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黄泉
しかしな。
俺は雷禅、お前が、一種の狂人だと思っていた。
あまりのたわけた理想を、真面目に追及している、何の病気なんだと。
まさか、恋煩いだったとは。 -
雷禅
おうよ。
参ったか。
これが俺の人生だぜ。 -
黄泉
こうなってはまあ、愚かしいと嗤う気にはなれん。
その恋の結果の幽助が、魔界を、下手すると他の世界も変えたのだから。
それに……ちょっとうらやましいよ。 -
雷禅
ああん?
-
黄泉
何もかも燃やし尽くすような恋に身を捧げることができる者など、そうはいない。
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軀
まあ、大体その手の誰かを巻き込んだ『ロマンチシズム』ってのは、迷惑なもんだぞ実際。
コイツはそれでいいかも知れんが、その時生まれた子供ってヤツが、やたら苦労したってのは知ってる。 -
黄泉
ああ……そうだろうな。
人間の親に早くに先立たれたのでは。 -
雷禅
まあ、軀よぉ。
あいつのことに関しては、今更だが感謝してるぜ。
お陰であいつは生き延びて、幽助まで繋がったんだからよ。 -
黄泉
?
何があったんだ?
軀が、雷禅の最初の息子さんに何か?
初耳なんだが? -
軀
あいつよぉ……。
-
雷禅
いや、俺から話す。
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雷禅
嫁の産んだ、最初の息子ってのがな。
まあ、生きてるうちに伝説になったような名高い術師の血を引いた子供だってんで、けっこう位の高い寺に預けられて、そこで育てられたんだよな。 -
黄泉
ほう。
-
雷禅
嫁と違って、霊気による戦いに向いた奴でな。
俺の血も、多少は影響したのか、それはわかんねえんだが……。
しかし、才覚があるばっかりに、妬みも買う訳だ。 -
黄泉
ああ、よく聞く話ではあるがな。
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雷禅
マズイことに、その寺ってのが、いささか格が高すぎた。
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雷禅
当時の最高権力者の一族の中で、ないがしろにする訳にもいかないが、真正面の権力に近付けても厄介っていうポジションの奴を、出家って形にして放り込む先だった訳よ。
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黄泉
……もしかして、息子さんと同時期に……?
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雷禅
そういうこった。
息子より五つ六つ上だったかな。
まあ、ブサイクな、生まれの高貴さ以外に、何のとりえもないような奴よ。
そういう奴がよ、生まれつき霊力の髙くて将来を嘱望されていた倅に目を付けたのよ。 -
黄泉
ああ……。
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雷禅
ついでに言うと、俺の倅ってのは、もう、評判の美形でよお。
自慢だが、花のようだとか菩薩のようだとかよ。
ま、その辺もクズ野郎の嫉妬に拍車かけたんだろうが。 -
軀
おめえと似ても似つかぬ見た目ってのは、黄泉にも伝わるだろうぜ、けけけ。
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雷禅
うるせえブッ殺すぞ。
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雷禅
……まあ、ともかく、高貴すぎて周囲が手出しできない相手に、息子は追い詰められていったんだ。
このままじゃ、マジで命まで危ねえって状況になった。 -
黄泉
それで、どうなったんだ?
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雷禅
……さしもの俺も悩んだ。
昔だったら簡単だった。
クズ野郎を食い殺しちまえばいいんだ。
だが、俺には誓いがあった。
だけどな、あいつは……。 -
軀
コイツがウジウジしてる間に、コイツの倅、殺されかねねえくらいな状況だったからな。
じゃあてんで、オレが美味しくいただいた。 -
黄泉
……父親の雷禅の代わりに、軀が、その子を迫害してた人間を食い殺したと、そういう訳か……。
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軀
アレな見てくれの割には、美味かったぜ。
流石、高貴な人間は、いいもん食ってるよな。 -
雷禅
ま、あの時の借りは忘れてねえよ。
本当にありがたかった。
改めて感謝しとくぜ、軀。 -
軀
なんだ急にしおらしくなりやがって、気味悪ぃ。
借りだなんて思わなくていいから、幽助の方に何かあったら、守ってやれや。
今度こそ、な。 -
黄泉
……いや、疑問なんだが。
なんで軀は、雷禅の弱点になるその情報を、オレに流さなかったのだ? -
黄泉
あの時点では、オレと雷禅が噛み合って、深刻な事態にできたはず。
お前は、悠々漁夫の利を得られたはずだろう? -
軀
別に、雷禅なんかの弱点云々とか思ってねえよ。
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軀
オレは、あの小僧っこが個人的に気に入っていたんだ。
人間にしちゃあ、大した奴だった。
理由はそれだけだ。 -
黄泉
……お前さんらしい。
ああ、お前さんらしいよ……。
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