縁壱零式に（ショボい）一撃を喰らわせてやっとまともな食にありつけた炭治郎はその後も修行を続けていた。

「たいぶ掴めてきたかな？」

「そうですね、以前よりも動きが良いです！」

見守っている霧香も小鉄も安心している、そしてその時は来た。
炭治郎が縁壱零式の攻撃を回避して隙を見出した。炭治郎も渾身の一撃の入り処だということは分かっているはずだ。

「つっ・・・！」

しかし動きが鈍る。

「！」

それは霧香も感じた、炭治郎は元来心根の優しい子だ、他人のことも我が事のように思ってしまう情に脆い子なのだ。

その時だ―――・・・・。


「斬って―――！！壊れてもいい！！絶対に俺が直すから！！」


小鉄が叫んだ。


「炭治郎さんは人が良すぎです・・・でもダメです！あそこで躊躇ったら！
俺はそんな炭治郎さんだからこそ、死なないで欲しいっ・・・誰よりも強くなって欲しいんです！！！」

両手を思いきり握り締めて小鉄は叫んでいた。


「迷うな、炭治郎！振り切れ！！」


小鉄の気持ちを汲み取った霧香はさらに叫んだ。



「はいっ！うああぁぁっ！！」







バキイィィン！！


炭治郎の一撃が縁壱零式の首に命中した、しかし刀が限界だったのか、振り方が悪かったのか刀は折れてしまった。


「アイダッ！！」

そして炭治郎本人はまた受け身が取れずに尻もちをついた。

「炭治郎さんっ！」

小鉄と霧香は炭治郎に駆け寄った。

「大丈夫ですか！？」

「ご・・・ごめん、借りた刀折れちゃった」

「いいんですよ、そんなのは！」


自分が満身創痍なのにも関わらずに借りた刀の謝罪をするとは・・・とことんお人好しである。
霧香は苦笑とため息を漏らす。


「あっ！？」

「ん？どうしたの？」

「見てください！」

小鉄が人形の方を見て驚愕している、すると何かが割ける音がした。
見ると人形の顔に次々にヒビが入っている、おそらく炭治郎の一撃が最後の限界だったのだろう。
大きな音を立てて縁壱零式の頭部が崩れ落ちた。

「「「！？」」」


すると更なる驚きがあった、なんと人形の胴体の部分に刀が埋まっていたのだ。


「な、なんか出た！？こここ小鉄くん！何か出たよ！何コレ！？」

「いやいやいや、分からないですって俺にも！何でしょうかこれ！！」


「こらこら、軽業師みたいなことしてはしゃいでるんじゃないの」

興奮のあまり芸を披露している二人を余所に至って冷静な霧香、人形の胴体から刀を取り出す。

「古い刀だね、少なくとも三百年は経過してる」

柄や鍔、鞘の破損具合を見ながら淡々と話す霧香。

「さ、三百年以上前の刀！？これ・・・やばいよ！やばいよね！？どうする！？」

「興奮が治まりませんね！！」

「うん！！」

「いやいや、少しは落ち着きなよ」

そう言って炭治郎の前に刀を差し出す。

「え？」

「『え？』じゃないよ、これは炭治郎がどうするのか決めな」

「ええぇ――！？だ、ダメですよ！だって人形の中にあったんだからコレは小鉄くんのです！」

「いえいえ！この刀が人形の中に入っていたのは俺も知らなかったんですっ！これを見つけたのは炭治郎さんですから、もももも貰ってくださいっ！是非！！」

「ややややや駄目でしょっ！！人形を壊せたのだって今まで蓄積されていた剣戟があって、偶々俺の時にこうなっただけだろうし、だめだめ、そんなの！！」

「炭治郎さん、ちょうど刀が打ってもらえず困ってたでしょ？良いんですよ、持ち主の俺が言うんですし！」

「そんなそんな、君そんな！」

「だから普通に会話しなってば、君たち」

組体操のような体勢で会話している二人にもはや脱力している霧香。