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土門
一番伝えたい思いは、なかなか口にはできないのかもしれないな。
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マリコ
土門さんにもそんな思いがあるの?
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土門
え?
ハハハ…。
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土門
足は、大丈夫なのか?
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マリコ
うん。
もう平気。 -
マリコ
あのブレスレットのおかげで、土門さんに見つけてもらえた。
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土門
備えて、生きろか。忘れちゃいけないな。
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うなずくマリコ。
二人は再び歩き始める。 -
土門
確かに、今この瞬間は奇跡なのかもしれないな。
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マリコ
奇跡?
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土門
ああ。
数々の自然災害や、日常にだって危険は潜んでいる。
ましてや、刑事の仕事は常に死と隣り合わせだ。
そんな中を生き延びて、ここに立っていられる。
よく考えてみれば、それは簡単なことじゃない。 -
マリコ
そうね。
世界では毎日沢山の人が亡くなっている。
だけど、私達はこうして顔を見て、話すことができる。
これって特別なことなのよね。
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土門
これからもその特別を続けていくために、俺たちには備えが必要だ。
死んでからじゃ遅い。
本当に伝えたい思いは生きているうちに、自分の口で伝えなくちゃいけないな。
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マリコ
あ、そうよ。
さっき聞いたときは、はぐらかされたけど、土門さんにもそんな思いがあるの?
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土門
ん?
まあ、それなりにな。 -
マリコ
なに?
教えて。 -
土門
お前なー。
それをここで聞くのか…? -
渋い顔の土門。
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マリコ
?
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土門
もう少し場所とか、雰囲気とかをだなぁ……。
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マリコ
???
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対して、相変わらずのマリコ。
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土門
あー、もういい。
お前はそういう奴だもんな。 -
土門はふいに立ち止まると、一歩先へ進んだマリコの腕を引いた。
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土門
俺はこの奇跡みたいな時間が続くといいと思っている。
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なぜだろう…マリコは心臓がドキリとした。
こんな時は何を備えておけばいいのだろう。
徳永さんに聞いておけばよかった、とマリコは後悔する。
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土門
つまり。
俺が本当に伝えたい思いは。 -
土門
一緒にいてくれ。
ずっと。 -
yesの返事以外、マリコは何も持ち合わせてはいなかった。
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