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土門
おい、それは?
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マリコ
瑞希さんの形見。
頂いた。
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土門
ああ…。
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土門
今回はこれが悪用された。
どんなに科学が進化しても、それを扱う人間が退化したらなんにもならない。 -
マリコ
でも本当に科学の力を知っていたら、悪用しようとは思わないかもしれない。
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マリコ
少なくとも彼女は科学の力を信じていた…。
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土門
いや、彼女はもしかしたらそういうお前を信じていたのかもしれない。
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形見のお守りを両手で包むと、マリコは胸元に抱く。
短い出会いだったけれど、マリコには忘れられない思い出になった。これからも彼女に恥じることのないように、自分の信じた科学の道を歩んでいこう。
マリコは瑞希の面影に誓った。
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一方の土門は、マリコの横顔を見るうちに彼女の纏う雰囲気が変わったことに気づいた。
そんな些細な変化に気づくほど、二人は長い時間を共に過ごしてきたのだ。
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土門はマリコの肩を掴む。
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土門
よし、行こう。
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そう言うと、もう背を向け歩き出した。
振り返る必要はない。
マリコは必ずついてくると、土門は確信していた。 -
マリコはお守りを白衣のポケットにしまうと、ゆっくりと踵を返した。
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屋上を出たところで、ようやく土門は振り返る。
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土門
戦う準備はできたか?
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マリコ
ええ。
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土門
それでこそ、『榊マリコ』だ。
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不敵に笑う土門を見て、思わずマリコは言葉を漏らした。
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マリコ
いればよかったのに。
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土門
ん?
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マリコ
瑞希さんにも、土門さんがいればよかったのに。
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土門
?
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マリコ
これまで私が危険な目に遭っても無事でいられたのは、土門さんがいたからだわ。
だから、瑞希さんにも土門さんみたいな人がいたら、そうしたら……ごめんなさい。 -
言っても詮無いことだと、マリコは目を伏せた。
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土門
お前はこれから、彼女の想いを引き継いでいくんだろう?
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マリコ
もちろん。
そのつもりよ。 -
土門
だったら、俺はその想いごと…彼女もお前も守る。
それじゃぁ駄目か?
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マリコが口を開きかけたとき、二人のスマホが同時に鳴った。
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マリコ
📞「はい、榊」
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土門
📞「土門だ」
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📞「「…変死体!?」」
二人は顔を見合わせる。 -
マリコ
📞「すぐに行くわ」
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土門
📞「すぐに行く」
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通話を切る間も惜しんで走り出しそうな勢いのマリコを土門は引き止め、その腕に抱いた。
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マリコ
土門さん!?
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土門
榊、心臓の音が聞こえるか?
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トクトク…と一定のリズムが、マリコの耳に心地いい。
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マリコ
ええ。
聞こえるわ。 -
土門
俺たちは生きている。
生きているから共に戦えるんだ。
それを忘れるなよ? -
生きている、から…。
マリコは生気の戻った瞳で力強く頷いた。
そして、するりと土門の腕を抜け出すと、今度は土門の手を引いて駆け出していく。 -
ーーーーー 榊先生…。
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その背中を押すように優しい風が吹いた。
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一つの物語は終わり、そしてまたここから始まるのだ。
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