第31話 温かい人
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この小説の夢小説設定鬼滅の刃のIFストーリー(もちろん二次創作)
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「霧香さん、こんにちは」
「あ、千寿郎くん、こんにちは。いらっしゃい」
千寿郎はいつも霧香の見舞いに来ていた。
「本日のお加減はいかがですか?」
「お気遣いありがとう、今日もお医者さんには『良好です』って言われたよ」
「良かったです!」
千寿郎はニッコリと笑った。
〈煉獄さんと同じ髪色と顔をしていても性格は真逆、でも・・・可愛い〉
炎柱・煉獄杏寿郎と同じ髪色に瞳を持つ少年、目覚めた後に紹介されてこんなにそっくりな兄弟も珍しいと感心した。
でも杏寿郎より眉がハの字になっているのが印象的だった。
性格は大人しく、小動物のように動き回っている。
「千寿郎くん、毎日来て疲れない?大丈夫?」
「大丈夫です!僕がやりたくてやっていることです!」
千寿郎は毎日ここに来ると杏寿郎のことや父親の愼寿郎のことを話してくれる。
それから那津蒔のことや霧香の他の家族のことを聞いてくる。
「今日は何の話が聞きたい?」
「では、霧香さんの母上のことが聞きたいです!」
「私の母か・・・」
少し考え込むと少しずつ話し始めた。
「私の母は、父が長兄に家督を譲ってから一緒に本家を出て、海野家の敷地の小さな庵で暮らしてるんだけど・・・おっとりしてて優しくて、ちょっと抜けてるように見えるんだけど、かっこいい人かな?」
「表現がたくさんありますね?」
「うん・・・怒ることが少なくてね、何ていうんだろう?
『ダメ』というような否定的な言葉を使わない人だね、例えば千寿郎くんが稽古や勉学をしているとするでしょう?」
「はい」
「稽古や勉学は人それぞれの飲み込みの速さがあるし、やり方も異なってくるから『こうしなきゃダメ』っていうのがないと思うんだよね。
私の母は『こうしなきゃダメ!』じゃなくて『じゃあこうしてみたらどう?』っていうみたいにやり方に制限をかけるんじゃなくて、道を増やしてくれるんだ」
「へえ~」
「でもね、たまに遊びに行くとお茶を出してくれるんだけど、自分の分を忘れたりとかするんだ。
『嫌だわ、みんなのこと考えてて自分の分忘れてたわ』って少し照れながら湯呑を取りに行くの」
「そうなんですか、ふふふ」
千寿郎は想像すると可愛く思えてしまって笑みが漏れた。
「それでも海野家の先代当主の妻だから・・・父が当主だった頃は毎日忙しそうにしてたよ。
私たち子供が四人いて、子育ても頑張って、任務にも行ってたから」
「任務?」
「うん。私の母は元々、水龍という海野家主体の鬼狩りだったの。
父は跡取りでまとめ役だったんだけど、その側近の一人だったんだ。
妻となってからもずっと頼られる存在で、兄さんたちや姉さんを生んだ後も走り回ってたんだって」
「す、すごいですね・・・」
「ねえ?『母は偉大』とか『女性は強い』っていうけど母さんを見て本当にそう思った」
自分も同じ女性だが、母のようにはなれない気がすると思っていたくらいだ。
「私が生まれて師匠の元に弟子入りして少しした後に引退したから本当に動きっぱなしだったね」
「本当に『かっこいいお母様』ですね」
「うん」
霧香は千寿郎に向き直る。
「千寿郎くん、答えられる範囲でいいんだけど・・・」
「はい」
「千寿郎くんはお母さんのことどのくらい覚えてる?」
「・・・・・」
その問いに言葉が詰まった。
何しろ母の瑠火が亡くなった時、自分は五歳くらいだったので記憶も朧気だ。
「僕は母上のことはほとんど覚えていません・・・、でも、とても温かかったような気がします。
こう、なんというか・・・優しく、包みこんでくれるような、そんな温かさが感覚的に残っているんです」
「そっか・・・」
千寿郎が寂しそうに、でも必死に伝えようとしている姿を見て霧香は思った。
『杏寿郎もこんな風に思っているのではないか?』と・・・しかし、自分が悲しみに沈んでいては父親も千寿郎も前に進めなくなってしまう。
責任感の強いあの人ならば、自分の心を奮い立たせ、一心に支えてきたに違いない。
「千寿郎くん」
「・・・・?」
「おいで」
千寿郎は『?』を浮かべて立ち上がると霧香の寝台に近づいた。
「ここに腰かけて」
「はい・・・」
赤い大きな瞳が霧香を見ている。
霧香は太陽のような髪色の頭を優しく撫でた。