第65話 霞の晴れた先
名前変換
この小説の夢小説設定鬼滅の刃のIFストーリー(もちろん二次創作)
詳しくは設定、注意書きをお読みください。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―― きっかけを見落とさないことだ。
ささいな事柄が始まりとなり、君の頭の中の霞を鮮やかに晴らしてくれるよ ――
兆しは既にあったのかもしれない。
『人のためにすることは結局、巡り巡って自分のためにもなっているものだし』
『情けは人の為ならずって言葉もありますから。
人に良いことをすればそれが巡って自分に良い報せをもたらす、人は助け合う生き物ですから』
炭治郎と霧香の言葉を聞いたあの時、無一郎の頭の中の霞は少しずつ薄れていったのかもしれない。
彼は自身のことを少しずつだが思い出していた。
父親は炭治郎と同じく赤い目をしており、杣人(そまびと)をしていた。
『杣人(そまびと)』とは山で樹木を植えて育て、また成長した樹木を伐採して木材などを製材して生計を立てている人々のことである。
無一郎の父もその一人だった、息子である無一郎もその手伝いをしていた。
彼が十歳の時、母親は風邪をこじらせて肺炎になり死んでしまった。
また父もその母のために嵐の中、薬草を採りに行ったが誤って崖から落ちて帰らぬ人になってしまった。
無一郎は十歳という幼い年齢で同時に両親を失ってしまった、しかし本当に独りになったのは十一歳の時だ。
「つっ・・・」
霞が晴れていく。
―― 僕には兄がいた、瓜二つの双子の兄が・・・ ――
そう、彼は一卵性双生児だった。
兄の名は『有一郎』、彼は生前からよく言っていた言葉がある。
「情けは人の為ならず、誰かのために何かしてもろくなことにならない」
人のために何かしようとした結果、悲劇が起きてしまったことを兄はずっと疑念を感じていたんだろう。
だから皮肉のように『人のために何かしようとするな、したってろくなことにならない』と言っていた。
無一郎はそれがただただ悲しかった。
例え治る見込みがなかったとしても母のために行動した父のことを否定してほしくなかった。
「嵐の中を外に出なけりゃ死んだのは母さん一人で済んだのに」
「そんな言い方するなよ!!あんまりだよ!!」
「俺は事実しか言ってない、うるさいから大声を出すな。猪が来るぞ」
有一郎は薪を巻き付けた背負子の綱を握り直して歩き出す。
「無一郎の『無』は『無能』の『無』だ、こんな会話、意味がない。結局過去は変わらない・・・ああ、こういう言い方もあるか、無一郎の『無』は『無意味』の『無』」
「・・・・っ!」
有一郎は無一郎とは対照的にきつい性格の少年だった、夢や理想は持たない現実主義者。
そんな兄を無一郎は苦手だった、実際兄弟二人での暮らしは息が詰まりそうだった。
そして自分は兄に嫌われていると思っていた。
そんな二人の家にある日、訪ね人が現れた。
産屋敷あまねである、出迎えたのは無一郎で、最初はあまりの美しさに白樺の精が現れたのかと思った。
あまねが訪ねてきた理由は有一郎と無一郎が『始まりの呼吸の剣士の子孫』であることを伝え、是非力を貸してほしいとのことだった。
「すごいねっ!僕たち剣士の子孫なんだって!!しかも『一番最初の呼吸』っていうのを使う凄い人の子孫!」
「知った事じゃない、さっさと米を研げよ」
有一郎はあまねの話を跳ね除け、暴言を吐き、追い返してしまった。
しかし無一郎はあまねの言ったことを誇らしく感じていた、食事の支度をしている今でもその興奮が治まらない。
「剣士になろうよ!鬼に苦しめられている人たちを助けてあげようよ!僕たちならきっと――・・・・」
ドンッ!
「つっ!?」
有一郎は包丁を持った片手を大きく振り上げたかと思うと大きな音を立ててまな板の上の大根を切っていった。
まるで無一郎の言葉を遮るように、否定するように・・・・。