間章 父子
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この小説の夢小説設定鬼滅の刃のIFストーリー(もちろん二次創作)
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杏寿郎は香炉家から帰宅した後、仏間に向かった。
「母上」
線香をあげると手を合わせる。
「杏寿郎、ただいま帰りました」
生と死の狭間の世界で自分を助けてくれた母には感謝しかない。
あの時、母が止めてくれなければ自分は生きてはいないのだから。
〈母上、俺の大事な人はまだ目を覚ましてはいません。でも俺は諦めません、彼女はきっと帰ってきます〉
自分が心残りなく母の元へ逝くのは、瀬津寿との約束を守り、願いを叶えた時だ。
それまで霧香を待ち続ける、何度でも呼びかける、何度でも・・・。
手を合わせ終えて立ち上がった杏寿郎、もう一つやらなければならないことがある。
それは―――・・・
「父上、失礼いたします」
そう、愼寿郎へ感謝の気持ちを伝えることだ。
障子を開けて中に入ると愼寿郎はいつものように自分に背を向けて寝転んでいた。
「ただいま戻りました」
「・・・・・」
「ご心配をおかけして申し訳ありません、おかげで無事に任務を終え、戻ることができました」
「・・・・・」
愼寿郎は何も言わない。
「父上」
「・・・・」
「那津蒔殿からお聞きしました」
「!」
肩が僅かだが揺れる。
「今回、父上と千寿郎が俺のために血を分けてくれたと・・・本当にありがとうございました。俺は父上たちのおかげで命を落とすことなく、ここに帰ることができました」
クシャッ・・・
「?」
何かを握り潰したような音が聞こえた。
「父上?」
「お前は、俺が憎くなかったのか?恨んでいないのか?」
「・・・・・」
ムクリと起き上がった愼寿郎。
「俺がお前や千寿郎にどれだけつらく当たってきたか忘れるはずがないっ・・・炎柱の名にも煉獄家の名にも泥を塗ったのだ!
本来ならお前に一番責められても仕方のないことをしたのだ、俺は!!
それなのに・・・お前はっ・・・お前はっ!」
愼寿郎の心には杏寿郎がもしものことがあった時にと炭治郎に残した言葉が蘇る。
『体を大切にしてほしい』
こんな駄目な父親に息子は労わりの言葉を残した。
「俺は父上を『責める』など一度も思ったことはありません」
「!」
「母上を亡くして苦しいのは俺も父上と同じです、俺も愛しい人を亡くしたら父上と同じようになっていたかもしれません」
これは本心だった、愼寿郎にとって瑠火がどれだけ大きな存在だったか自分は知っている。
そして霧香がもし自分の目の前から手の届かない遠くへ行ってしまったら自分も父のように覇気を失っていたかもしれない。
「くっ・・・ううっ・・・」
父の肩が震えている。
「父上・・・?」
「うるさいっ!何も言うな!」
「・・・・・」
杏寿郎は『気のせいか』と思いつつ、頭を下げて部屋を出ようとした。
「杏寿郎・・・」
「?」
「よく、生きて戻った・・・」
「!」
杏寿郎は愼寿郎の言葉を聞いて振り返った。
愼寿郎の顔は見えなかったが、まだ肩は震えていた。
〈父上・・・〉
杏寿郎は何も言わずにまた一礼をして部屋から出てきた。
自分の部屋に戻ろうとした途中でどうにも堪えられなくなってしまった。
「くっ・・・ふ、くうぅ・・・」
杏寿郎は縁側の柱に背中を預けて泣いた。
父が・・・あの父が自分の無事を喜んでくれた、自分のために泣いてくれた。
それがわかったからだ。