短編夢
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召喚──それはデュエルにおいて、カードに宿る魂が立体映像として現れる瞬間。
今し方マスターのご自宅にて召喚していただいた私もまた、映像として可視化された幻ともいえる存在である。
しかしながら対戦相手はおらず、デュエルの最中というわけではない。
「
「えっとね、ただブラックマジシャンとお話ししたいなって……少しだけ、いいかな?」
ああ、何と身に余る光栄!
両手を胸先で重ね合わせ、遠慮がちにこちらへ目を向けられるマスターからのお申し出を断る者など、存在し
「私めでよろしければ喜んでお相手させていただきます。こうして再びマスターのお目にかかれる時を心待ちにしておりました」
「本当?嬉しいなぁ、ありがとう!」
ぱっと花が咲いたように微笑まれるお姿が
世界中の
「私ね、ブラックマジシャンがそばにいてくれるとすごく安心するんだ」
「……は!有難きお言葉!」
「夜に一人でいるとちょっと心細いなって思う時があって……昔からそうだったし、慣れてるはずなんだけどね」
「心中お察しいたします。さぞかしご不安なお気持ちになられたことでしょう……」
「あ、でもね、今はブラックマジシャンのカードに触れているだけでいつも心強いの!お話し聞いてくれてありがとうねっ」
マスターは明るく笑っていらっしゃるものの、その瞳には僅かながら寂しさの色が感じられた。
「
「えっ、ずっと召喚状態で一緒にいてくれるの?」
「はい。ご迷惑でなければ、ですが」
「迷惑なわけないよっ、すごく嬉しい!ふふ……海馬くんもブラックマジシャンも本当に優しいよね」
我が名とともにマスターが口にされたのは、海馬という男の名前。
つまりは、以前に奴も私と同じ願い出をしたことがあるのだろう。
あの破廉恥極まりない男のことだ、その意図や言動は容易に想像がつくが……考えるだけで怒りが込み上げてくる。
「
「ううん、ないよ。夜に家まで来てくれたことがあるんだけどね、私あの時はすごく眠くてほとんどお話しもしないまま帰ってもらっちゃって……悪いことしたなぁ」
「いいえ、適切なご判断です」
まさかとは思ったが、何事もなかったようで一安心だ。
マスターの御身に危険が及ぶ前に、いずれまた叩きのめさねばなるまい。
***
マスターと共に過ごす貴重な時間は、射られた矢のような早さで流れていった。
私の存ぜぬ過去の出来事やご友人方のことなど、様々なお話を拝聴した。
マスターのお言葉の端々から感じられる、全てのものへの温かな慈しみ。……それは、あの海馬に対しても同様だった。
純情可憐でいらっしゃるマスターが汚されぬよう、この私が絶対にお守りする。何があろうともだ。
その後、私にとって試練の時が訪れた。それはマスターのご入浴だった。
「ブラックマジシャンも一緒に入る?」との無垢かつ甘美なお誘いを最大限の理性をもって丁重にお断りし(しもべとしての心得をわきまえもせず、危うく
浴室ドアのガラス越しに見えるマスターのシルエットに心を乱してしまったことは、側仕えに有るまじき失態だ。
申し訳ございません、マスター……!
***
「あっという間に寝る時間になっちゃった……今日は一緒にいてくれてありがとう、ブラックマジシャンとたくさんお話しできて嬉しかったよ!」
「は!こちらこそ今宵は貴重なお時間をご一緒させていただきありがとうございました。お役に立てることがございましたらデュエル中に限らず、またいつでもご召喚いただければ嬉しく存じます」
「うん、またよろしくね!」
それはあくまで、敬服するマスターへの忠誠心。
そこに他意は……ない。あってはならない。
「……ねえ、ブラックマジシャン」
「…………?」
マスターは
毎夜、マスターのご就寝時にはベッドサイドテーブルに置かれるはずの私のカード。
今はデュエルディスク上にて召喚中となっているが、デュエルとご入浴とご就寝時を除き、御守りとして常日頃ストラップケースに入れて身に付けてくださっている。
それをご就寝される今、何故再び……?
「絡まないようにちゃんと肌着の中に入れて気をつけるから、今夜はカードを身に付けたまま一緒に寝てもいい?ソリッドビジョンは触れられないけど、カードでなら……」
「…………!!」
今……何と!?
それすなわち同じベッドで……否、それ以上に肌を合わせたまま共に夜を明かすことに他ならないのでは!?
惜しむらくは厚さ0.3mm程のケースだが、日中とは違いマスターと私を
いや、何を考えているのだ私は!
「……ブラックマジシャン?」
「は!……よ、喜んでお仕えいたします!」
「ふふ、良かったーありがとう。それじゃあおやすみっ」
私のカードは、お召し物の一番内側へと仕舞われた。柔らかな感触とぬくもりが、
こうして私はマスターの
「ん……ブラック、マジシャ……」
「…………………………………」
ああ、何という有難き幸せ。
願わくは我が魂、永遠にマスターと共にあらんことを。
fin.
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