最終話編

  • 土門

    よし、行こう

  • 歩き出す土門の隣にマリコは並ぶ。
    ところが…。
    土門の背中はあっという間に先へ進んでしまった。

  • マリコ

    待って、土門さん!

  • ようやく追いついたマリコは、息を切らせて、土門のジャケットを掴んだ。

  • マリコ

    ねえ、まだ怒ってるの?

  • 立ち止まった土門の眉がピクリと動く。

  • 土門

    何の話だ

  • マリコ

    とぼけないで。
    新開さんのポリグラフを中断したこと、怒ってるんじゃないの?

  • 土門

    怒ってはいない。
    お前の言う通り、被験者が拒否すれば、検査は終了する決まりだろう

  • マリコ

    だったら、ここ数日、どうしてそんなに機嫌が悪いの?

  • あのポリグラフの日以来、マリコはプライベートで土門に避けられているように感じていた。

  • マリコ

    教えて、土門さん!

  • 土門

    お前、すごい顔してたぞ

  • マリコ

    え?

  • 土門

    俺が検査を続けてくれと頼んだとき、「無理よ、できない」と答えたお前の顔だよ

  • マリコ

    私、ヘンな顔してた?

  • 土門

    ああ。
    こうやって目を細めて…

  • 土門は自分の目尻を引っ張って、長細くしてみせる。

  • マリコ

    やだ!
    そんな顔してないわよ

  • 土門

    まあ、それは冗談だが。
    正直にいうと、自分に呆れていてな

  • マリコ

    どういうこと?

  • 土門

    俺はお前の仕事も、お前自身も信頼している。
    それなのにお前が拒否したことを、俺は無理やり通そうとしちまった。
    いくら事件解決のためとはいえ、お前の言う“やってはいけないこと”をやっちまったんだ。
    分かっていながらな。
    お前に会わせる顔がない

  • マリコ

    土門さん…

  • マリコ

    でも鑑定資料から外すこと、「わかった」って。
    ちゃんと頷いてくれたじゃない

  • マリコ

    土門さんが時に暴走してしまうのは、きっと科学者の私より事件を解決したいという思いが強いからよ。
    自己嫌悪なんてしなくていい。
    これからもそのままの土門さんで捜査を続けて。
    暴走した時は、私が止めてあげるから

  • 土門

    変顔してか?

  • 土門はまた目尻を引っ張る。

  • マリコ

    もう!

  • むくれるマリコを見て、土門は笑う。

  • 土門

    今度こそ、戻ろう

  • 土門は再びマリコに背中を向ける。

  • 土門

    …………ありがとうな

  • そのつぶやきがマリコの耳に届いたのかはわからないけれど。

  • マリコは土門の隣に追いつくと、そっと自分の手のひらを土門に重ねた。

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