第1話 雪の剣士
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この小説の夢小説設定鬼滅の刃のIFストーリー(もちろん二次創作)
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「いいや、霧香が水の呼吸を会得することはないだろう」
「え?」
真菰は驚いた、しかし鱗滝の次の言葉にもっと驚いたそうだ。
「あいつの器は『水』の領域に留まるものではない・・・もっと別の、違う形で技に昇華することで成長するだろう」
――――――――――――――――
「『水』に留まらない別の形での成長・・・?」
『そう、鱗滝さんは確かにそう言ったの』
真菰は私を立ち上がらせた。
『前を見ろ』
「!」
錆兎が大岩の上に立っている。
『囚われるな、お前はお前の呼吸をしろ』
「私の呼吸?」
『さあ、刀を持って・・・目を閉じて』
目を閉じると視界が暗転し、嗅覚、聴覚、触覚が敏感になる。
『呼吸を整えろ、お前の呼吸を・・・集中して整えるんだ』
『霧香ならできるよ』
息を肺に吸って、腹の奥から息を吐く・・・耳からは、風の音、水の音、鳥の声がする、そして肌には凍える感触、雪の冷たさを感じる。
その冷気が体の芯に滲み込んで来る・・・。
〈そういえば・・・まだ物心をついて間もない頃に父上が面白いことを言っていたっけ〉
――――――――――――――――
「父上、見て!氷柱が溶けて雨みたいだよ!」
冬になると実家の屋敷の屋根には氷柱ができて、春先になると一斉に溶け出すのだ。
私にはそれが雨天でもないのに雨が降っているようで面白かった。
「今年も春が来る、寒い時期ももう見納めだな」
父は膝に私を乗せて溶けていく氷柱を見ている。
「父上、お庭ビショビショになってるけどいいの?」
「ああ、水は生命を育むからな」
「『いのち』?」
「そうだ、暖かくなればお前の好きな花がまた見られるだろう」
私は庭に植えてある梅の木を見るのが好きだった、梅が咲くともう春も近いのだと感じることが出来たからだ。
「父上、『水』が命を育むなら『氷』は何を育むの?
氷は寒いし、危ないんだよ?那津蒔兄さんはいつも『寒い寒い!』ってお布団から出て来ないし、この間、氷柱に触ろうとしたら姉さんと勇翔さんから『危ない!』って怒られたよ?」
膨れた顔で言うと父は豪快に笑った。
「そうか・・・確かに氷は寒いし、氷柱は危険だな。
でもな、その『氷』や地面に残っている雪にもきちんと役目がある」
「どんな役目?」
「それはな―――・・・」
――――――――――――――――
「!」
何だ・・・簡単なことだ。
「錆兎、岩から降りて・・・そこにいたら危ないよ」
『・・・・』
錆兎は何も言わずに降りてくれた。
私は焦っていただけなのだ・・・早く会得したくて、一族の一員だと認めてもらいたくて・・・。
『自分のこと』なのに無視をしていた、『目の前に見えているはずのものに抗っていた』だけだ・・・。
「全集中・・・」
自分の口から『呼吸』が吐かれる。
『視える』・・・・吹雪が岩の体を貫通する場所を教えてくれている。
刀とはただ力任せに振るものにあらず・・・。
『斬る』ことはただ一点を狙い、集中し、そこだけに力を込めるだけで事足りる。
ただ一点に・・・。
そう思い、刀を振り切った。
ふと気づくと目の前には斜めに割かれてずり落ちた岩があった。
「よくやった」
「つっ!?」
気づくと後ろには師匠である鱗滝がいた。
「それがお前の呼吸だ」
「呼吸・・・」
「そうだ、ようやく出せたな・・・よく耐えた、よく頑張った」
師匠はそう言って私を抱きしめてくれた。
私は自分が呼吸で型を出せたことや岩を斬った事、いろいろなことが起こり過ぎてその場にへたり込み、泣いてしまった。
そこにもう『二人』の姿はなかった・・・。
その後、私は自分の生み出した技・『雪の呼吸』を完全に体に落とし込むために師匠とさらに修練に励んだ。
そして技を極めて四年が経過した。