第83話 最終稽古・悲鳴嶼行冥
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この小説の夢小説設定鬼滅の刃のIFストーリー(もちろん二次創作)
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ドドドドドドド・・・
滝に打たれて、丸太を担ぎ、遅れた日数を取り戻そうと思う傍ら考え続けていた。
今回は休息のおかげで滝行や丸太担ぎでぶっ倒れることはなかったが、次が問題だ。霧香たち華陽隊は行冥より岩の移動距離を一般の隊士たちよりも長い『三町』移動させるように言われている。
しかも岩といっても自分より遥かに大きく、重いものをだ。確かに今までの戦闘経験で力はつけられてはいるものの根本的な肉体強化は感覚強化のようにとはいかない。
この大きな岩を動かすには玄弥の言っていた『反復動作』が重要になってくる、今まで以上の集中力が必要になってくるのだ。
「つっ」
試しに全集中の状態で岩を押してみた、だが――・・・。
〈つっ・・・動かないっ!?〉
岩はびくともしない、反対に足が滑り体の態勢が崩れる。これは足が地についていないのと同じことだ。
〈全集中常中よりも上の集中力が必要って・・・どんなん!?〉
なんだかちょっと泣けてくる霧香。
だがわからないでもなかった、何故ならそれほど迫った状態を自分は経験しているからだ。上弦の鬼との戦いで、特に上弦の陸の妓夫太郎、そして積怒、空喜、可楽の三鬼に対して一人で闘った時の感覚。あれはまさに集中力が極限に達した状態だった。
短い時間だったがあの状態に入るのが制御できるのならばおそらく今後の戦いにも優位に働くだろう。
「ふう――・・・」
一呼吸ついて霧香は考えた、あの時、あの四人の鬼を相手にした時に自分が何を感じていたか。
まずは・・・失意。
同じ人間だったはずなのに『鬼』という変わり果てた姿に変貌してしまった同胞に対しての失意。
さらに・・・悲しみ。
大切なものを忘れてしまったことへの悲しみ。
そして最後に・・・怒りだ。
弱き者を犠牲にして伸し上がってきたことへの怒り、自分たちも同じだったはずなのに強くなるためには手段を択ばないという極悪極まりない行いへの怒り。
そしてソレらを生み出した全ての元凶。
己の欲のために他者を利用し、殺し、支配し続け、さらに力を求める悪鬼。
鬼舞辻無惨、あの男の生み出したもので苦しめられた自分の大切な人たちへの怒り。
〈鬼舞辻無惨・・・〉
霧香の両手が岩に添えられる。
〈お前は私が必ず倒す〉
鬼舞辻無惨によって引き裂かれた縁壱と夜霧。
望まぬまま鬼にさせられた勇翔。
利用させられるだけされて力がなくなれば厄介者とばかりに捨てられた響凱。
無惨の生み出した鬼によって喰い殺された数多の人間の魂。
〈全て・・・全てお前の業だ・・・〉
ズズッ・・・ズズッ・・・
先程まで動かなかった岩が滑るかのように動き始める。
〈必ず償わせる・・・お前は絶対に地獄に落としてやる〉
静かに呼吸をし、しかし動作に乱れもなくそのまま岩を押し続けた。
「心配なさそうね」
「ええ」
影から霧香の様子を見ていた琴乃とアカリ、二人はもう既に行冥に課せられた修業を終えていた。
それもあり最後の一人である霧香が修業を終えるまで待っていたのだ。
「玄弥くんの助言は本当に助かったわ、アレがなかったら私たちもただ力任せに岩を押しているだけで『三町』なんて長い距離、動かせなかったでしょうね」
「・・・・そうね」
「あら?やけに素直ね」
「悪い?助かったことは認めてるんだから、正直に言ったまでよ!」
「ふふふ、いいえ、良い傾向だと思うわ」
「フン」
「ねえ、アカリ」
「?」
「私たち、出会えてよかったと思うわ」
琴乃は今は懐かしい最終選別試験の日の事を思い出していた、同じ五家の出身とはいえ、顔を合わせたのはあの日が初めてだった。
思えば生き残れるかもわからなかったあの試験の後、お館様より『華陽隊』の名前を贈られ、多くの任務を三人でこなしてきた。
その中で三人の関係も変わったと思うのだ。それも良い方向で。
もしかしたら出会うべくしてそうなったのかもしれないと最近は思うのだ。
「そうかもしれないわね」
アカリも同じことを考えていたようで頷いた。
その後、三刻の時間を使い霧香は行冥に課せられた『岩を三町の距離を移動させる修業』を完了させたのであった。
続く