短編夢
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
童実野町某所、地下──
窓のない部屋の四方には断頭台や棺、剣、拘束器具など、奇術の道具が数多く据え置かれている。
ここでは既に小一時間ほど、仮面の男と少女が談笑を続けていた。
奇怪な部屋に見合った珍妙な光景だ。
そして、それを遠巻きに見ているのが、この二人の所有するカードである二体の黒魔術師──
「パンドラ様、ついこの間までメンタルどん底の人生サレンダー寸前だったのが嘘みてぇだわ。マジであの子すげーよなぁ」
「気の毒な身の上であったことは聞き及んでいるが……生きる希望を我がマスターに見出しているのならばご遠慮願いたいところだ」
立って腕組みをしたまま
「んな重いモンじゃねーって。あの子を切っ掛けにして平穏な生活に戻れればそれでいいんだからよ」
「どうだかな。もしこの先
「それはまあ、そうしてくれ……パンドラ様が死なない程度で」
ななしのブラックマジシャンはマスターへの悪影響を
確かにパンドラとななしの二人、傍目には金銭が絡んだ怪しい関係に見えかねない。
しかし、そんなブラックマジシャンの懸念とは裏腹に、二人は至って和やかな雰囲気だった。
「パンドラさん、私あれ見たいです!口からトランプがどばぁーって出てくるのっ」
「いいでしょう。ではいきますよ」
パンドラはトランプの束を巧みに操り、口元から滝のように出して見せる。
「わぁすごい!たくさん出てる……!」
「そんなに驚いていただけるとは……ホラ、耳がでっかくなってしまいました!」
「きゃっ!パンドラさんの、すごく大きい!」
パンドラはお馴染のジョークマジックを披露し、ななしを大いに喜ばせていた。
「なぁ、あの子の反応がいちいちエロ──」
「
「サーセン……」
言葉尻に被せて、ブラックマジシャンはぴしゃりと言い放った。
(自分だって頬染めてるくせに……)
苛立ちによるものだと言われたらそれまでなので、パンドラのブラックマジシャンは黙ったままななしのブラックマジシャンをジト目で見据えることしかできなかった。
「それはそうと、ななし。同じブラックマジシャン使いとして親近感がわきますね」
「えへへ、そうですねー。お知り合いになれて嬉しいです」
ななしは拍手を止め、にこりと微笑む。
「私、遊戯、そしてあなた。まさか第三のブラックマジシャン使いが現れるとは思いませんでしたよ」
「私もブラックマジシャンと出会った時は本当にびっくりしました!それに、まさかお話しができるなんて」
「フフ……カードとの信頼が云々と偉そうに言っていた遊戯もあなたには敵わないでしょうね」
「そんなことないですっ、遊戯くんたちは心で通じ合っているので……あっそうだ!」
ななしは思いついたようにブラックマジシャンたちのそばに歩み寄る。
そして、パンドラのブラックマジシャンを見上げて元気よく挨拶をした。
「ななしです、こんにちはー!」
「ういーす。あ、ななしちゃんもしかしてオレとお近付きになりたいとか?」
「貴様、マスターに気安く話しかけるな!」
ななしはパンドラのブラックマジシャンをじっと見つめていたが、やがて残念そうに目を伏せた。
「やっぱりだめかぁ……」
「だめって何!?オレ!?」
パンドラはななしの肩にポンと手を置き「どうしましたか?」と問いかけた。
「パンドラさんのブラックマジシャンともおしゃべりできないかなーなんて思いまして……」
「なるほど。それで試してみたところだめだった、と」
ななしはこくりと頷いた。
パンドラのブラックマジシャンも「そういうことか」と納得するが、隣で清々しい顔をしている同名の者を見てかなりヘコんだようだ。
「まあ、それが普通なのですからね」
「そうですよね……ってあれ、もうこんな時間!」
ななしは時計を確認し、はっと驚いた。
「楽しくてつい長居しちゃってすみません、そろそろ帰りますねっ」
「もっと居てくださっても構いませんが……では、次にお会いする時はもっと素晴らしいショーをお見せしましょう」
「わあ、楽しみ……!ありがとうございます!」
ななしはパンドラにぺこりとお辞儀をして別れを告げ、ブラックマジシャンを伴って出口へと向かう。
パンドラが手を振っている横で、彼のしもべであるブラックマジシャンは膝を抱えて床に『の』の字をたくさん書いていた。
***
最近習慣になりつつあるのが、就寝前の雑談タイムだ。
「お話しできないのが普通、かぁ」
「マスター……」
「でもこうやってお話しできるのが私たちの普通なんだよね……あれ?それは特別っていうのかな?」
うー、と小さく唸ってななしは考え込んでしまった。
「マスター、あまり難しくお考えになりませんよう……」
「……うん、そうだね。ねぇブラックマジシャン、お願いしたいことがあるの」
「はい、何なりと」
「今夜また一緒に寝てもいい?」
「は……!マスターのご所望とあらばいつ
断る理由などないとばかりに、ブラックマジシャンは快諾した。
「わーいありがとう!私ね、ブラックマジシャンと一緒に眠ると良い夢見れるんだー」
今日も魔術師の夜は長い。
これもデュエリストとしもべの一つの信頼のカタチと言えるのだろう。
fin.
5/24ページ