第19話 約束
名前変換
この小説の夢小説設定鬼滅の刃のIFストーリー(もちろん二次創作)
詳しくは設定、注意書きをお読みください。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「顔に土がついてますよ」
「・・・・」
自分の顔を拭った布には土がべっとりとついている。
「すまんな」
「いいえ、でも・・・煉獄さんもそういう顔をするんですね」
「む?」
「『照れくさそうな顔』です、柱である時の煉獄さんはこう・・・凛々しい方なので、こんな風に作業着で土まみれになっている姿なんて想像つきませんから」
杏寿郎はハッとした、想像もつかなかったのは霧香の方だ。
産屋敷家で出会った時は『表情の読めない』娘だと思ったのだ、それがこんなにも柔らかく笑うのか・・・。
「それは君もだろう」
「え?」
杏寿郎は霧香の頬に手を伸ばした。
「君の笑みはとても可愛らしい」
「・・・・っ///」
二人の間の空気が変わった、周りの音が聞こえなくなり、お互い目が離せない。
「「・・・・」」
霧香の手ぬぐいを持った手を杏寿郎が握り締める。
兄以外に長く異性とかかわってこなかった霧香にとって杏寿郎は初めての異性だ。
「霧香、来ていたのか」
「!」
男の声に素早く霧香が振り返った。
「父さん!母さん!」
杏寿郎は霧香の背中越しに見ると夫婦らしき男女が作業着を着て立っていた。
「客人も一緒か?」
「煉獄杏寿郎と申す!失礼している!」
すくっと立ち上がり礼をする杏寿郎。
「煉獄・・・、愼寿郎殿の御子息か」
「父を御存じか?」
「ああ、当主だった頃に二、三度お会いした」
霧香の父で海野家の前当主は優しく笑う。
「霧香、少し杏寿郎殿と話したい。借りてもよいか?」
「あ、はい」
「じゃあ、私と唐芋を取りましょう」
母親が畑に入ってきた。
――――――――――――――――
土で汚れた体をきれいにして元々着ていた服に着替えた杏寿郎は霧香の父と一緒に畑の近くの屋敷で話をすることになった。
「遅くなったが私は瀬津寿(せつじゅ)という、今は長男の晴哉に当主を譲り、妻の安岐(あき)とともに隠居をしている」
瀬津寿と名乗った前当主は杏寿郎に座るように促す。
「今は君が炎柱をしているそうだな」
「はい」
「聞いた話によると、今・・・愼寿郎殿は酒に溺れているとか」
「・・・・」
杏寿郎は真顔になる。
「落ち着いてくれ、愼寿郎殿を侮辱するつもりはない。
愼寿郎殿も心境の変化があってそうなったのだろう、理由がどうであれ私に責める権利はない。
それに『責める』ならば息子である君がしているだろうからな」
「!」
隠居しているとはいえ、海野家を取り仕切っていた者だ。瀬津寿も煉獄家がどのようになっているかは聞きかじったくらいだが知っている。
「父は・・・」
「・・・・」
杏寿郎が話し始めた。
「立派な剣士でした、悪を斬り弱きを助ける・・・俺や弟の千寿郎にとって大きな存在でした。
俺は父に憧れて、その志に近づきたくて剣の鍛錬に励んできた。
しかし、歴代の炎柱が残した書物を目にした日から徐々に父に変化が出てきました。
そして母が病死して一気に変わってしまった」
「瑠火殿か、火津地と屋敷に出向いた際に会ったことがある」
「父は母をとても愛していました、大きな存在でした・・・その母を失い、また炎柱の書のこともあり、父の中の炎が小さくなってしまった。
でも、俺は父に再び昔のように笑って欲しいと思います!今はまだ、その時でなくても・・・いつか、昔のように・・・あの強く、凛々しく、優しい父上に・・・っ」
そこで瀬津寿が手で制した。
「君は偉い」
「・・・・っ」
「世間が『落ちぶれた』と言っている父を責めることもせず、弟の視るべき背中であるため炎柱を継ぎ、誇り高く生きている。
瑠火殿も誇らしく思っていることだろう、そして君の『昔の父に戻したい』という気持ちも見守っているだろう。
諦めぬ限り、変わる・・・必ずという保証はできぬが愼寿郎殿がまた変わることもできるだろう、焦らなくていい。
君は君らしく、弟と共に父を支えていくといい」
杏寿郎は気づかないうちに涙が流れていた、とても大きな何かに包まれているような感覚だ。
「今の君を自身で誇りに思うといい、それだけのことを君は今までしてきたのだから」
「っ・・・」
杏寿郎は何も言えずにただ頭を下げるしかなかった、涙を見せぬように、しかし嬉しい気持ちは伝えられるように・・・。