いのりの傍観
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「着いたね、京都のリンク──」
隣の司の言葉に、ほう、といのりは目の前の建物を仰ぎ見た。周りにはたくさんの人が集まっている。
今日はここで開催される西日本大会に出るために、はるばる京都まで新幹線でやってきた。他県の選手も多く出場する大会は初めてで、わくわくもしているが、緊張もしている。
「じゃ、じゃあ入ろうか……中に!」
「はいっ!」
ふんっ、と鼻を鳴らし、いのりは張り切って中へ入ろうと踏み出した──瞬間、ドン、と目の前にいた大人の背中に顔面から思いきり追突してしまった。
「あたっ!」
「わっ、びっくりした」
ぶつかった人は驚いた声を上げてこちらを振り返った。その様子を見ていた司と母が、後ろから駆け寄ってくる。うぅ……張り切りすぎていきなり迷惑かけちゃった……。
「いのりさん、大丈夫?」
「すみません、ウチの子が……!」
「いえいえ、あたしもボーッとしてましたし」
ぶつかってしまった人は、その場でしゃがみ込んで、いのりと目線の高さを合わせた。歳はヘッドコーチの瞳と同じくらいだろうか。綺麗で優しそうな女の人だ。
「ごめんなあ、お嬢ちゃん。痛いとこない?」
「う、うん……ごめんなさい」
「気にせんでえぇよ」関西の言葉で話す女性は、ジャージ姿のいのりを見て、こちらの気を紛らわすように会話を続けた。
「お嬢ちゃんも、これからスケート滑るんや? どこから来たん?」
「な、名古屋から来ました」
「まだ小さいのにすごいなあ。がんばってな」
「はいっ」うなずくと、にっこりほほ笑んだ女性は立ち上がり、いのりの隣にいた司に声をかけていた。
「あの、すみません。観覧って、ふつうに中入って大丈夫なんですかね? あたし、スケート初めて観に来て……」
「選手の保護者の方ですか?」
母が和らいだ表情で女性に尋ねたのを見て、いのりは母にくっつくようにした。女の人は笑いながら首を横に振って、母と司を交互に見ながら話している。
「いえ、ツ レ がスケートクラブのコーチをやっていて……彼の教え子たちがたくさん出るからと、ちょっと興味があって。もしかして、お兄さんもコーチされてるんですか?」
「はい、彼女──いのりさんのコーチをしてます」
「雰囲気が“先生”ってカンジですもんね。ツレといっしょやわ」
「お嬢ちゃんの名前、“いのりちゃん”ゆうねや。ステキな名前やね」
「あ、ありがとうございます……」
膝に両手を置いた女性が屈 んで、また目が合う。いのりは、ぎゅっ、と母の服をつかんで、逸 らしながら目線でお辞儀した。知らない大人に褒められると、いつも以上に緊張するし照れちゃうな……
「あっ! 司先生! いのりちゃん!」
誰かに名前を呼ばれ顔を上げると、以前バッジテストで会った蓮華茶FSCの蛇崩が、ちょうど建物の中から出てきたところで、こちらに手を振っていた。
しかし、近付いてきた彼はいのりの隣に立っている女性に目をやると、突然ぎょっ、と目を見開いた。
「……メグ!?」
「遊大」
「ちょっとスンマセンっ」と、彼は慌てて女性の肩に手を添え、こちらと距離をとるように背を向けてから、互いの顔を寄せ声を潜めた。
「ほ、ほんまに観に来たんか?」
「うん。『明日仕事休みやし、暇やから行こかな〜』て昨日言うたやん。スーツ似合っとう。男前やね」
「お、おぉ、ありが──いや、そんな話はええねんっ」
“ゆうだい”っていうのは、蛇崩先生の下の名前かな、知ってる人なのかな、なんてことを考えているあいだ、ひそひそと小さな声で繰り広げられる早口の関西弁での会話は、いのりには聞きとれなかった。
「ほんまに来ると思わへんやん……! 知り合いでもない小学生の子ぉらの試合なんて退屈やろ?」
「あんたなあ、選手の子たちに失礼やないの」
「アホ、今 は おまえに気ぃ遣 てんねん」
「蛇崩先生? 今日はよろしくお願いします」
「あ、ああ! はい、こちらこそ」
挨拶が中断してしまったからか、そこで声をかけた司に、蛇崩はまごまごしながらも笑顔で返事をした。いのりも司に続いて、ぺこりと頭を下げる。
「蛇崩先生、こんにちは!」
「はい、こんにちは。いのりちゃんのお母さんも、よろしくお願いします」
「お願いします」
「俺、スーツのほうがよかったですかね……」
「いや、ウチがただこういうスタイルなだけやから気にせんでええですよ」
「こちらの女性は、先生のお知り合い?」
母からの質問に答える前に、今度は蛇崩の背後から、背の高い女の子が──太めの困り眉と赤いほっぺ、それに大きな黄色いリボン──ひょっこりと顔を出して、彼を見上げた。
「ジャッキー先生」
「絵馬。出てきてもうたん? 着替えて準備しぃや」
「あっ、エマちゃん」
「いのりちゃん」いのりが手を振ると、絵馬はパッと明るい顔になってこちらに歩み寄った。このあいだは名古屋で同じ1級に受かって一緒に滑ったけど……今日はライバルだ。
「今日はよろしくね!」
「うん、お互いがんばろな──あ、いのりちゃんのお母さん、こんにちは」
「あら、こんにちは」
「蛇崩先生、ご結婚されてたんですね」
司の言葉に、いのりと絵馬はピコっ、と反応した。蛇崩のほうは、「えっ!?」と驚いた表情で、片手を顔の前でパタパタ振っている。
「ちゃ、ちゃいますよ、恵とは結婚してないですって!」
「ま だ ……」目を逸らし、直後にぼそりとこぼした蛇崩のその一言は、声が小さすぎて誰にも聞こえなかった。
すると、そばにいた絵馬が両手を口元にやって隠すようにしてから顔を寄せてきたので、気付いたいのりはそちらに片耳を近付けた。大人たちに聞こえない高さで、ごにょごにょと話す。
「あの女の人、ジャッキー先生の彼女 やねん」
「えっ! エマちゃん、そうなの?」
「うん。うち、こないだ先生の車に乗ってるとこ、こっそり見たんや」
「ジャッキー先生には、ナ イ シ ョ やで」と、人差し指を唇に当てて、小さく笑った絵馬の話に、ふわぁ……!、といのりは頬を赤らめてドキドキした。
蛇崩先生は、明るいお兄さんって感じでとっても優しいし、司先生とはまた違った感じでいっぱい褒めてくれるけど……そうなんだ、蛇崩先生は、あの女の人が好 き なんだ……。
「え? でも、さっき恵さん?、が確か──」
「ああ、あたしが『ツ レ 』って言 うたからカン違いさせてもたかな? 関西で『ツレ』って『友だち』くらいもっとライトに使いますよ」
「そういうことか。いや、恵はただ……」
司と女の人のやりとりに納得した表情になったあと、蛇崩はそこまで言って一度留まり、隣の女性を見下ろしながらつぶやいた。「俺の、なんていうか、」そこで息を吐いた彼がそっと口角を上げたのは、きっと立ち位置からしていのりにしか見えていなかった──あ、蛇崩先生、すごくやさしそうな顔 ──
「俺の大切な人です」
「えっ」という声を上げたのは、司だけでなく女性や母もだったと思う。一瞬空気が固まった中、いのりと絵馬は“? ”を浮かべて大人たちをうかがっていた。
真っ先に声を上げたのは、絵馬が『ジャッキー先生の彼女』だという女の人だった。
「ちょ、なによ、ふつうに言 うたらえぇやん! なにその紹介の仕方!?」
「いや、“彼女”ってなんか軽ないか? “恋人”っちゅうんもカタイし……」
「急にワケわからんこと言わんといて、初対面の人ら相手に! ばり恥ずかしいねんけど!?」
バシバシ!、と女性が彼のスーツの背中を片手で叩いている。二人とも顔が赤かった。司先生もお母さんもちょっとほっぺが赤い気がする。なんでだろう。
「アホちゃう……!?」「おい、やめぇ……!」まだ叩いて戯れて小声で言い争っている。それが“ケンカ”というほどでもないことくらいは、小学生のいのりにも分かった。先生たち、大人なのに子どもみたいだ……。
絵馬も先生たちのようすにちょっぴり呆れているのか、ほんわかとしたといつもどおりのテンポで、いのりに話しかけてきた。
「“彼女”じゃなかったらなんやろうね」
「うーん、“ガールフレンド”とか……“ハニー”とか?」
「外国の人 みたいや……」
「お姉ちゃんが観てるディ◯ニープラスのドラマとかで、よく出てくるんだよね」
そんな女子小学生二人の会話を耳にした母は、いのりの横で苦笑いしている。いのりは、大人たちに聞かれないように、絵馬のほうへとさらに身を寄せ、また耳打ちした。
「エマちゃん、さっきのナイショの話って、私が聞いてもよかったの?」
「いのりちゃんはクラブがちゃうから、たぶん大丈夫──でもよかった、うちが見たってハナシ、誰かに聞いてほしかってん」
「ふふ、スクープみたいでカッコいい」
「なーにこそこそ話してんのや、お嬢さんたち」
気付くと、蛇崩が近くまで来ていた。「これから中に案内するで。ついてくる人〜?」と軽く片手を上げたので、いのりと絵馬は顔を見合わせてから笑い、元気よく「はーい」とつられて手を上げた。
「いのりさん、行こうか」
「ほら、絵馬も行くで。いのりちゃんのお母さんもどうぞ。メグは悪いけど、またあとでな」
「うん。いのりちゃん、あと、絵馬ちゃんやったな。二人とも応援しとうからな」
蛇崩先生の“ガールフレンド”は、いのりたちににっこりほほ笑みかけて、手を振り会場の中へと入っていった。
やっぱり、優しくて綺麗な人だったな──そう思って、女の人の後ろ姿をしばらく立ち止まってぼうっと眺めていると、「いのり! はぐれないでよ?」と母の呼ぶ声がしたので、いのりはハッと振り向き、慌ててみんなを追いかけた。
(時系列だといのりさんは、このあとスケート靴がないことに気付くので大変。)
隣の司の言葉に、ほう、といのりは目の前の建物を仰ぎ見た。周りにはたくさんの人が集まっている。
今日はここで開催される西日本大会に出るために、はるばる京都まで新幹線でやってきた。他県の選手も多く出場する大会は初めてで、わくわくもしているが、緊張もしている。
「じゃ、じゃあ入ろうか……中に!」
「はいっ!」
ふんっ、と鼻を鳴らし、いのりは張り切って中へ入ろうと踏み出した──瞬間、ドン、と目の前にいた大人の背中に顔面から思いきり追突してしまった。
「あたっ!」
「わっ、びっくりした」
ぶつかった人は驚いた声を上げてこちらを振り返った。その様子を見ていた司と母が、後ろから駆け寄ってくる。うぅ……張り切りすぎていきなり迷惑かけちゃった……。
「いのりさん、大丈夫?」
「すみません、ウチの子が……!」
「いえいえ、あたしもボーッとしてましたし」
ぶつかってしまった人は、その場でしゃがみ込んで、いのりと目線の高さを合わせた。歳はヘッドコーチの瞳と同じくらいだろうか。綺麗で優しそうな女の人だ。
「ごめんなあ、お嬢ちゃん。痛いとこない?」
「う、うん……ごめんなさい」
「気にせんでえぇよ」関西の言葉で話す女性は、ジャージ姿のいのりを見て、こちらの気を紛らわすように会話を続けた。
「お嬢ちゃんも、これからスケート滑るんや? どこから来たん?」
「な、名古屋から来ました」
「まだ小さいのにすごいなあ。がんばってな」
「はいっ」うなずくと、にっこりほほ笑んだ女性は立ち上がり、いのりの隣にいた司に声をかけていた。
「あの、すみません。観覧って、ふつうに中入って大丈夫なんですかね? あたし、スケート初めて観に来て……」
「選手の保護者の方ですか?」
母が和らいだ表情で女性に尋ねたのを見て、いのりは母にくっつくようにした。女の人は笑いながら首を横に振って、母と司を交互に見ながら話している。
「いえ、
「はい、彼女──いのりさんのコーチをしてます」
「雰囲気が“先生”ってカンジですもんね。ツレといっしょやわ」
「お嬢ちゃんの名前、“いのりちゃん”ゆうねや。ステキな名前やね」
「あ、ありがとうございます……」
膝に両手を置いた女性が
「あっ! 司先生! いのりちゃん!」
誰かに名前を呼ばれ顔を上げると、以前バッジテストで会った蓮華茶FSCの蛇崩が、ちょうど建物の中から出てきたところで、こちらに手を振っていた。
しかし、近付いてきた彼はいのりの隣に立っている女性に目をやると、突然ぎょっ、と目を見開いた。
「……メグ!?」
「遊大」
「ちょっとスンマセンっ」と、彼は慌てて女性の肩に手を添え、こちらと距離をとるように背を向けてから、互いの顔を寄せ声を潜めた。
「ほ、ほんまに観に来たんか?」
「うん。『明日仕事休みやし、暇やから行こかな〜』て昨日言うたやん。スーツ似合っとう。男前やね」
「お、おぉ、ありが──いや、そんな話はええねんっ」
“ゆうだい”っていうのは、蛇崩先生の下の名前かな、知ってる人なのかな、なんてことを考えているあいだ、ひそひそと小さな声で繰り広げられる早口の関西弁での会話は、いのりには聞きとれなかった。
「ほんまに来ると思わへんやん……! 知り合いでもない小学生の子ぉらの試合なんて退屈やろ?」
「あんたなあ、選手の子たちに失礼やないの」
「アホ、
「蛇崩先生? 今日はよろしくお願いします」
「あ、ああ! はい、こちらこそ」
挨拶が中断してしまったからか、そこで声をかけた司に、蛇崩はまごまごしながらも笑顔で返事をした。いのりも司に続いて、ぺこりと頭を下げる。
「蛇崩先生、こんにちは!」
「はい、こんにちは。いのりちゃんのお母さんも、よろしくお願いします」
「お願いします」
「俺、スーツのほうがよかったですかね……」
「いや、ウチがただこういうスタイルなだけやから気にせんでええですよ」
「こちらの女性は、先生のお知り合い?」
母からの質問に答える前に、今度は蛇崩の背後から、背の高い女の子が──太めの困り眉と赤いほっぺ、それに大きな黄色いリボン──ひょっこりと顔を出して、彼を見上げた。
「ジャッキー先生」
「絵馬。出てきてもうたん? 着替えて準備しぃや」
「あっ、エマちゃん」
「いのりちゃん」いのりが手を振ると、絵馬はパッと明るい顔になってこちらに歩み寄った。このあいだは名古屋で同じ1級に受かって一緒に滑ったけど……今日はライバルだ。
「今日はよろしくね!」
「うん、お互いがんばろな──あ、いのりちゃんのお母さん、こんにちは」
「あら、こんにちは」
「蛇崩先生、ご結婚されてたんですね」
司の言葉に、いのりと絵馬はピコっ、と反応した。蛇崩のほうは、「えっ!?」と驚いた表情で、片手を顔の前でパタパタ振っている。
「ちゃ、ちゃいますよ、恵とは結婚してないですって!」
「
すると、そばにいた絵馬が両手を口元にやって隠すようにしてから顔を寄せてきたので、気付いたいのりはそちらに片耳を近付けた。大人たちに聞こえない高さで、ごにょごにょと話す。
「あの女の人、ジャッキー先生の
「えっ! エマちゃん、そうなの?」
「うん。うち、こないだ先生の車に乗ってるとこ、こっそり見たんや」
「ジャッキー先生には、
蛇崩先生は、明るいお兄さんって感じでとっても優しいし、司先生とはまた違った感じでいっぱい褒めてくれるけど……そうなんだ、蛇崩先生は、あの女の人が
「え? でも、さっき恵さん?、が確か──」
「ああ、あたしが『
「そういうことか。いや、恵はただ……」
司と女の人のやりとりに納得した表情になったあと、蛇崩はそこまで言って一度留まり、隣の女性を見下ろしながらつぶやいた。「俺の、なんていうか、」そこで息を吐いた彼がそっと口角を上げたのは、きっと立ち位置からしていのりにしか見えていなかった──あ、蛇崩先生、すごくやさしそうな
「俺の大切な人です」
「えっ」という声を上げたのは、司だけでなく女性や母もだったと思う。一瞬空気が固まった中、いのりと絵馬は“
真っ先に声を上げたのは、絵馬が『ジャッキー先生の彼女』だという女の人だった。
「ちょ、なによ、ふつうに
「いや、“彼女”ってなんか軽ないか? “恋人”っちゅうんもカタイし……」
「急にワケわからんこと言わんといて、初対面の人ら相手に! ばり恥ずかしいねんけど!?」
バシバシ!、と女性が彼のスーツの背中を片手で叩いている。二人とも顔が赤かった。司先生もお母さんもちょっとほっぺが赤い気がする。なんでだろう。
「アホちゃう……!?」「おい、やめぇ……!」まだ叩いて戯れて小声で言い争っている。それが“ケンカ”というほどでもないことくらいは、小学生のいのりにも分かった。先生たち、大人なのに子どもみたいだ……。
絵馬も先生たちのようすにちょっぴり呆れているのか、ほんわかとしたといつもどおりのテンポで、いのりに話しかけてきた。
「“彼女”じゃなかったらなんやろうね」
「うーん、“ガールフレンド”とか……“ハニー”とか?」
「外国の
「お姉ちゃんが観てるディ◯ニープラスのドラマとかで、よく出てくるんだよね」
そんな女子小学生二人の会話を耳にした母は、いのりの横で苦笑いしている。いのりは、大人たちに聞かれないように、絵馬のほうへとさらに身を寄せ、また耳打ちした。
「エマちゃん、さっきのナイショの話って、私が聞いてもよかったの?」
「いのりちゃんはクラブがちゃうから、たぶん大丈夫──でもよかった、うちが見たってハナシ、誰かに聞いてほしかってん」
「ふふ、スクープみたいでカッコいい」
「なーにこそこそ話してんのや、お嬢さんたち」
気付くと、蛇崩が近くまで来ていた。「これから中に案内するで。ついてくる人〜?」と軽く片手を上げたので、いのりと絵馬は顔を見合わせてから笑い、元気よく「はーい」とつられて手を上げた。
「いのりさん、行こうか」
「ほら、絵馬も行くで。いのりちゃんのお母さんもどうぞ。メグは悪いけど、またあとでな」
「うん。いのりちゃん、あと、絵馬ちゃんやったな。二人とも応援しとうからな」
蛇崩先生の“ガールフレンド”は、いのりたちににっこりほほ笑みかけて、手を振り会場の中へと入っていった。
やっぱり、優しくて綺麗な人だったな──そう思って、女の人の後ろ姿をしばらく立ち止まってぼうっと眺めていると、「いのり! はぐれないでよ?」と母の呼ぶ声がしたので、いのりはハッと振り向き、慌ててみんなを追いかけた。
(時系列だといのりさんは、このあとスケート靴がないことに気付くので大変。)
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