間章 それぞれの時間・煉獄杏寿郎
名前変換
この小説の夢小説設定鬼滅の刃のIFストーリー(もちろん二次創作)
詳しくは設定、注意書きをお読みください。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「霧香、杏寿郎殿と仮祝言を挙げなさい」
「つっ!」
急なことに驚く霧香。
「実はな、杏寿郎殿は柱稽古に入る前にお役目を返上したそうだ」
「えっ・・・」
初耳だった、確かに杏寿郎の稽古は無かったが何か事情があるのかと思っていたからだ。まさかお役目を返上してからだとは思ってみなかった。
「本当ですか・・・?杏寿郎さん」
「ああ」
「何故ですか!あれほどお父上と同じ柱になったことを喜んでいて誇りに思っていらしたのに!」
「落ち着きなさい、霧香」
「でも母さんっ・・・」
「落ち着け」
「つっ!」
瀬津寿の重い声に固まる霧香、厳しい顔をしていた瀬津寿だがいつもの柔らかい表情に戻る。
「杏寿郎殿はな・・・お前のためにお役目を返上したのだ」
「私の・・・ため・・?」
「そうだ、杏寿郎殿はな・・・お前の帰る場所になりたいと言ってくれたのだ。お前は自分の妻だからと、妻の帰ってくる場所は自分の所であって欲しいと」
「杏寿郎さん・・・」
「すまない、霧香。共に戦場を駆け、最後まで一緒に互いを守りぬこうと約束したのに・・・だが、俺は不甲斐ないことに左目を負傷した。
確かに眼球も戻り、視力も見え始めている・・・しかし、片目で戦うのには限界があると感じるようになった。
俺も所詮は人間だ、いくら強い心を持っていても、技量を持っていても、それは体がなくては発揮できない。
柱に復帰してから数ヶ月、何度かその現実に打ち当たった。
剣士としての道を諦めるつもりはない、だが無惨との戦いには俺は足手纏いだ。そのせいで君を死なせることになるのは嫌だ」
「・・・・・・」
「情けないと思われるかもしれない。
だが俺はここで君の帰りを待ちたい、遠く離れていても俺たちの心は一つだと思っている。この鍔が俺たちを結び付けてくれる」
そう言って刀鍛冶の里に出立する前に渡したお揃いの刀の鍔を見せる。
「同じ場所にいなくても俺たちの心、魂は一つだ」
「杏寿郎さん・・・」
無限列車の任務の後、杏寿郎に施された眼球修復の手術と視力回復の薬物治療には副作用があったのだ。
眼球は問題なく細胞が機能を回復すれば元通りになるが問題は視力の方だ。眼球には神経がある、薬物の副作用で倦怠感やめまいなどが時折起きるのだ。
そして視力が回復したと言っても以前の様な数値にはならない、そのため右と左とでは差が激しいのだ。当然、猗窩座にやられた左目の方が右目よりも著しく視力は弱い。
杏寿郎の話から察するに彼はもう両目を開いての戦闘は難しいのだろう・・・。それでも彼は自分と父にしてくれた約束を守ろうとしてくれている。
同じ場所に自分はいないが心、魂は一緒にいると――・・・自分が不安になった時、諦めそうになった時、泣きそうになった時、勇気づけ、背中を押してくれると――・・・。
「こんな弱い俺を君は嫌うか?」
悲しい表情をしている杏寿郎にたまらず彼の胸に飛び込んだ。
「そんなことありませんっ・・・あなたは弱くなんかない!
これまであなたと共にした無限列車も・・・加勢に来てくれた遊廓の時も救われました!
刀鍛冶の里でもあなたの魂の吹きこまれたこの鍔にも私は幾度となく助けられましたっ・・・同じ戦場に立たずとも心は一つ、私にはそれで充分ですっ・・・愛している人が見守っていてくれるなら私は幸せですっ・・・」
力強く抱きつき、本音を吐露してくれる彼女を杏寿郎は優しく包み込む。
「ありがとう、君が俺の妻で本当によかった」
二人の姿をみた瀬津寿と安岐はもう迷う事はないようだ。
「では二人とも祝言のことは了承したと思って良いな?」
「はい」
「私もです」
「うむ、といってもこれは仮祝言だ。身内だけで行う式だ。
急だが明日にでもすぐに執り行う、そしてお前は煉獄家に嫁ぎ、籍を入れるのだ。良いな」
「はい、でも大丈夫でしょうか?身内だけとはいえ明日というのは少々急では・・・」
「そのことならば大丈夫だ、お前たちの答えはある程度予想はできていたからな。それに身内だけの祝言だ、そんなに大掛かりにする必要もあるまい」
「ええ、だから少し前から準備をしていたのよ」
何と用意周到な両親であろうか・・・。
そして翌日の朝、身内だけの仮祝言が行われた。
生憎、千寿郎は柱稽古から戻ることはできず、不参加であったが代わりに槇寿郎が祝いの言葉を贈ってくれた。
「霧香殿、我が愚息のことくれぐれもよろしくお願いしたい」
「槇寿郎様・・・いいえ、お義父上。私の命ある限り精一杯杏寿郎さんを支えます。そして必ず彼の元へ戻って来ます」
槇寿郎の手を握り締めて彼女は言った、自分の妻の瑠火と同じく真に心の強いおなごだと感じた槇寿郎だった。