第75話 小さな幸せ
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この小説の夢小説設定鬼滅の刃のIFストーリー(もちろん二次創作)
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「少し前から意識を失う回数が増えた、もう死期が近い・・・今なら間に合うかもしれないぞ」
紅虎の言葉に縁壱が『是』と答えたのは言うまでもない。
三人は海野家の屋敷へ駆けて行った。
「夜霧殿っ・・・!!」
普段なら礼節を弁える縁壱だがこの時ばかりは襖を乱暴に開け放った。
「・・・・縁壱殿」
布団の側に座っていた冬寿が振り向いた。
息切れをして立っている縁壱を見て眉をひそめた。
「すまない・・・」
今まで座っていた位置から少し横にずれた、冬寿の後ろには一式の布団が敷かれており、夜霧が横たわっていた。
「・・・・っ、・・・・・っ」
深呼吸をし、ふら付く足を動かして縁壱は布団の傍らに腰を下ろした。
「夜霧殿・・・」
横たわっている夜霧は自分の知っている彼女ではなかった。
肌が青白く、髪も白い、体も少し瘦せている。まるで若い老婆のようだ。
「少し前に・・・逝ったよ」
「つっ・・・」
縁壱は夜霧の手に触れた、まだ少し温かい・・・本当に自分が到着する少し前に息を引き取ったようだ。
ぎゅっ――・・・
力のない夜霧の手を握って縁壱は静かに泣いた。
「・・・・・・」
『黒椎と紅虎が戻った』と式神から連絡を受けた津雲もその場に合流した。
「ここ数ヶ月、妹は体調を崩してな。
姿もみるみる変わっていった、髪は白く、目は黒くなった。まるで『終わりが来た』とばかりに力が無くなっていったんだ。
食も細くなって痩せてしまった、本人は『大丈夫』だと言っていたが、心配をかけないようにしているのは皆分かっていた。
最期まで周囲を気にかける、あの子らしい日々だった」
夜霧の額を優しく撫でると冬寿は縁壱の肩に手を置いた。
「君を探すように使役鬼に命じたのは妹との約束を果たすためだ」
「約束・・・?」
「しかしこの約束を果たすにあたって私から君に聞いておきたいことがある。
私の問いへの君の返答次第では約束を私個人の判断で白紙に戻し、君との縁を切らせてもらう」
「!」
その時の冬寿の顔は『当主』の顔ではなく『兄』の顔をしていた。
縁壱のことは『信用』しているが『信頼』となれば話は別だ。
『実力』は確かでも『人間性』に問題があればそれは『信頼』には値しない。
冬寿はそれを見極めようとしているのだ。
「君は・・・・夜霧の事をちゃんと愛していたか?
亡き妻の代わりやその場の雰囲気で流されて関係を持ったのならば今すぐに帰ってくれ」
「・・・・・」
冬寿に問われた縁壱は涙を拭くと懐からあの巾着袋を取り出した。
「これは私の生涯の宝です、兄上に頂いた笛と亡き妻・うたの着物の切れ端で作られた巾着です。
そしてその二つを大事に結わえている組み紐は夜霧殿が私のために拵えてくれたものです。
どれも私にとってかけがえのない宝です」
兄にもらった笛を亡き妻であるうたが守ってくれている、そして二人の想いを夜霧が零れぬように守ってくれている。彼女は縁壱の過去を含めて受け止めてくれた。
冬寿も縁壱の手の中にある『宝』を見る、巾着袋はところどころ繕った痕がある。
「巾着袋に繕った痕があるが、それももしや――・・・」
「夜霧殿がしてくれました」
再び夜霧の手を握る縁壱。
「私はいい加減な気持ちで彼女と接していたつもりはありません。
彼女のことを本当に・・・愛していました」
夜霧に注がれる縁壱の表情はとても柔らかかった、彼の気持ちが見えた気がした。