間章 ある日の千寿郎くん
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この小説の夢小説設定鬼滅の刃のIFストーリー(もちろん二次創作)
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「千寿郎」
「はい?」
「お前、何のために剣士になりたかったんだ?」
「え?」
『何のため』にって・・・。
「それは、兄上のような立派な剣士に・・・」
「それで?」
「え?」
「立派な剣士になって何がしたかった?」
「え?」
「俺が聞いているのは『薄っぺらい表の理由』じゃない、お前の『心の根っこ、底にある理由』の方だ」
「僕の心の底?」
那津蒔さんの表情が少し変わった。
「その『薄っぺらい表の理由』が叶わなかったから剣士を止めるってんなら俺は賛成だ。
そんな浅い感情のために鬼狩りに加われたんじゃ迷惑だ、杏寿郎にも失礼だろう」
「浅いっ・・・!」
自分の憧れを『浅い』と表現されたことに少しカチンときてしまった僕は膝の上の拳を強く握った。
「何事においても中身が空っぽのままじゃ迷惑だし失礼だってことだ。
『子は親の背中を見て育つ』と言うが『体は育つ』だろうよ、だがな・・・事を成すことに不可欠なのはそいつの中身だ、根っこの部分なんだよ。
杏寿郎は『自分が強い力を持って生まれた者』という自覚を持ち、『弱い人々を守る』という気持ちを自分でも持っていたから、あそこまで自分を鍛え上げることが出来たんだ。
千寿郎、お前はどうだ?親父さんや杏寿郎の背中や家の役目ばかりに目が行き過ぎて、一度でも自分の心と言葉を交わしたことがあるか?」
「っ!」
『こんなんじゃ駄目だ、もっと、もっと・・・鍛錬しなければ!』
『俺には兄上のような才能も、父上を止める気力もないから・・・』
『俺も柱になったら父上に認めてもらえるでしょうか?』
『父上のように!兄上のように!』
〈ねえ?〉
『?』
〈君は何で強くなりたいんだ?〉
『強くならなければ立派な剣士になれない!僕は煉獄家の男児だから・・・呼吸を、兄の継子になって後世に繋げなければ!』
〈呼吸を身に付けた後、後世に繋げる間、君は何をするんだい?〉
『・・・・』
答えられない、もう一人の自分・・・おそらく自分の心に向き合って、疑問を投げかけられたら僕は・・・。
「お前は杏寿郎ではないんだ」
「・・・・」
「お前に兄のような才能がなくて当然だ、お前の才能は『お前だけのもの』だからだ。自分の才能で強くなれ、千寿郎」
「僕の才能・・・」
「お前に剣術の才能がないとは思わん、なかったら杏寿郎が止めてるだろうからな。
これからは己の才能で鍛錬しろ、自分の心で決断し、経験して得たものを糧として主軸を作れ。
それでも上達しないようなら見切りつけて諦めろ、他流で学んでも同じ結果ならほとんど望みが薄いからな、俺も止めはしない。
だが、今のお前はまだ『諦める』時じゃない。まだ十二だろう、この先、やり方を変えれば成長する可能性も十分にある。だが強制はしない、じっくり考えろ。自分は『何のために強くなりたかったのか』、そして『剣士になって何をしたかったのか』をお役目無しでな」
そう言うと那津蒔さんは立ち上がった。
「見送りはいい、やるかやらないか決まったら手紙をくれ、待ってるぞ」
ヒラヒラと手を振って那津蒔さんは帰って行きました。
その日の夜、僕は自室で那津蒔さんに言われたことを思い返していた。
お役目の事は踏まえずに僕が剣士になりたかった理由・・・・考えもしなかった。
思えば僕は『当たり前』だと考え込むのが多かったような気がする。
『煉獄家の男児だから』、『父が炎柱だから』、『兄がなったのだから自分もならなければ』、それは全て自分の本音ではなかった気がする。
『千寿郎、お前は俺とは違う!お前には兄がいる、兄は弟を信じている、どんな道を歩んでもお前は立派な人間になる!』
柱になりたての頃に兄はそう言ってくれた。
「そうですね、兄上・・・俺はあなたとは違います。
俺はあなたがくれた言葉を自分の枷にしてしまったのかもしれません、自分の本当の心を隠す壁の枷に・・・」
千寿郎は決意の籠った目で紙を用意し、筆を取った。