本編主人公の出番少なめ、原則名前のみ出演です。
海野家の千寿郎くん その6
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そうしてその夜――
「響凱さん!」
「来たか」
椛と音羽に連れられて千寿郎が響凱の庵へとやってきた。
「椛殿、音羽、すまないな」
「いいや、私も椛様も付き添いだ。ここで待機しているからお前は千寿郎殿とゆっくり離すといい」
「そうよ、私たちは私たちでお話してるから。ね?音羽」
「はい」
互いに笑う合うと響凱たちから少し距離を取るため歩き出す。
「お二人は随分親しいんですね」
「ああ、あの二人は『特別』だからな。
さて、ここで立ち話をすることもない。中に入ろう」
「あ、はい!」
庵の中に入る響凱の後を追う千寿郎。
「茶だ」
庵の一室に通すと茶を出す響凱。
「ありがとうございます」
響凱も湯呑を持って座る。
「あの、響凱さんが飲んでいるのは何ですか?」
「これか?これは『霊水(れいすい)』だ」
「霊水?」
「良くいう『霊験あらたかな』の水だ、海野家の場合、始祖の滝夜叉姫を祀る御社から湧き出ている水を小生たちの飲み水にしている。生き血を呑むわけにはいかんからな」
そう言って霊水を一口飲んで喉を潤す響凱。
「それで・・・千寿郎、お前は小生と話したいと言っていたが何を聞きたい?」
「あ、はい・・・」
緊張で少し強張っているが深呼吸をする千寿郎。
「響凱さんは・・・何故、使役鬼になったんですか?」
「?」
「霧香さんから少し事情はお聞きしました、あなたは霧香さんと出会うまでは鬼になる前から住んでいた屋敷にほぼ引き籠っていたと――・・・同族と仲良くする鬼がいるという話も聞きませんし、獲物だと思っている人間を受け入れるとも思えませんでした。
だから、何故――・・・霧香さんに心を開いて使役鬼になることを選択したのか聞いてみたかったんです」
「そうか・・・」
湯呑を置くと『どこから話したものか』と感がえる響凱。
「小生が鬼になった経緯は聞いているか?」
「いいえ」
「小生は鬼になる前、ある夢があった。
『自分の小説を書いて世に出すこと』だ、里見八犬伝を読み、小説に憧れ、いつか自分もこの手で素晴らしい作品を書き綴ってみたいと感じた。
それからはひたすら軍記ものや小説を読みあさり、文筆の練習に励んだ。
だが・・・世間の目は冷たかった。
小生がいくら書いても『面白くない』、『駄作』、『読む価値すらない』と酷評された。
最初は『こんなものか』と吹っ切ることもできた、しかし酷評は小生の人生の最後まで続いた。
ついには小生自身を否定するほどまで悪化していった」
人間だった頃の惨めな自分を思い出す響凱、あの頃に浴びせられた酷評や人格否定や誹謗中傷の数々。
耳を塞いでも脳裏にこびりついて離れなかった。
「極限まで追い込まれた小生はもはや己自身を『弱者』だと思い込んでいた。
だが『そうなりたくない』と懸命にもがく己もいたのだ。
『今に見ていろ』、『絶対に見返してやる』と小生に心無い言葉を浴びせた者達への憎しみから怒りの炎が燃え上がった。
そこを・・・あの男に、鬼舞辻に見込まれて鬼にされた」
晴れて『人間』という命に限りがあるものでは無くなった、そしてこれからいくらでも小説を書き綴ることができる。
そう考えると喜び、さらに執筆活動をしていた響凱だったが――・・・・。
「諦めなよ、つまらないよ――・・君の書き物は全てにおいてゴミのようだ!
『美しさ』も『儚さ』も『凄み』もない、もう書くのは止めにしたらどうだい?
紙と万年筆の無駄だよ、最近は昼間、外に出て来ないし、そんなふうだから君は『つまらない』のさ」
鬼になって作品を書いても評価されることはなかった。
「趣味の鼓でも叩いていればいい・・・だがそれも人に教えられるほどのものではないがね」
そう言って自分の作品を踏みつけられた、その時――、初めて自分は人間を殺して喰った。
「響凱さん!」
「来たか」
椛と音羽に連れられて千寿郎が響凱の庵へとやってきた。
「椛殿、音羽、すまないな」
「いいや、私も椛様も付き添いだ。ここで待機しているからお前は千寿郎殿とゆっくり離すといい」
「そうよ、私たちは私たちでお話してるから。ね?音羽」
「はい」
互いに笑う合うと響凱たちから少し距離を取るため歩き出す。
「お二人は随分親しいんですね」
「ああ、あの二人は『特別』だからな。
さて、ここで立ち話をすることもない。中に入ろう」
「あ、はい!」
庵の中に入る響凱の後を追う千寿郎。
「茶だ」
庵の一室に通すと茶を出す響凱。
「ありがとうございます」
響凱も湯呑を持って座る。
「あの、響凱さんが飲んでいるのは何ですか?」
「これか?これは『霊水(れいすい)』だ」
「霊水?」
「良くいう『霊験あらたかな』の水だ、海野家の場合、始祖の滝夜叉姫を祀る御社から湧き出ている水を小生たちの飲み水にしている。生き血を呑むわけにはいかんからな」
そう言って霊水を一口飲んで喉を潤す響凱。
「それで・・・千寿郎、お前は小生と話したいと言っていたが何を聞きたい?」
「あ、はい・・・」
緊張で少し強張っているが深呼吸をする千寿郎。
「響凱さんは・・・何故、使役鬼になったんですか?」
「?」
「霧香さんから少し事情はお聞きしました、あなたは霧香さんと出会うまでは鬼になる前から住んでいた屋敷にほぼ引き籠っていたと――・・・同族と仲良くする鬼がいるという話も聞きませんし、獲物だと思っている人間を受け入れるとも思えませんでした。
だから、何故――・・・霧香さんに心を開いて使役鬼になることを選択したのか聞いてみたかったんです」
「そうか・・・」
湯呑を置くと『どこから話したものか』と感がえる響凱。
「小生が鬼になった経緯は聞いているか?」
「いいえ」
「小生は鬼になる前、ある夢があった。
『自分の小説を書いて世に出すこと』だ、里見八犬伝を読み、小説に憧れ、いつか自分もこの手で素晴らしい作品を書き綴ってみたいと感じた。
それからはひたすら軍記ものや小説を読みあさり、文筆の練習に励んだ。
だが・・・世間の目は冷たかった。
小生がいくら書いても『面白くない』、『駄作』、『読む価値すらない』と酷評された。
最初は『こんなものか』と吹っ切ることもできた、しかし酷評は小生の人生の最後まで続いた。
ついには小生自身を否定するほどまで悪化していった」
人間だった頃の惨めな自分を思い出す響凱、あの頃に浴びせられた酷評や人格否定や誹謗中傷の数々。
耳を塞いでも脳裏にこびりついて離れなかった。
「極限まで追い込まれた小生はもはや己自身を『弱者』だと思い込んでいた。
だが『そうなりたくない』と懸命にもがく己もいたのだ。
『今に見ていろ』、『絶対に見返してやる』と小生に心無い言葉を浴びせた者達への憎しみから怒りの炎が燃え上がった。
そこを・・・あの男に、鬼舞辻に見込まれて鬼にされた」
晴れて『人間』という命に限りがあるものでは無くなった、そしてこれからいくらでも小説を書き綴ることができる。
そう考えると喜び、さらに執筆活動をしていた響凱だったが――・・・・。
「諦めなよ、つまらないよ――・・君の書き物は全てにおいてゴミのようだ!
『美しさ』も『儚さ』も『凄み』もない、もう書くのは止めにしたらどうだい?
紙と万年筆の無駄だよ、最近は昼間、外に出て来ないし、そんなふうだから君は『つまらない』のさ」
鬼になって作品を書いても評価されることはなかった。
「趣味の鼓でも叩いていればいい・・・だがそれも人に教えられるほどのものではないがね」
そう言って自分の作品を踏みつけられた、その時――、初めて自分は人間を殺して喰った。