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土門
っていうか、お前の実家引っ越しするのか。
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マリコ
母一人では広すぎるからって…。
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マリコ
でも、私が止めたの。
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土門
どうして。
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マリコ
だって、父さんが帰ってくる家がなくなっちゃう。
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土門
お前が帰る家も…だろ?
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マリコ
あら?
私が実家に帰っても、土門さんは平気なの? -
土門
どういう意味だ?
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マリコ
だって、土門さんて案外寂しがり屋じゃない?
帰るといつも隣にくっついてくるし、寝るときだってしがみついて離れないし。
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土門
お前なぁ、もう少し言い方ってもんが…。
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せめて、「寄り添う」とか「抱きしめる」とか表現してくれ…と土門はため息をつく。
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マリコ
言い方?
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土門
いや、何でもない。
俺はお前が実家に帰っても寂しくはない。
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マリコ
本当に?
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土門
ああ。
俺も一緒にいくからな。 -
マリコ
え?
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土門
一緒に帰って、ご両親に挨拶させてもらう。
帰る予定が決まったら早めに教えてくれ。 -
マリコ
本気なの?
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土門
こんなこと冗談で言えると思うか?
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マリコ
…………。
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マリコは黙ってしまう。
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土門
何だ、嫌なのか?
別に無理には…。
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違う、とマリコは首を振る。
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マリコ
今決めたわ。
今週末に帰る。 -
土門
そりゃまた、急だな。
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土門は苦笑する。
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土門
だったら挨拶の前に済ませておかないとな。
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マリコ
何を?
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土門
もちろん、プロポーズってやつだ。
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屋上だけが、二人の約束を聞いていた。
やがて夏を迎える心地よい風が吹き抜ける。
まるで二人を祝福するかのように。
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