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食脱医師
……何奴じゃ。
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軀
……わかると思うが、妖怪だ。
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軀
だが、安心しろ。
お前と、お前の赤ん坊を害しに来た訳じゃねえ。 -
食脱医師
なら、何用じゃ?
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食脱医師
我は間もなく死ぬ。
じゃが、この子を護るくらいの術はどうにかするぞ。 -
軀
本当に違うんだ。
どっちかつうと、いい話だ。 -
軀
お前と、お前の子供を助けてやる。
俺の下につくと約束し、魔界に来て、俺の侍医として過ごせ。 -
食脱医師
……なんじゃ、貴様は?
どういうつもりじゃ?
見ての通り、我は長くない。 -
軀
妖怪に転生すれば、長らえるさ。
俺は、これでも、魔界ではちょっとした妖怪でな?
俺の下に付けば、まずどんな妖怪も、お前を害そうとは思わねえさ。 -
食脱医師
……妖怪の男はこりごりなのでな。
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軀
俺は男じゃねえよ。
これでも女だぜ?お前と同じ。 -
食脱医師
酷い傷じゃ。
治して進ぜよう。 -
軀
お前……、おい、お前。
死にかけてるくせによ……。 -
軀
決めた。
お前は魔界に連れていく。
子供も俺の直属戦士として一流に育て上げてやる。
奴の種なら、弱い訳もねえ。 -
食脱医師
……?
どういう意味、じゃ……? -
軀
この赤ん坊の父親、な。
魔族だろう。
もしかして、図体がでかくて、しろがね色の髪が長くて、顔の左側にだけ、特徴的な模様のある男じゃなかったか? -
食脱医師
……奴を知っておるのか?
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軀
知っているも何も、奴は魔界屈指の有名人だぜ。
強さって意味でな。
俺も何度かやりあったことがあるが、バケモノみたいな強さで、しかも横柄な性格でどうしようもねえ奴だ。 -
軀
雷禅て、そういう名前だがな。
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食脱医師
そうか……。
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軀
奴とまともに打ち合えるのは、恐らく魔界でも俺くれえさ。
つまり、俺の下につけば、奴はそうそうお前と子供に手出しできねえ。 -
食脱医師
せっかくの申し出じゃが……我は、人として死ぬと決めておる。
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軀
そうか……だが、子供はどうする?
俺にあずけねえか? -
食脱医師
……一つだけ、頼みがある。
この子を、洛中にある、あの寺へ……。
我が師がいるはず。
我の子だと、上手いこと伝えてくれぬか。
無碍にはすまい -
軀
……わかった。
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軀
最後に、もう一度訊く。
本当に、妖怪に転生して、俺の下で平穏に暮らしたくはないのか?
死に水も取りに来ない薄情者の人間よりはマシな妖怪はいくらもいるぞ? -
食脱医師
何故かはわからぬが、そなたのその厚情には感謝する。
最後の慈悲を、この子に向けてくれぬか。 -
軀
おい、しっかり……。
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食脱医師
すまぬな。
もう、駄目のようじゃ。 -
軀
妖怪に神仏がどうとかわからねえが、恐らく、お前が生涯かけて仕えたそいつらは、お前をまともに扱うはずだ。
安心しな。 -
食脱医師
……礼として、我が死んだら、我の屍は、そなたの好きに使え。
相当な威力の毒が採れよう。 -
軀
……そういうことじゃねえ。
礼というなら、せめてお前と子供の名前を教えてくれ。 -
食脱医師
――……――
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