短編夢
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──トン。
ななしがすれ違いざまに対向者と軽く接触したのは、一人で歩道を歩いていた時のことだった。
考え事──デッキにカード1枚を入れるか入れないかで一日中思案してしまうデュエリストあるある──をしていたためか、人の接近に気がつかず肩が当たってしまったようだ。
「……っ、すみません!」
ななしはハッとして咄嗟 に謝り、顔を上げる。すると、ガタイが良くて人相の悪い二人組の男がこちらををじっと睨んでいた。
「どこ見て歩いてんだ!あぁ?痛ってぇ〜〜〜こりゃあ骨が折れちまったかもしれねーなあぁ!」
「おうおう嬢ちゃん、兄貴になんてことしてくれたんだ!治療費と慰謝料で1千万よこせや!」
男たちは、脅して金を揺すり取ろうとする典型的なチンピラだった。どう見ても骨折はおろか、かすり傷ひとつ負っていないことは明らかだ。
「そんなっ……すみません、まずは病院へ──」
「んな必要は無ぇんだよ!!」
話を遮 るように怒鳴られ、ななしの肩がびくりと跳ね上がる。チンピラ男たちは怯 えるななしに詰め寄り、さらに威圧的な態度で凄みを利 かせた。
「オレたちから逃げられると思うなよ!」
「金が無ぇならその体で払ってもらうしかねーなぁ!」
「か、体で……」
チンピラ男はななしの全身を上から下まで舐め回すように見ると、内心でニヤついた笑みを浮かべる。
その時、ななしの脳内では──
体で払う→肉体労働→地下強制労働施設行き
──という図式が完成していた。
「あの……果●グミはペリカ(地下通貨)で買えますか……?」
「はあぁ?いいから大人しくこっちへ来い!」
男の一人がななしの腕を掴んで強引に連れ去ろうとした、その時だった。
「──そこまでだ!!」
「なっ……誰だ!?」
突然、何者かの声が頭上から降ってきて、ななしとチンピラ男たちは空を仰ぎ見る。そこで目にしたのは、街灯に上に立ち、腕組みをしてこちらを見下ろしている一人の男だった。
青眼の白龍 を模した仮面に、風になびくレディッシュブラウンの長い髪──
「とうっ!!」
仮面の男は威勢のいい掛け声とともに街灯の上で跳躍し、前方宙返りで降下する。
そして、着地と同時に驀進 してチンピラ男たちの前に割って入ると、驚きで口をぱくぱくさせているななしを素早く自分の後ろへ押しやった。
仮面の下から鋭い眼光を覗かせて、チンピラ男たちを睨みつける。
「恥を知れ!ゴロツキ共ぉ!」
「だ、誰だテメェ!」
「オレたちに喧嘩売ってタダで済むと思うなよ!」
仮面の男の存在感に若干気圧 されながらも、数で利を得ているという余裕があるためか、チンピラ男たちが退く様子はない。
両者睨み合いの中、不意にチンピラ男の一人が「ン?」と怪訝 そうな顔で口を開いた。
「待てよ、こいつの格好どこかで……ハッ!そうだ、青眼 といえば海馬コーポレーション社長の……!」
「フン。海馬コーポレーション総帥の海馬瀬人は世を忍ぶ仮の姿……」
動揺するチンピラ男を鼻であしらい、仮面の男が語りを入れ始める。
仮の姿が微塵 も忍べていないが、面倒なのであえて誰もツッコまない。
「しかして、その実体は──」
「ケッ、隙アリだぜ!」
“名乗り口上 中は攻撃しない”というお約束を破り、今がチャンスとばかりにチンピラ男の一人が仮面の男に殴りかかった。
だが、その拳が仮面の男に届くことはなかった。同時に、空気の唸りとともに固いものがチンピラ男の側頭部を襲う。
仮面の男が放った、回し蹴りだった。
「ごふあっ!」
もう一人のチンピラ男も、蹴り飛ばされた男と激突して同じく吹っ飛び、二人して路面に叩き付けられた。そしてそのまま、ぐったりと伸びてしまった。
「──その実体は、正義の味方カイバーマンだ!雑魚共がぁぁ!!」
カイバーマンと名乗った男は、蹴り足を引き戻しながらキレ気味に叫んだ。
決め台詞をいいところで邪魔されて、相当頭にきたようだ。
「すごい……かっこいい……!ありがとうカイバーマン!」
固唾 を呑んで後方から見守っていたななしが、歓喜の声を上げて目を輝かせる。
カイバーマンは振り向くと、仮面の下で微かに笑った。そして、何も言わずに背を向けてそこから立ち去る──
という終幕を迎えていたならば、どんなにクールであっただろうか。
しかし、現実は真逆である。カイバーマンは猛然とななしに近寄り、正面から抱き寄せていた。
「えっ、と……カイ……海馬くん……?」
「海馬ではない、カイバーマンだ!」
「そ、そうだねっ。ごめんなさいカイバーマン」
「フン。ななし、今日は正義が悪に勝利した素晴らしき記念日だ。二人で存分に祝おうではないか」
中身は仲の良い友人(だとななしは認識している)の海馬ではあるが、ヒーローに憧れを抱いているななしにとって、カイバーマンの“ガワ”に抱きしめられているこの状況は少なからず心ときめくものであった。
ななしはカイバーマンの腕の中に捕われたまま、ほんのりと頬を紅潮させて彼を見上げた。
「素敵な記念日だね。でも、カイバーマンこの後の予定とかは大丈夫なの?」
「くだらん心配をするな。然 るべき祝いの席は今夜改めて設けるが……今オレたちがすべき事はただひとつ!」
「……わっ!?」
カイバーマンはななしを横抱きにして、人けのない狭い路地裏へと連れ込む。中程まで来たところでななしを丁寧に足から地面に下ろすと、真っ直ぐな視線で彼女を熱く見つめた。
「ど、どうしたのカイバーマン」
「“鉄は熱いうちに打て”というだろう?」
戸惑うななしの頬を指先でするりと撫でて顎を捉えると、上を向かせて顔を近づけた。
そして、ゆっくりと唇を重ねる──
ことはできなかった。
ななしは青眼 を模したカイバーマンの仮面が顔に当たりそうで思わず一歩後退 り、背中をビルの壁にトンとぶつけた。
カイバーマンは計算し尽くされた完璧な入射角で事に及んだつもりだったのだろうが、相手の視点では尖った装飾の付いた仮面が眼前に迫るのだから恐怖を感じても仕方ない。
「この期 に及んで焦 らすとは……いい度胸だな」
「え、ごめんなさいっ(もしかして青眼 の仮面でチクッとするのがカイバーマン式の友好の証だったりするのかな?)」
「クク……だが嫌いではない。覚悟しろななし!」
「やっ……(やっぱり友好のチクン来る!?)」
カイバーマンはななしの両手首を片手で掴み、彼女の頭上まで持ち上げて壁に押し付ける。そうして拘束したまま、もう片方の手で腰から脇腹を這 うように撫でさするなど、とてもヒーローとは思えない所業をして心身を昂 らせていた。
もはやカイバーマンのほうが世を忍ぶ仮の姿で、その実体はただの暴漢であると言わざるを得ない。
「さあ、正義の力で結ばれた愛の深さを証明するぞ!ななし!」
カイバーマンの指がななしのまろやかな双丘へと伸ばされようとした時、ななしは「あっ」と小さく声を漏らした。
何の事はない、カイバーマンの背後に人影が見えたからだ。
「ハーイ海馬ボーイ、私を見てくだサーイ」
「……!!ええい、何用だ!オレたちの正義を邪魔立てする輩は何人たりとも許さ──」
「マインド・カード!」
振り向きざまに背後の人物から罰ゲームを食らったカイバーマンは、為す術 もなくその場にくずおれた。
カイバーマンが倒れたことで視界が開けたななしは、前方にいる人物と目が合う。
エセ外国人風の言葉を操るその男は、そう──
「ペガサスさん!」
「お久しぶりデスネー!元気にしてマシタか?」
「はいっ、ペガサスさんもお元気そうで何よりです!ところであの、カイバーマンは……」
ななしは足元に倒れているカイバーマンを心配そうに見た。ぴくりとも動く様子はない。
「ノープロブレム!後のことは私に任せてくだサーイ」
「……?は、はい」
「シーユー!」とウインクをしてカイバーマンを引きずりながら去ってゆくペガサスの背を、ななしはただぽかんと口を開けたまま見送った。
そんなこんなで、カイバーマンがカード化された世界線があったとか無かったとか。
fin.
ななしがすれ違いざまに対向者と軽く接触したのは、一人で歩道を歩いていた時のことだった。
考え事──デッキにカード1枚を入れるか入れないかで一日中思案してしまうデュエリストあるある──をしていたためか、人の接近に気がつかず肩が当たってしまったようだ。
「……っ、すみません!」
ななしはハッとして
「どこ見て歩いてんだ!あぁ?痛ってぇ〜〜〜こりゃあ骨が折れちまったかもしれねーなあぁ!」
「おうおう嬢ちゃん、兄貴になんてことしてくれたんだ!治療費と慰謝料で1千万よこせや!」
男たちは、脅して金を揺すり取ろうとする典型的なチンピラだった。どう見ても骨折はおろか、かすり傷ひとつ負っていないことは明らかだ。
「そんなっ……すみません、まずは病院へ──」
「んな必要は無ぇんだよ!!」
話を
「オレたちから逃げられると思うなよ!」
「金が無ぇならその体で払ってもらうしかねーなぁ!」
「か、体で……」
チンピラ男はななしの全身を上から下まで舐め回すように見ると、内心でニヤついた笑みを浮かべる。
その時、ななしの脳内では──
体で払う→肉体労働→地下強制労働施設行き
──という図式が完成していた。
「あの……果●グミはペリカ(地下通貨)で買えますか……?」
「はあぁ?いいから大人しくこっちへ来い!」
男の一人がななしの腕を掴んで強引に連れ去ろうとした、その時だった。
「──そこまでだ!!」
「なっ……誰だ!?」
突然、何者かの声が頭上から降ってきて、ななしとチンピラ男たちは空を仰ぎ見る。そこで目にしたのは、街灯に上に立ち、腕組みをしてこちらを見下ろしている一人の男だった。
「とうっ!!」
仮面の男は威勢のいい掛け声とともに街灯の上で跳躍し、前方宙返りで降下する。
そして、着地と同時に
仮面の下から鋭い眼光を覗かせて、チンピラ男たちを睨みつける。
「恥を知れ!ゴロツキ共ぉ!」
「だ、誰だテメェ!」
「オレたちに喧嘩売ってタダで済むと思うなよ!」
仮面の男の存在感に若干
両者睨み合いの中、不意にチンピラ男の一人が「ン?」と
「待てよ、こいつの格好どこかで……ハッ!そうだ、
「フン。海馬コーポレーション総帥の海馬瀬人は世を忍ぶ仮の姿……」
動揺するチンピラ男を鼻であしらい、仮面の男が語りを入れ始める。
仮の姿が
「しかして、その実体は──」
「ケッ、隙アリだぜ!」
“名乗り
だが、その拳が仮面の男に届くことはなかった。同時に、空気の唸りとともに固いものがチンピラ男の側頭部を襲う。
仮面の男が放った、回し蹴りだった。
「ごふあっ!」
もう一人のチンピラ男も、蹴り飛ばされた男と激突して同じく吹っ飛び、二人して路面に叩き付けられた。そしてそのまま、ぐったりと伸びてしまった。
「──その実体は、正義の味方カイバーマンだ!雑魚共がぁぁ!!」
カイバーマンと名乗った男は、蹴り足を引き戻しながらキレ気味に叫んだ。
決め台詞をいいところで邪魔されて、相当頭にきたようだ。
「すごい……かっこいい……!ありがとうカイバーマン!」
カイバーマンは振り向くと、仮面の下で微かに笑った。そして、何も言わずに背を向けてそこから立ち去る──
という終幕を迎えていたならば、どんなにクールであっただろうか。
しかし、現実は真逆である。カイバーマンは猛然とななしに近寄り、正面から抱き寄せていた。
「えっ、と……カイ……海馬くん……?」
「海馬ではない、カイバーマンだ!」
「そ、そうだねっ。ごめんなさいカイバーマン」
「フン。ななし、今日は正義が悪に勝利した素晴らしき記念日だ。二人で存分に祝おうではないか」
中身は仲の良い友人(だとななしは認識している)の海馬ではあるが、ヒーローに憧れを抱いているななしにとって、カイバーマンの“ガワ”に抱きしめられているこの状況は少なからず心ときめくものであった。
ななしはカイバーマンの腕の中に捕われたまま、ほんのりと頬を紅潮させて彼を見上げた。
「素敵な記念日だね。でも、カイバーマンこの後の予定とかは大丈夫なの?」
「くだらん心配をするな。
「……わっ!?」
カイバーマンはななしを横抱きにして、人けのない狭い路地裏へと連れ込む。中程まで来たところでななしを丁寧に足から地面に下ろすと、真っ直ぐな視線で彼女を熱く見つめた。
「ど、どうしたのカイバーマン」
「“鉄は熱いうちに打て”というだろう?」
戸惑うななしの頬を指先でするりと撫でて顎を捉えると、上を向かせて顔を近づけた。
そして、ゆっくりと唇を重ねる──
ことはできなかった。
ななしは
カイバーマンは計算し尽くされた完璧な入射角で事に及んだつもりだったのだろうが、相手の視点では尖った装飾の付いた仮面が眼前に迫るのだから恐怖を感じても仕方ない。
「この
「え、ごめんなさいっ(もしかして
「クク……だが嫌いではない。覚悟しろななし!」
「やっ……(やっぱり友好のチクン来る!?)」
カイバーマンはななしの両手首を片手で掴み、彼女の頭上まで持ち上げて壁に押し付ける。そうして拘束したまま、もう片方の手で腰から脇腹を
もはやカイバーマンのほうが世を忍ぶ仮の姿で、その実体はただの暴漢であると言わざるを得ない。
「さあ、正義の力で結ばれた愛の深さを証明するぞ!ななし!」
カイバーマンの指がななしのまろやかな双丘へと伸ばされようとした時、ななしは「あっ」と小さく声を漏らした。
何の事はない、カイバーマンの背後に人影が見えたからだ。
「ハーイ海馬ボーイ、私を見てくだサーイ」
「……!!ええい、何用だ!オレたちの正義を邪魔立てする輩は何人たりとも許さ──」
「マインド・カード!」
振り向きざまに背後の人物から罰ゲームを食らったカイバーマンは、為す
カイバーマンが倒れたことで視界が開けたななしは、前方にいる人物と目が合う。
エセ外国人風の言葉を操るその男は、そう──
「ペガサスさん!」
「お久しぶりデスネー!元気にしてマシタか?」
「はいっ、ペガサスさんもお元気そうで何よりです!ところであの、カイバーマンは……」
ななしは足元に倒れているカイバーマンを心配そうに見た。ぴくりとも動く様子はない。
「ノープロブレム!後のことは私に任せてくだサーイ」
「……?は、はい」
「シーユー!」とウインクをしてカイバーマンを引きずりながら去ってゆくペガサスの背を、ななしはただぽかんと口を開けたまま見送った。
そんなこんなで、カイバーマンがカード化された世界線があったとか無かったとか。
fin.
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