「甘い香りの逃亡者」編

  • 土門

    父親ってのは娘のことがかわいくて仕方がないんだな

  • 土門

    榊所長もお前のことを「かわいい かわいい」って言ってた

  • マリコ

    そんなこと言ってた?

  • 土門

    言葉じゃなくて表情で言ってた

  • 笑みを零すマリコ。

  • マリコ

    私も父さんのこと尊敬しているし、感謝もしている。
    科学の楽しさや素晴らしさを教えてくれたのは父さんだもの

  • 土門

    たまにはその気持ちを伝えてみたらどうだ?

  • マリコ

    ええ?
    いいわよ。
    恥ずかしいもの

  • 土門

    練習台になってやる。
    俺を榊所長だと思って話してみろ。
    ほら

  • マリコ

    え、ええと…。
    父さん、これまで育ててくれてありがとう?

  • 土門

    それは嫁に行く前の挨拶じゃないか?

  • マリコ

    そ、そうね。
    父さん、いつも遠くから見守ってくれていてありがとう…ってこれじゃあ、父さんが死んじゃったみたいよね

  • 自分でつっこむマリコがおかしくて、土門は吹き出した。

  • 土門

    そんなに気負わなくてもいいんじゃないか。
    お前が榊所長をどう思っているか、素直に言葉にしてみろよ

  • マリコ

    う、うん

  • マリコは少しだけ考え込むと、ふっきれたように顔を上げた。

  • マリコ

    父さん、いつもありがとう。
    …大好き

  • 土門

    ……………………!?

  • マリコ

    え?
    ど、土門さん?

  • 突然顔を赤くした土門はその場にしゃがみこんでしまった。

  • マリコ

    土門さん、大丈夫?

  • 土門

    あ、ああ。
    大丈夫だが…最後のセリフはやめておかないか

  • マリコ

    どうして?

  • 土門

    それは俺だけが聞きたいというか…いや、忘れてくれ

  • 「何言ってんだ、俺…」と土門はひとりごちる。

  • マリコ

    父さんのことは大好き。
    でも土門さんのことは…そうねえ

  • マリコは土門の耳元へ唇を近づけた。

  • マリコ

    愛してる。
    ……かも

  • 土門

    勘弁してくれ…

  • 腰砕けになってしまった土門は、ジロリとマリコを睨む。

  • マリコ

    なあに?

  • 土門

    煽った責任は取れよ。
    小悪魔め!

  • 展示室の防犯カメラには、土門の背中に隠れてマリコの姿は映らない。
    小悪魔の味見は土門だけの特権なのだ。

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