-
土門
もしあの時俺が止めなければ、群さんは全てをなげうつ覚悟だったはずだ。
誰かなんと言おうと、あの時の群さんは刑事だった。 -
マリコ
だから奥さんにもあんなふうに?
-
土門
俺にできるのはそれくらいしかないからな。
-
二人の視線の先には、妻の車椅子を押す郡司刑事の姿。
土門達に気づくと、夫婦はこちらに向かって頭を下げた。
土門もマリコも礼を返した。
そして二人は頷きあうと、その場を後にする。
-
マリコと並んで歩きながら、土門は郡司夫婦の姿が頭から離れない。
-
土門
いろんなものを飲み込んで、夫婦になっていくんだな。
いいことも、そうでないことも。 -
マリコ
そうね。
-
土門
こんな結果になってしまったが、群さんは大丈夫だろうか。
-
マリコ
きっと大丈夫よ。
たとえ短い時間でも、大切な人が今は生きて、側にいるんだもの。
-
マリコはかつて土門が瀕死の怪我を負い、生死の境を彷徨っていたときのことを思い出していた。
-
マリコ
それ以上、何を望むの?
-
土門
そうだな。
お前の言うとおりだ。 -
マリコ
ねえ。
-
土門
ん?
-
マリコ
…なれるかしら。
私たちも。 -
土門
そうだなぁ。
とりあえず回転焼でも食いに行くか? -
はぐらかす土門。
-
マリコ
横浜では今川焼っていうのよ。
-
土門
そうなのか?
どっちだって変わらん。
食えば同じだ。 -
マリコは呆れ顔で、歩き出した土門の後を追う。
-
土門
………なれるさ。
-
背中越しに聞こえた声。
-
マリコ
え?
-
土門
なれるさ、俺たちなら。
タップで続きを読む