ふたつの心
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「水戸君 、またサボり?」
あたしは、廊下を歩く彼の背後から声をかけた。肩に引っ掛けるようにした、他の生徒よりずっと薄い学生カバン──きっと置き勉してるのね──を手に持っている水戸君は、ゆっくり振り返った。
「もう帰る気なの? まだ昼休みなんだけれど」
まだ新学期は始まったばかりだというのに、同じクラスの水戸君は、よく授業をサボる。朝、2時間目からやってくるなんてしょっちゅうだ。この学校にもいわゆる“不良 ”と呼ばれてる人は、水戸君以外にもいるみたいだけど、あたしには到底理解できない。
「おー委員長。いやさ、月曜の午後って、あと現代文と数学でしょ? 退屈なんだもん」
注意してもこの言いよう。それもへらへらと笑って言うものだから、あたしもムッとして、眼鏡のブリッジを上げながら、睨 みをきかせてみる。
「あたしだって、学級委員長なんて立場じゃなければ、わざわざこうして言うこともないの。桜木君みたいに、あなたも部活に入ったらどう? 仲はいいんでしょう?」
桜木君はあたしたちと同じクラスの男子で、水戸君と同じ中学だったらしい。『その頃から有名な不良だった』ということも、クラスの女子たちが噂していた。興味もないけれど。
「そんなこと言って、委員長だって帰宅部だろ?」
どうしてそんなこと知ってるんだろう。いつもさっさと帰ってしまうくせに、とあたしはため息をついた。
「あたしは週3回、予備校に通っているの。遊んでいるわけじゃないのよ」
「それを言うなら、オレだって週5でバイトしてるから、遊んでるってわけでもねーよ?」
ああ言えばこう言う。「……そもそも、学生の本分は勉強だというのに、週の半分以上をアルバイトに当てているというのはどうなのかしら」やっぱり理解できない。あたしとは違う人種なのだと。
素行が悪いのは彼らの勝手・大いに結構だけれど、5時間目が始まって、先生に『あれ……おい、水戸はどうした? 委員長何か知ってるか?』と聞かれるあたしの身にもなってほしい。「こっちの苦労も知らないで……」
「そーんなツンツンした顔してたら、もったいないぜ? だから『委員長は近寄りがたい』って思われてるんじゃねーの?」
「よ、余計なお世話よ! もともとこういうカオですぅ!」
おまけに彼は、意に介さないどころか、毎度こうしてからかうようなことを言ってくるからお話にならない。女 子 だ か ら って軽々しく見られている気がする。
「ど、どうせあたしは流行りにも疎いし、トロくてイモくさい女よ」
『花岡さん、なんかマジメすぎっていうかー……』よく言われてる。でも、あたしはちゃんと校則を守っているし、授業もきちんと受けている。……学生はそうあるべきじゃないの? なにが悪いのよ……。
「いや、メガネがお堅く見えるんじゃない? はずしてみたら?」
「馬鹿言わないで、眼鏡がないとあたし何も見えないんだか、ら──」
言い切る前に、水戸君の指先があたしの頬に触れて、目元のレンズが遠のいていった。眼鏡が外されて、水戸君の顔がボヤけたと思ってぽかんとしていたら、急にピントが合う。
顔ちかっ、い──次に彼の髪から香った、ツン、と鼻を刺す匂い──蝋 だ。香ってきたポマードで固めたそのリーゼントのおかげで、髪に隠れることなく、水戸君の二つの瞳がハッキリと見える。彼は優しげに笑って言った。
「ほら、カワイイ」
そのあと水戸君が、おっ、と両眉を上げたのまで見えた。カァッと顔が熱くなったのがわかって、あたしは思わずのけぞってしまった。
「……かっ、返して!」
慌てて彼の手から眼鏡を奪い返して、下を向いたままかけ直す。な、なんなの急に! 気安く顔に触ってきたりなんかして……!
「こんなことするなんて……失礼しちゃうっ」
「ははっ、赤くなってら」
「かわいー」とまた笑う水戸君は、両手をポケットに突っ込んで脇にカバンを挟んだまま、肩を揺らす。きっと面白がっているのだ。
彼の向こうに、いつも一緒にいる(つ る ん で る 、と言うのか)金髪パーマの男子・メガネのふとっちょの男子・ヒゲの生えた男子が見える。「洋平 、行くぞー」「おう、ちょっと待って」彼らにヘンなふうに思われても困る……自意識過剰かもしれないけど。
「い、いい加減にしてよ! もうっ」
「あれっ、もういいの?」
「勝手にすれば!?」
最初から、呼び止めたところで彼が戻ってくるとも思ってない。そう、あたしは学級委員長として、仕方なく──
「委員長!」
もう用もないでしょう、とあたしがムッとして振り返ると、水戸君はにこにこと笑いながら、こちらに手を振った。
「じゃあな、また明日」
堂々と言った彼は、そうしてさっさと帰宅してしまった。『また明日』って、そりゃそうだけど。『また』こんなふうにされてもイヤだし。
「なんなのよう……もう……!」
熱くなった頬を両手で押さえながら、早足で七組の教室へと急ぐ。きっとイモくさいあたしの反応を見てからかってるんだわ。
女のコをからかって遊ぶなんて、小学生じゃないんだから……だから、さっき近付いてきた水戸君の顔が“ちょっと格好いいカモ”、なんて思ったこと……ぜっったいに勘違いだわ!
─────────────────────────
「水戸君、またサボり?」
お、やっぱり声かけてきたか。オレはゆっくり振り返ると、そこには眼鏡をかけた、おさげ髪の女子生徒が一人、こっちを睨むようにして立っていた。
「もう帰る気なの? まだ昼休みなんだけれど」
「おー委員長」
そう、オレと花道がいる七組の学級委員長・花岡さん。レンズの厚い丸眼鏡、低い位置できっちりと編まれた二本のおさげ髪、校則どおりの膝が隠れるスカート丈。
まだ新入生だってのに自分から立候補したり、授業でも率先して挙手したり、その見た目も相まって“真面目 で模範的な生徒”だと誰もが思う。オレらみたいなのとは正反対。
「いやさ、月曜の午後って、あと現代文と数学でしょ? 退屈なんだもん」
それにあの数学教師のジジイ、オレのこと嫌ってるしなー。別に普通に授業受けてるだけなのに、『目つきが気に入らん』とかなんとか言って難癖つけてくるところがどーもね……。
「あたしだって、学級委員長なんて立場じゃなければ、わざわざこうして言うこともないの」
別にオレらなんてほっときゃいいところを、この委員長はフケようとすれば必ず声をかけてくる。呆れるほどマジメだ。おかげでクラスメイトからも『ちょっとマジメ過ぎて会話しづらい』『冗談通じなくて白ける』なんて言われてるらしい。本人が気付いてんのかは知らねーけど。
んなこと言って、マジメが嫌われるってのは気の毒だ。オレらなんかよりよっぽどマシだろって。
「桜木君みたいに、あなたも部活に入ったらどう? 仲はいいんでしょう?」
よく見てるよなー。まだ入学して間もないってのに、ちゃんとクラスの奴らを把握してる。
「そんなこと言って、委員長だって帰宅部だろ?」
「あたしは週3回、予備校に通っているの。遊んでいるわけじゃないのよ」
あれだけ勉強しといて、まだやるか。それに、そうじゃない日も図書室で勉強してんだろ、知ってんだぜ。
「それを言うなら、オレだって週5でバイトしてるから、遊んでるってわけでもねーよ?」
「……そもそも、学生の本分は勉強だというのに、週の半分以上をアルバイトに当てているというのはどうなのかしら」
「こっちの苦労も知らないで……」と、委員長はぶつぶつ言いながら、また眼鏡をくいっと中指で押し上げるようにした。そのとき眉間にシワが寄って、女子だってのに、なかなかちょっぴり怖い。
「そーんなツンツンした顔してたら、もったいないぜ? だから『委員長は近寄りがたい』って思われてるんじゃねーの?」
「よ、余計なお世話よ! もともとこういうカオですぅ!」
こう言ってやると、言い返してくる様 は、ムキになっててけっこうカワイイ。ついからかいたくなって、相手しちまうんだよなー。
「ど、どうせあたしは流行りにも疎いし、トロくてイモくさい女よ」
そんな卑屈になることねーのに。そういうところ見りゃ、クラスの奴らだって、もっと話しやすくなるんじゃねーかって思うけど……アレか、あとは見た目の問題か。そう思って口に出した。
「いや、メガネがお堅く見えるんじゃない? はずしてみたら?」
「馬鹿言わないで、眼鏡がないとあたし何も見えないんだか、ら──」
カバンを持ってないほうの手を伸ばして、彼女の眼鏡を抜き取った。一瞬見えにくいのか、目を細めた無防備な顔がいじらしい。委員長の貴重な素顔に、思わず覗き込むようにした。「ほら、カワイイ」
おっ、冗談で言ったわけではなかったけどこれは。マジのやつかもしれん。“磨けば光る”、ってやつか? 目元も印象的で、肌も綺麗。なかなかの美人じゃないだろうか。
「かっ、返して!」
慌てた委員長はオレの手から自分の眼鏡を引ったくると、下を向いてかけ直した。あら、残念。もう少し見てたかったけど。
「こんなことするなんて……失礼しちゃうっ」
「ははっ、赤くなってら。かわいー」
「い、いい加減にしてよ!」
顔を赤くして、オレとの距離をとるように手を振り上げている委員長は、近寄りがたさなんてなくて、やっぱり素朴な可愛い女子だと思う。
「洋平 、行くぞー」
階段のほうから聞こえてきたのはチュウの声だった。振り向くと、大楠と高宮もいる。そうは言っても月曜の午後はフケるってのが、暗黙の了解みたいになっていた。でも、せっかく委員長と話してるんだから、もう少し空気読めよ。
「おう、ちょっと待って」
オレが三人を制すと、「もうっ」振り向いたときに委員長は、すでにおさげを振り乱すようにしてそっぽを向いて、教室のほうへ歩き出そうとしていた。
「あれっ、もういいの?」
「勝手にすれば!?」
まだ話し足りない気分だったのに、すっかり拗 ねられてしまったみたいだ。でもまあ、今日は彼女の新たな一面も見れたことだし。「委員長!」と、名残惜しく最後に声をかけると、彼女は律儀に振り向いた。
「じゃあな、また明日」
これには無視。何も言わずにさっさと行ってしまった。残念、嫌われたかな。明日もしまだ怒ってたら、さすがに謝るか。
「よ〜へ〜、誰だよあのコ。狙ってんのか?」
「お?」とそこで、しばらく様子を見てたのか、大楠がニヤニヤしながら肩を組んできた。オレは平静を保って否定した。
「そうじゃなくて、“委員長”だよ。オレと花道のクラスの、学級委員長」
「なーんかマジメそうだなー……洋平って、ああいうコがタイプだったかあ?」
教室へ早足で戻っていく委員長の後ろ姿を見ながら、高宮がつぶやく。タイプかあ、そんなふうに思ったことはなかったな。けど、それもピンとこない。
「だからそういうんじゃねーって。委員長は、委員長だから」
「はあ?」
オレの言葉が理解できなかったのか、三人は揃って首をひねっていた。その反応も含めて、面白くて笑ってしまった。そうさ、委員長は委員長だからいいんだ。
だから、オレがフケようとすれば必ず声をかけてくるってわかってるし、それからなんだか目が離せなくなって、委員長のことをずっと見ていた。でもって、向こうからそ う し て ほ し く て 、オレはまた同じように、彼女の行動を待ってしまっているんだ。
(目指すは、平成初期のヤンキー×委員長キャラの王道少女漫画。)
あたしは、廊下を歩く彼の背後から声をかけた。肩に引っ掛けるようにした、他の生徒よりずっと薄い学生カバン──きっと置き勉してるのね──を手に持っている水戸君は、ゆっくり振り返った。
「もう帰る気なの? まだ昼休みなんだけれど」
まだ新学期は始まったばかりだというのに、同じクラスの水戸君は、よく授業をサボる。朝、2時間目からやってくるなんてしょっちゅうだ。この学校にもいわゆる“
「おー委員長。いやさ、月曜の午後って、あと現代文と数学でしょ? 退屈なんだもん」
注意してもこの言いよう。それもへらへらと笑って言うものだから、あたしもムッとして、眼鏡のブリッジを上げながら、
「あたしだって、学級委員長なんて立場じゃなければ、わざわざこうして言うこともないの。桜木君みたいに、あなたも部活に入ったらどう? 仲はいいんでしょう?」
桜木君はあたしたちと同じクラスの男子で、水戸君と同じ中学だったらしい。『その頃から有名な不良だった』ということも、クラスの女子たちが噂していた。興味もないけれど。
「そんなこと言って、委員長だって帰宅部だろ?」
どうしてそんなこと知ってるんだろう。いつもさっさと帰ってしまうくせに、とあたしはため息をついた。
「あたしは週3回、予備校に通っているの。遊んでいるわけじゃないのよ」
「それを言うなら、オレだって週5でバイトしてるから、遊んでるってわけでもねーよ?」
ああ言えばこう言う。「……そもそも、学生の本分は勉強だというのに、週の半分以上をアルバイトに当てているというのはどうなのかしら」やっぱり理解できない。あたしとは違う人種なのだと。
素行が悪いのは彼らの勝手・大いに結構だけれど、5時間目が始まって、先生に『あれ……おい、水戸はどうした? 委員長何か知ってるか?』と聞かれるあたしの身にもなってほしい。「こっちの苦労も知らないで……」
「そーんなツンツンした顔してたら、もったいないぜ? だから『委員長は近寄りがたい』って思われてるんじゃねーの?」
「よ、余計なお世話よ! もともとこういうカオですぅ!」
おまけに彼は、意に介さないどころか、毎度こうしてからかうようなことを言ってくるからお話にならない。
「ど、どうせあたしは流行りにも疎いし、トロくてイモくさい女よ」
『花岡さん、なんかマジメすぎっていうかー……』よく言われてる。でも、あたしはちゃんと校則を守っているし、授業もきちんと受けている。……学生はそうあるべきじゃないの? なにが悪いのよ……。
「いや、メガネがお堅く見えるんじゃない? はずしてみたら?」
「馬鹿言わないで、眼鏡がないとあたし何も見えないんだか、ら──」
言い切る前に、水戸君の指先があたしの頬に触れて、目元のレンズが遠のいていった。眼鏡が外されて、水戸君の顔がボヤけたと思ってぽかんとしていたら、急にピントが合う。
顔ちかっ、い──次に彼の髪から香った、ツン、と鼻を刺す匂い──
「ほら、カワイイ」
そのあと水戸君が、おっ、と両眉を上げたのまで見えた。カァッと顔が熱くなったのがわかって、あたしは思わずのけぞってしまった。
「……かっ、返して!」
慌てて彼の手から眼鏡を奪い返して、下を向いたままかけ直す。な、なんなの急に! 気安く顔に触ってきたりなんかして……!
「こんなことするなんて……失礼しちゃうっ」
「ははっ、赤くなってら」
「かわいー」とまた笑う水戸君は、両手をポケットに突っ込んで脇にカバンを挟んだまま、肩を揺らす。きっと面白がっているのだ。
彼の向こうに、いつも一緒にいる(
「い、いい加減にしてよ! もうっ」
「あれっ、もういいの?」
「勝手にすれば!?」
最初から、呼び止めたところで彼が戻ってくるとも思ってない。そう、あたしは学級委員長として、仕方なく──
「委員長!」
もう用もないでしょう、とあたしがムッとして振り返ると、水戸君はにこにこと笑いながら、こちらに手を振った。
「じゃあな、また明日」
堂々と言った彼は、そうしてさっさと帰宅してしまった。『また明日』って、そりゃそうだけど。『また』こんなふうにされてもイヤだし。
「なんなのよう……もう……!」
熱くなった頬を両手で押さえながら、早足で七組の教室へと急ぐ。きっとイモくさいあたしの反応を見てからかってるんだわ。
女のコをからかって遊ぶなんて、小学生じゃないんだから……だから、さっき近付いてきた水戸君の顔が“ちょっと格好いいカモ”、なんて思ったこと……ぜっったいに勘違いだわ!
─────────────────────────
「水戸君、またサボり?」
お、やっぱり声かけてきたか。オレはゆっくり振り返ると、そこには眼鏡をかけた、おさげ髪の女子生徒が一人、こっちを睨むようにして立っていた。
「もう帰る気なの? まだ昼休みなんだけれど」
「おー委員長」
そう、オレと花道がいる七組の学級委員長・花岡さん。レンズの厚い丸眼鏡、低い位置できっちりと編まれた二本のおさげ髪、校則どおりの膝が隠れるスカート丈。
まだ新入生だってのに自分から立候補したり、授業でも率先して挙手したり、その見た目も相まって“
「いやさ、月曜の午後って、あと現代文と数学でしょ? 退屈なんだもん」
それにあの数学教師のジジイ、オレのこと嫌ってるしなー。別に普通に授業受けてるだけなのに、『目つきが気に入らん』とかなんとか言って難癖つけてくるところがどーもね……。
「あたしだって、学級委員長なんて立場じゃなければ、わざわざこうして言うこともないの」
別にオレらなんてほっときゃいいところを、この委員長はフケようとすれば必ず声をかけてくる。呆れるほどマジメだ。おかげでクラスメイトからも『ちょっとマジメ過ぎて会話しづらい』『冗談通じなくて白ける』なんて言われてるらしい。本人が気付いてんのかは知らねーけど。
んなこと言って、マジメが嫌われるってのは気の毒だ。オレらなんかよりよっぽどマシだろって。
「桜木君みたいに、あなたも部活に入ったらどう? 仲はいいんでしょう?」
よく見てるよなー。まだ入学して間もないってのに、ちゃんとクラスの奴らを把握してる。
「そんなこと言って、委員長だって帰宅部だろ?」
「あたしは週3回、予備校に通っているの。遊んでいるわけじゃないのよ」
あれだけ勉強しといて、まだやるか。それに、そうじゃない日も図書室で勉強してんだろ、知ってんだぜ。
「それを言うなら、オレだって週5でバイトしてるから、遊んでるってわけでもねーよ?」
「……そもそも、学生の本分は勉強だというのに、週の半分以上をアルバイトに当てているというのはどうなのかしら」
「こっちの苦労も知らないで……」と、委員長はぶつぶつ言いながら、また眼鏡をくいっと中指で押し上げるようにした。そのとき眉間にシワが寄って、女子だってのに、なかなかちょっぴり怖い。
「そーんなツンツンした顔してたら、もったいないぜ? だから『委員長は近寄りがたい』って思われてるんじゃねーの?」
「よ、余計なお世話よ! もともとこういうカオですぅ!」
こう言ってやると、言い返してくる
「ど、どうせあたしは流行りにも疎いし、トロくてイモくさい女よ」
そんな卑屈になることねーのに。そういうところ見りゃ、クラスの奴らだって、もっと話しやすくなるんじゃねーかって思うけど……アレか、あとは見た目の問題か。そう思って口に出した。
「いや、メガネがお堅く見えるんじゃない? はずしてみたら?」
「馬鹿言わないで、眼鏡がないとあたし何も見えないんだか、ら──」
カバンを持ってないほうの手を伸ばして、彼女の眼鏡を抜き取った。一瞬見えにくいのか、目を細めた無防備な顔がいじらしい。委員長の貴重な素顔に、思わず覗き込むようにした。「ほら、カワイイ」
おっ、冗談で言ったわけではなかったけどこれは。マジのやつかもしれん。“磨けば光る”、ってやつか? 目元も印象的で、肌も綺麗。なかなかの美人じゃないだろうか。
「かっ、返して!」
慌てた委員長はオレの手から自分の眼鏡を引ったくると、下を向いてかけ直した。あら、残念。もう少し見てたかったけど。
「こんなことするなんて……失礼しちゃうっ」
「ははっ、赤くなってら。かわいー」
「い、いい加減にしてよ!」
顔を赤くして、オレとの距離をとるように手を振り上げている委員長は、近寄りがたさなんてなくて、やっぱり素朴な可愛い女子だと思う。
「
階段のほうから聞こえてきたのはチュウの声だった。振り向くと、大楠と高宮もいる。そうは言っても月曜の午後はフケるってのが、暗黙の了解みたいになっていた。でも、せっかく委員長と話してるんだから、もう少し空気読めよ。
「おう、ちょっと待って」
オレが三人を制すと、「もうっ」振り向いたときに委員長は、すでにおさげを振り乱すようにしてそっぽを向いて、教室のほうへ歩き出そうとしていた。
「あれっ、もういいの?」
「勝手にすれば!?」
まだ話し足りない気分だったのに、すっかり
「じゃあな、また明日」
これには無視。何も言わずにさっさと行ってしまった。残念、嫌われたかな。明日もしまだ怒ってたら、さすがに謝るか。
「よ〜へ〜、誰だよあのコ。狙ってんのか?」
「お?」とそこで、しばらく様子を見てたのか、大楠がニヤニヤしながら肩を組んできた。オレは平静を保って否定した。
「そうじゃなくて、“委員長”だよ。オレと花道のクラスの、学級委員長」
「なーんかマジメそうだなー……洋平って、ああいうコがタイプだったかあ?」
教室へ早足で戻っていく委員長の後ろ姿を見ながら、高宮がつぶやく。タイプかあ、そんなふうに思ったことはなかったな。けど、それもピンとこない。
「だからそういうんじゃねーって。委員長は、委員長だから」
「はあ?」
オレの言葉が理解できなかったのか、三人は揃って首をひねっていた。その反応も含めて、面白くて笑ってしまった。そうさ、委員長は委員長だからいいんだ。
だから、オレがフケようとすれば必ず声をかけてくるってわかってるし、それからなんだか目が離せなくなって、委員長のことをずっと見ていた。でもって、向こうから
(目指すは、平成初期のヤンキー×委員長キャラの王道少女漫画。)
1/1ページ