第75話 小さな幸せ
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この小説の夢小説設定鬼滅の刃のIFストーリー(もちろん二次創作)
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庵での話から数年が経過した。
「縁壱さん」
「夜霧殿」
夜霧は五大呪術家から訓練に出した者達の様子を見に稽古場を訪れるのが日課になっていた。
「一門の方たちはどうですか?」
「皆励んでいますよ、私が初めに呼吸を教えた方々、特に柱と呼ばれる方々は飲み込みが早く、また独自の呼吸を編み出し、それを今あなた方のお家からお預かりした方々に教えています」
「独自の呼吸・・・ですか?」
「ええ、私は武家の生まれでしたが剣術を習ったことはありません。
兄を教えていた指南役の様子を見て我流でここまで来ました」
「お兄様がいらっしゃるのですね」
「ええ、今は生家を継いでいます。といっても私は母が亡くなったと同時に家を出ましたのでその後、兄がどうしているかはわかりません」
縁壱が少し遠くを見ているような気がする、おそらく生家にいた幼少期を思い出しているのだろう。
「寂しいですか?」
「・・・・はい、正直に言ってしまえば・・・私は兄が好きでしたので」
懐から巾着を取り出す縁壱。
「それは?」
「兄が私にくれたものです」
「拝見してもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
手渡された巾着袋から中身を丁寧に取り出す。
「これは・・・笛でしょうか?」
「はい・・・私と兄は双子でした、しかも私は生まれながら額に痣がありました。
父は双子であり、痣を持っている私を気味悪がり殺そうとしたそうですが、母が必死に止めて、歳が十になったら寺に入る約束で生かされたそうです。
私は母と一緒に日々を過ごしていました、小さな部屋でずっと・・・、そんな中、兄は周囲の目を盗んで私に会いに来てくれました。その笛は兄が『もしも何かあれば吹け』と私にくれたのです、『吹けば自分が助けに来る』と言ってくれて・・・」
「・・・・そうですか、縁壱殿にとってこの笛は宝物なのですね」
「ええ、とても大事なものです」
「この巾着袋は・・・お母様のものでしょうか?」
目にした時から女ものの柄であることは気づいていた夜霧。
「いいえ、妻のものです」
「!」
冬寿から縁壱が鬼殺隊に入るまでの経緯を少しだけ聞いていた夜霧は申し訳なく思い、慌てて口元を押さえた。
「ご、ごめんなさいっ・・・私、思い出させてしまうようなことをっ・・・」
縁壱の妻・うたは身重で彼が産婆を呼びに行っている間にお腹の子ともども鬼に殺されてしまった。
虐げられてようやく掴んだ幸せを壊された縁壱の哀しさ、苦悩はいかばかりだっただろうか・・・、それを考えると自分の軽率な発言が彼の心を塞いでしまうのではないかと不安になった。
「夜霧殿・・・」
縁壱が驚いたように自分を見ている。
「え・・・?」
ポロ・・・ポロ・・・
自分でも気づいていなかった、頬に滴るものがあった。
涙だ、自分は泣いていた。縁壱の失ったものを考えると自然に涙が零れてしまったのだ。
それは共感ならなのか、同情ならなのか・・・彼女にはそれはわからない。
「あなたは優しい」
「!?」
縁壱は頭を撫でてくれた。
「あなたは他人のことを自分のことのように思い、涙を流せる。
周りがどう言おうともあなたは心の優しい人だ」
その後、縁壱は『ありがとう』と言ってくれた。
それからだった、二人の距離が急激に縮んだのは―――・・・・。