第19話 約束
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この小説の夢小説設定鬼滅の刃のIFストーリー(もちろん二次創作)
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杏寿郎の震える肩を見て泣いていることは瀬津寿も気づいていたが敢えて触れることはなかった。
彼はただ杏寿郎が落ち着くのを黙って待っていた。
「・・・・っ、失礼した」
「いいや、たまには己の心に正直になるのも良いものだ」
相変わらず笑みは崩さない瀬津寿。
「ところで瀬津寿殿」
「ん?」
「急な話で申し訳ないのだが、海野霧香殿を俺の妻として娶りたい」
『本当に急な話だ』と思ったが慌てるわけでもなく、そのまま問う瀬津寿。
「霧香をか?」
「うむ、ぜひ娶りたい」
「ふーむ・・・」
瀬津寿は畑で妻とさつま芋を収穫している娘を見る。
「あの子は一番辛いことに巻き込んできた」
「・・・・」
「輝哉殿から産屋敷家と五大呪術家の間で交わした約定の事は聞いているか?」
「うむ、お館様より柱合会議の際お聞きした」
「ふむ・・・では、鬼狩りとして一族から子供を託すことも知っているということだな。
聞いての通り、我ら五大呪術家は産屋敷家と協定を結んだ際に約定を交わしている。
子供を後継ぎを除外し、鬼狩りの剣士として育手の元へ弟子入りさせ、鬼殺隊へ入隊させること。
これまで数多の子供たちが約定通りに育手の元へ弟子入りをし、鬼狩りの人材として入隊していった・・・そして、その多くが鬼との戦闘によって命を落とした。
私の兄弟たちもだ、そして最終選別に出る資格がないと判断され、呪術の才覚もない者は『五大呪術家の姓』を名乗ること許されなくなった。
君も会っただろう、ここに来た時に見た『種』たちを」
「うむ」
「『種』たちはその『才覚が無いと判断された者』たちだ」
「!」
「一門に居られなくなる場合は二つある。
一つは禁を犯し、処断された者。もう一つは育手や一族から『才覚無し』と判断された者。
特に『才覚がない者』は一門の者達から卑下され、されど秘密を守るために外に出すわけにもいかずに『姓』を剥奪する代わりに持ち場を与えられている。
一門の中でとても辛い立場を経験するものだ、この中には私の兄もいる」
「!」
「霧香もあのまま『才覚がない』と判断された場合はここに送られることになっていた。
だが、あの子は自力でそれを跳ね除けた・・・あの子が自身で呼吸を生み出し、技を鍛え、最終選別を通過したと聞いた時、私は心底安心した。
あの子は呼吸を会得できずに苦しんでいると晴哉から聞いていたのでな。
無事、鬼狩りとして自信を持つことが出来るだろうと安堵した。
だが、もう一つ私は心配なことがあった」
「心配なこと?」
「霧香の嫁ぎ先だ。
あいつの性格上、鬼殺隊は辞めぬだろう。さすればあの子の背中を守ってやれる強い男に嫁がせることなる」
「・・・・・」
「杏寿郎殿、君は守れるか?あの子を・・・守れると私に約束できるか?」
瀬津寿の顔は先ほどの柔らかいものではなく『娘を想う父』の顔になっていた。
「守る!俺は命に代えても霧香を守る!」
「命に代えられては困る」
「!?」
「私は鬼との大きな戦いは私の生きている時代で最後にしたいと考えている。
子供たちには死ぬ時は、できれば愛する家族に看取られてほしい・・・思い出の詰まる屋敷の中でな。
無論、私自身も死ぬのは愛する家族に囲まれてと思っている。
瑠火殿が君に説いたこともあるだろうが、己が生き抜くのもまた『強さ』だ。
俺は『己の命を犠牲にして弱き者を助ける強さ』よりも『共に生き抜く強さ』のある男に霧香の夫になってほしい。
あの子と一緒に闘い生き抜く約束ができない男に嫁にやるつもりはない」
杏寿郎は答えられなかった、鬼殺隊でしかも柱である以上、自分は死と隣り合わせだ。
そして母と交わした約束、『強き者として生まれた自分の役目』・・・初めて迷いが生まれた。
「どうだ?杏寿郎殿――、あの子と共に戦い、生き抜く約束ができるか?」
「生き抜くというのは簡単なことだろうか?」
「いいや、難しいことだ。だから私は『あの子と共に』と言ったのだ」
瀬津寿の顔はまた笑顔に戻る。
「人間は一人では限度がある、だから支えるんだ、夫婦で無理なら親族と、それでも足らぬなら仲間と一緒に・・・そういうものではないか?」
「!」
確かに、自分は何を考えていたのだろうか・・・自分は確かに柱だが一人では何もできない。
周りには仲間がいる、一人で抱え込む必要はないのだ。
「瀬津寿殿、あなたの願い、俺に叶えさせてほしい!霧香は死なせない、俺も死なない、必ず生き抜き、彼女を幸せにする!約束しよう!」
吹っ切れた顔で杏寿郎は再び瀬津寿に願い出た。
「そうか、愼寿郎殿の息子ならば約束を違えぬことはないだろう、霧香をよろしく頼む」
瀬津寿は深々と頭を下げた。