして早めに休んでね。またね」
「ななしと過ごした時間はオレ様にとってとても幸せなものだったぜ。ななしが来てくれたことを本当に嬉しく思う」
「フ……オレに対しての当て付けか知らないがセリフが英文和訳みたいになってるぜ、バクラ!」
「うるせぇ遊戯!貴様は黙ってろ!」
覚えとけよ。この
「おいななし、オレが風邪ひいても看病しに来てくれるよなぁ?」
「もちろんだよマリくん!あ、でも……マリくんには優しいイシズさんとリシドさんがついているから安心だねっ」
それを聞いてマリクは眉を
優しくされてんのは主人格のほうだけだよなぁ……ククク。
「だがななし、それ以前にマリクが風邪をひくことはないぜ」
「奇遇だな遊戯。そいつはオレ様も同感だ」
「えっ、なんでなんで?」
ななし、なぜってそれは──
「「バカは風邪ひかないからな」」
fin.
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