短編夢
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2月14日、バレンタインデーの朝。
自室にいたななしはメッセージの通知音に気付き、スマホに目をやった。
確認してみると、送信者は海馬だった。
「えーっと『お前に最高のサプライズを用意した。午前中は必ず在宅していろ』……?」
詳細のわからない一方的な内容のメッセージに、ななしはきょとんとしてしまう。
「もしかしてまた贈り物かな?いつももらってばっかりで悪いなぁ」
思わず気が引けてしまうほど、ななしはこれまで海馬から多くのプレゼントを受けていた。
しかし、ひと目で高価だとわかる物はのらりくらりと躱 して受け取らなかったため、突飛なプレゼントばかりが手元に増えていった。
そのうちのひとつが、海馬(着崩したバスローブ姿)が全面にプリントされた等身大の抱き枕である。
海馬の思惑通りにななしは毎夜それを抱きしめて眠……ってはおらず、部屋の一角にインテリアとして大切に飾っていた。
「作ったお菓子をみんなに渡しに行こうと思ってたんだけど、午後に変更かな」
最高のサプライズ──
海馬は時間帯指定で一体どのような驚きを用意したというのだろうか。
***
時刻は現在10時20分。
家を空けることのできないななしはリビングでぼんやりとテレビを眺めていたが、インターホンの音にハッとして立ち上がった。
「はーい」
インターホンに向かって応答すると、モニターには宅配業者が映っていた。
何やら大きな段ボール箱を二人がかりで抱えている。
『どうもー。宅配便です』
「はい、今開けますっ」
あの荷物がメッセージで予告のあった海馬からの届け物だろうか。
ななしは足早に玄関へと向かった。
ドアを開けると、重そうに一つの段ボール箱を二人で持った宅配業者が「もの凄く重いので中ちょっと失礼しますね」と玄関の中に入り、それをドスン!と下ろした。
確かに差出人は海馬瀬人になっているが、ラベルからはこれがナマモノであることしかわからない。
「ふぅ……ここにハンコかサイン、お願いします」
「はい。重たいお荷物ありがとうございました!」
宅配業者が去り、ななしは謎の贈り物の箱をまじまじと観察する。
「中身は何だろう、ちょっと緊張する……」
海馬が『サプライズ』と言っていただけに、やはり驚くような物が入っているのだろう。
ななしは意を決して一気にガムテープを引き剥がした。
「ククク……」
「っ!?!?」
閉じた箱のフタの中から、聞き覚えのある笑い声が漏れてくる。
そして、その声の主は勢いよく立ち上がった。
「ワハハハハ!待たせたなななし!」
「ひゃあっ!」
中身は差出人自身であった。
ななしは思わず尻もちをついてしまったが、驚くべきことはそれだけではなかった。
「かっ海馬くん……なな何で、チョコレートまみれ……!?」
パンツ一丁で誇らしげに仁王立ちしている海馬の全身は、ダークなチョコレートでコーティングされていた。
クール便で運ばれてきたため、ひんやりと冷たい空気が漂っている。
「まさか今日が何の日であるか忘れたわけではあるまいな?」
「え、うん、今日はバレンタインデーだけど……」
「ならば話は早い。オレもバレンタインデーの贈答儀礼にノッてやろうというわけだ。この国では“逆チョコ”などと呼ばれているようだが」
もっと重大かつ見過ごしてはいけない問題が全く解消されていない。
だが、世界を股に掛けるKCの社長に常識を求めるほうが間違いなのだろう。
「さあ、その舌で存分に舐め取るがいい!愛の祭典の始まりだ……ななし……!」
未だ立てずにいるななしのもとへ、荒い息遣いの海馬が迫る。
異様な雰囲気に圧倒されて、危機感に疎 いななしでさえ尻をついたまま仰 け反り後退してしまう。
「ま、待って海馬くん……!」
「フン。このオレを焦 らそうとは中々のしたたかさだ」
捕まえたと言わんばかりに、膝立ちになった海馬がななしの顔を両手でがっちりと固定する。
その顔をトランクスで覆われた己の下腹部へと向けさせ、ニヤリと笑った。
「フ、これはお前を昇天させるための得物……まずはその口でじっくりとオレのリーサルウェポンの味を堪能させてやる」
「りーさるうぇぽん……ウェポン……あっ、武器!?」
何かに思い至ったななしは、打って変わって本気で心配そうな表情になる。
「危ないからだめだよ、そんなところに武器を入れてたらっ」
巧みな……とは言えない海馬の隠語が意味するところはななしには伝わっていない。
だが、確かに海馬はどこから拳銃を取り出してもおかしくないような男であることには違いない。
「クク……焦らずとも後 にたっぷり望みの場所へ入れてやるぞななし。そしてお前をプチモルト──」
「──何やってんのよド変態!」
海馬の背後で、ガン!という衝撃音が響いた。
突如現れた襲撃者からの一撃を受け、海馬はななしの横に崩れ落ちた。
どうやら、彼のほうが昇天させられてしまったようだ。
視界の開けたななしは、襲撃者──否、事実上の救世主と目が合う。
「あっ……杏子ちゃん!」
「ななしっ!!」
海馬をK.O.したと思われる消火器を放り、杏子はななしをぎゅっと抱きしめた。
目には今にもこぼれ落ちそうな涙を湛 えている。
「杏子ちゃん……?」
「胸騒ぎがして来てみたらななしが襲われているんだもの、血の気が引いたわ……大丈夫?何されたの?」
「う、うん?何もないよ大丈夫だよありがとう」
『血の気が引いた』ではなく『頭に血が上った』の間違いではないだろうか。
無事な様子のななしに安心した杏子はほっと息をつくと、ななしを立ち上がらせて部屋の中へと促 した。
「さっ、ななしは中へ入ってて。この危険物は私が片付けておくから」
「え、でも……」
「いいからいいからっ」
ななしは倒れている海馬を心配しながらも、杏子に背中を押されて言われるがままにリビングへと入った。
(海馬くん武器を持ってるみたいだし、やっぱり危ないよね……海馬くんには後でチョコ渡そっと)
まずは杏子へ手作りのチョコレート菓子を渡すため、何事も無かったかのようにニコニコとラッピングを始めるのだった。
玄関に残っているのは、意識の無い海馬と、それを見下ろす杏子の二人。
「んもう、何か溶け出してるし……」
転がっていた消火器を再び手に取り、ゴルフの構えのように振り上げる。
「海馬くん……アンタ本っ当に最低よ!」
ナイスショット。
開け放たれたドアから外へと打ち出された海馬は、大空へと舞い上がる。
この時、この海馬の姿を遠くから目撃していた獏良は『フライングヒューマノイド』というオカルト現象だと思い、大層喜んだという。
「ふぅーすっきりした!さーて、ななしにチョコレートを渡さなくっちゃ」
杏子もまた何事も無かったかのように上機嫌にステップを踏み、ななしに“友チョコ”を渡すべく中へと入っていったのだった。
fin.
自室にいたななしはメッセージの通知音に気付き、スマホに目をやった。
確認してみると、送信者は海馬だった。
「えーっと『お前に最高のサプライズを用意した。午前中は必ず在宅していろ』……?」
詳細のわからない一方的な内容のメッセージに、ななしはきょとんとしてしまう。
「もしかしてまた贈り物かな?いつももらってばっかりで悪いなぁ」
思わず気が引けてしまうほど、ななしはこれまで海馬から多くのプレゼントを受けていた。
しかし、ひと目で高価だとわかる物はのらりくらりと
そのうちのひとつが、海馬(着崩したバスローブ姿)が全面にプリントされた等身大の抱き枕である。
海馬の思惑通りにななしは毎夜それを抱きしめて眠……ってはおらず、部屋の一角にインテリアとして大切に飾っていた。
「作ったお菓子をみんなに渡しに行こうと思ってたんだけど、午後に変更かな」
最高のサプライズ──
海馬は時間帯指定で一体どのような驚きを用意したというのだろうか。
***
時刻は現在10時20分。
家を空けることのできないななしはリビングでぼんやりとテレビを眺めていたが、インターホンの音にハッとして立ち上がった。
「はーい」
インターホンに向かって応答すると、モニターには宅配業者が映っていた。
何やら大きな段ボール箱を二人がかりで抱えている。
『どうもー。宅配便です』
「はい、今開けますっ」
あの荷物がメッセージで予告のあった海馬からの届け物だろうか。
ななしは足早に玄関へと向かった。
ドアを開けると、重そうに一つの段ボール箱を二人で持った宅配業者が「もの凄く重いので中ちょっと失礼しますね」と玄関の中に入り、それをドスン!と下ろした。
確かに差出人は海馬瀬人になっているが、ラベルからはこれがナマモノであることしかわからない。
「ふぅ……ここにハンコかサイン、お願いします」
「はい。重たいお荷物ありがとうございました!」
宅配業者が去り、ななしは謎の贈り物の箱をまじまじと観察する。
「中身は何だろう、ちょっと緊張する……」
海馬が『サプライズ』と言っていただけに、やはり驚くような物が入っているのだろう。
ななしは意を決して一気にガムテープを引き剥がした。
「ククク……」
「っ!?!?」
閉じた箱のフタの中から、聞き覚えのある笑い声が漏れてくる。
そして、その声の主は勢いよく立ち上がった。
「ワハハハハ!待たせたなななし!」
「ひゃあっ!」
中身は差出人自身であった。
ななしは思わず尻もちをついてしまったが、驚くべきことはそれだけではなかった。
「かっ海馬くん……なな何で、チョコレートまみれ……!?」
パンツ一丁で誇らしげに仁王立ちしている海馬の全身は、ダークなチョコレートでコーティングされていた。
クール便で運ばれてきたため、ひんやりと冷たい空気が漂っている。
「まさか今日が何の日であるか忘れたわけではあるまいな?」
「え、うん、今日はバレンタインデーだけど……」
「ならば話は早い。オレもバレンタインデーの贈答儀礼にノッてやろうというわけだ。この国では“逆チョコ”などと呼ばれているようだが」
もっと重大かつ見過ごしてはいけない問題が全く解消されていない。
だが、世界を股に掛けるKCの社長に常識を求めるほうが間違いなのだろう。
「さあ、その舌で存分に舐め取るがいい!愛の祭典の始まりだ……ななし……!」
未だ立てずにいるななしのもとへ、荒い息遣いの海馬が迫る。
異様な雰囲気に圧倒されて、危機感に
「ま、待って海馬くん……!」
「フン。このオレを
捕まえたと言わんばかりに、膝立ちになった海馬がななしの顔を両手でがっちりと固定する。
その顔をトランクスで覆われた己の下腹部へと向けさせ、ニヤリと笑った。
「フ、これはお前を昇天させるための得物……まずはその口でじっくりとオレのリーサルウェポンの味を堪能させてやる」
「りーさるうぇぽん……ウェポン……あっ、武器!?」
何かに思い至ったななしは、打って変わって本気で心配そうな表情になる。
「危ないからだめだよ、そんなところに武器を入れてたらっ」
巧みな……とは言えない海馬の隠語が意味するところはななしには伝わっていない。
だが、確かに海馬はどこから拳銃を取り出してもおかしくないような男であることには違いない。
「クク……焦らずとも
「──何やってんのよド変態!」
海馬の背後で、ガン!という衝撃音が響いた。
突如現れた襲撃者からの一撃を受け、海馬はななしの横に崩れ落ちた。
どうやら、彼のほうが昇天させられてしまったようだ。
視界の開けたななしは、襲撃者──否、事実上の救世主と目が合う。
「あっ……杏子ちゃん!」
「ななしっ!!」
海馬をK.O.したと思われる消火器を放り、杏子はななしをぎゅっと抱きしめた。
目には今にもこぼれ落ちそうな涙を
「杏子ちゃん……?」
「胸騒ぎがして来てみたらななしが襲われているんだもの、血の気が引いたわ……大丈夫?何されたの?」
「う、うん?何もないよ大丈夫だよありがとう」
『血の気が引いた』ではなく『頭に血が上った』の間違いではないだろうか。
無事な様子のななしに安心した杏子はほっと息をつくと、ななしを立ち上がらせて部屋の中へと
「さっ、ななしは中へ入ってて。この危険物は私が片付けておくから」
「え、でも……」
「いいからいいからっ」
ななしは倒れている海馬を心配しながらも、杏子に背中を押されて言われるがままにリビングへと入った。
(海馬くん武器を持ってるみたいだし、やっぱり危ないよね……海馬くんには後でチョコ渡そっと)
まずは杏子へ手作りのチョコレート菓子を渡すため、何事も無かったかのようにニコニコとラッピングを始めるのだった。
玄関に残っているのは、意識の無い海馬と、それを見下ろす杏子の二人。
「んもう、何か溶け出してるし……」
転がっていた消火器を再び手に取り、ゴルフの構えのように振り上げる。
「海馬くん……アンタ本っ当に最低よ!」
ナイスショット。
開け放たれたドアから外へと打ち出された海馬は、大空へと舞い上がる。
この時、この海馬の姿を遠くから目撃していた獏良は『フライングヒューマノイド』というオカルト現象だと思い、大層喜んだという。
「ふぅーすっきりした!さーて、ななしにチョコレートを渡さなくっちゃ」
杏子もまた何事も無かったかのように上機嫌にステップを踏み、ななしに“友チョコ”を渡すべく中へと入っていったのだった。
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