上塗りのくせに綺麗だとか
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「んー今日のメインは、やっぱりこのケーキスタンドで決まりだねー!」
ローテーブルを挟んで対面したソファに腰かけていたケイトが、背もたれに身を預けてスマホをいじっている。
「チョ~映えてる! トレイくんアフタヌーンティーもイケちゃうんだー」
「はは、ケイトが喜びそうだとは思っていたけどな」
一人掛けのソファにゆるりと座って、リラックスしたトレイが肩を揺らし笑う。
談話室のテーブルの上に置かれたケーキスタンド――上からデザート・スコーン・サンドイッチが整然と並び、そばにはお好きにどうぞといった様子で、大きなティーポットと温められたカップとソーサーがいくつか置かれている。
「パーティーでもなんでもないのに、なんか特別なカンジ?」
「別に。みんながココでお茶するならついでに、と思って」
「トレイくん、マジやさお~」
「ねー? ヴィオラちゃん」
「うん、トレイのスコーンまじサイコー」
「いや聞いてなかったでしょ」
ケイトの腰かけるソファの反対側のアームにもたれるヴィオラもまた、スマホの画面に夢中で話半分だったらしい。そのスカートの上にポロポロとスコーンの欠片が散らばっているのが気になるが、今は寮長のリドルもいないし、まあ良しとしよう。
しかし、こういったソファでくつろぐ場合、こぼれやすいスコーンはあまり適さないな、とトレイは一人反省する。次からはスコーンの代わりの温料理として、ブレッドか異国の飲茶あたりを作ってみようか。
「このクロテッドクリームといっしょに添えられた、スミレジャムがたまんない。色もアメジストみたいでとっても綺麗」
「マジそれなー、よし! じゃあ今日の1枚目は、このジャムをスコーンに乗せて……」
せっせと写真用の『イイ感じにジャムとクロテッドクリームが乗ったスコーン』を精製するケイトを横目に、インカメラで前髪を整えるヴィオラ。
「できた! ヴィオラちゃん目線ちょーだーい」
「はーい」
精製したスコーンにかじりつこうとするケイトが、ぐっとヴィオラに近づいて自撮りを試みる。そうは言いつつも、ティーカップで口元を隠すヴィオラもカメラ慣れしているなあ、と妙に感心してしまうトレイだった。
「はいオッケー、バッチリ! ヴィオラちゃんのタグ、付けていーい?」
「どうぞー」
「やった、そしたらヴィオラちゃんファンがみんな見てくれるから嬉しいよー。いいね待ったなし!」
手慣れた動きで、画面の上で指を滑らせるケイトを黙って見ていると、ふいに目が合った。
一瞬、ピタ、とケイトの動きと表情が固まるのに違和感をおぼえるが、彼はすぐにソファから立ち上がってこちらに歩み寄ってきた。
ケイトが腰掛けたままのトレイに顔を寄せるようにして屈んだかと思うと、ヴィオラに聞こえないくらいの小声になる。
「ちょっとー、そんなカオしないでよトレイくん」
「そんなおかしなカオしてたか? 俺」
ひそひそと話すケイトに対し、思わず自分も声のトーンを落として彼の顔に耳を寄せた。
「すっっっごい無表情で、逆に怖い」
パッ、とケイトに目をやる。ケイトは眉をひそめていたかと思うと、次に困ったように苦笑いをして見せ、トレイの肩に軽く手を置いた。
「もー、あからさまに感情押し殺さないで?」
なんとなく思い当たる節があり、ついその表情のまま「あー」と生返事をしてしまう――ぽかん、と口を開けていては少々間抜けだった。その隙にケイトは、「ジャマしてゴメーンね?」と顔の前でスマホを両手で挟み、謝罪のポーズを取りながら、自室へと戻っていく。
ケイトの背中を見送ったあと、視線だけをヴィオラに移すと、彼女は相変わらずスマホの画面に集中していた。ふと我に返ると、談話室に二人きりになっていたことに気付き、ああ、気を遣われたのか、と少し力が抜ける。
「ケイトの奴も飽きないよな」
「好きだよね」
マジカメ投稿のことだろうか。「まあ、ホントに好きなのかは知らないけど」というトレイのつぶやきが聞こえていたのかいないのか、ヴィオラはスマホから視線を離さないまま、それを見かねてトレイはふぅ、と一息ついて立ち上がり、対面のソファに歩み寄った。
「こら、食べこぼし」
「あんまり美味しくって、つい夢中で」
「乗せられないぞ、寮長が来たらどうする気だ」
ヴィオラの前に膝をつき、スカートの太ももの上に散らばったスコーンの欠片をパッパッと手で払って集め、もう片方の手のひらに落とす。
すると、ようやくヴィオラが画面から顔を上げたが、その表情はどこか気まずそうな様子で、跪くトレイを見下ろしていた。
「……そう言って甲斐甲斐しくしてくれるんだから、甘えちゃうんだよなあ」
「甘えられるのは嫌いじゃないぞ」
「俺が気になっただけだしな」と言いつつ、眼前の制服のスカートからのぞく膝頭、直接触れる肌の感触を惜しむように指先を掠める。それに反応したのか知らないが、ゆっくりした動作で両膝を擦り合わせるようにする、そのしぐさがいじらしくて笑ってしまう。
「あーんトレイといるとダメ人間になるー」
「俺はなってくれても構わないよ?」
「……ああ、おそろしい」
「そのうちあたしが"トレイがいないとダメな人間"になる」「そういう作戦なんだ」と、頭を抱えてぶつぶつ一人ごちている彼女を横目に、小さく肩を揺らして、スコーンだった屑を空いている皿にパッパッと両手で払う。
「やっぱりヴィルの忠告は聞いておくべきね」
「なに言われたんだよ」
ただし、その類の言葉はヴィル本人にも言われたことがあるので、ある程度予想はつくけれど。
「こっちの話。ハイッ、"トレイくん"もどーぞ?」
「えぇ?」
「ほら、隣座って」
ごまかすように、膝をつくトレイの腕をヴィオラが引っ張り上げると、その手と反対の手に握りしめていたスマホのインカメラを起動した。つられて立ち上がり、座り込むトレイの体重でソファが沈むと、反動に合わせてヴィオラが跳ねるようにこちらへ近寄ってくる。
「もっと寄らないと入らないよー」
「入ってるよ」
「だーめ、こういうのは角度が大事なの。"トレイくん"、目線ちょーだーい」
「はいはい」
先ほどのケイトを真似するような調子でぐいっ、と身を寄せてくるヴィオラに苦笑いが漏れる。くっつきすぎて帽子がズレてしまったのを直すのも面倒なので、諦めて手に取り、髪をかき上げた。
「コレでいいか?」
「イイカンジ。目ぇ閉じないでね」
斜め上に伸ばされたヴィオラの腕の先で表示されるスマホ画面に映る四 角 に入るよう見上げる。
口元あたりに彼女の髪が触れているのを感じると、カシャ、とシャッター音が鳴り、一瞬画面の中の二人の動きが停止される。すかさず、ヴィオラは元の位置に戻って撮影できたか確認し始めた。
「どう?」
「トレイは乗り気じゃないことも多いから、ケイトがうらやましがるね」
「そうなの?」
二人の中で俺はどういう扱いなんだ、とよくわからないがひとまず帽子を被り直して、冗談混じりに笑ってみせる。
「さっきのケイトの写真に比べたら、それは"映えない"んじゃないのか?」
「ううん、もったいないから、マジカメには載せない」
そういうものなのか。いつも撮っているようなお菓子や級友との写真は投稿して、せっかく撮れたモノは投稿しない──SNSにあまり明るくない自分にはピンと来ないものだ。
「でも、ときどき眺めてニヤニヤするの」
うふ、と思わず上がってしまうといった様子の口角を、スマホで隠しながら膝を抱えるようにこちらへ流し目を向けてくる彼女の言動は、嫌いじゃなかった。
「はは、ヴィオラの好きにしてくれ」
「今、トレイのスマホにも送った」
肩をすくめていると、ピコン、と制服のポケットからスマホの通知音がする。取り出して画面を確認すれば、確かに画像がメッセージとして送られてきていた。
ふと、さっきのケイトの言葉が頭をよぎる。
「……なあ、俺のこ の カ オ 、どう思う?」
「ん? ハンサムに映ってるよ」
「そういう意味じゃなくて」
画面の中でお互いの顔を寄せて微笑む、瞬間の二人。
感情はそこにあ る だけだ。そんなものに左右されるなんて馬鹿げている。
嫉妬とか、嫌悪とか、そんな自分に嫌気がさしたり、彼女すら嫌いになったらと、また自己嫌悪が邪魔をする。けれどそれもぜんぶ、丁寧に上から塗り潰してしまえば同じ。
「……赤く塗った白いバラも、案外バレないもんなあ」
「なんの話?」
「"なんでもないパーティー"の話」
ただ"誤魔化し上手"なだけなんだよな。
最後の仕上げの感情 は、重ね塗りを続けて、油絵のように凸凹でドロドロになっても、
やっぱり、愛がいいかなあ──
君からどう見えるかくらいは、気にしてみるべきだろうか。
《バラの花に願い込めてさ 馬鹿な夢で踊ろう》『愛/を伝えたい/だとか』あいみ/ょん
ローテーブルを挟んで対面したソファに腰かけていたケイトが、背もたれに身を預けてスマホをいじっている。
「チョ~映えてる! トレイくんアフタヌーンティーもイケちゃうんだー」
「はは、ケイトが喜びそうだとは思っていたけどな」
一人掛けのソファにゆるりと座って、リラックスしたトレイが肩を揺らし笑う。
談話室のテーブルの上に置かれたケーキスタンド――上からデザート・スコーン・サンドイッチが整然と並び、そばにはお好きにどうぞといった様子で、大きなティーポットと温められたカップとソーサーがいくつか置かれている。
「パーティーでもなんでもないのに、なんか特別なカンジ?」
「別に。みんながココでお茶するならついでに、と思って」
「トレイくん、マジやさお~」
「ねー? ヴィオラちゃん」
「うん、トレイのスコーンまじサイコー」
「いや聞いてなかったでしょ」
ケイトの腰かけるソファの反対側のアームにもたれるヴィオラもまた、スマホの画面に夢中で話半分だったらしい。そのスカートの上にポロポロとスコーンの欠片が散らばっているのが気になるが、今は寮長のリドルもいないし、まあ良しとしよう。
しかし、こういったソファでくつろぐ場合、こぼれやすいスコーンはあまり適さないな、とトレイは一人反省する。次からはスコーンの代わりの温料理として、ブレッドか異国の飲茶あたりを作ってみようか。
「このクロテッドクリームといっしょに添えられた、スミレジャムがたまんない。色もアメジストみたいでとっても綺麗」
「マジそれなー、よし! じゃあ今日の1枚目は、このジャムをスコーンに乗せて……」
せっせと写真用の『イイ感じにジャムとクロテッドクリームが乗ったスコーン』を精製するケイトを横目に、インカメラで前髪を整えるヴィオラ。
「できた! ヴィオラちゃん目線ちょーだーい」
「はーい」
精製したスコーンにかじりつこうとするケイトが、ぐっとヴィオラに近づいて自撮りを試みる。そうは言いつつも、ティーカップで口元を隠すヴィオラもカメラ慣れしているなあ、と妙に感心してしまうトレイだった。
「はいオッケー、バッチリ! ヴィオラちゃんのタグ、付けていーい?」
「どうぞー」
「やった、そしたらヴィオラちゃんファンがみんな見てくれるから嬉しいよー。いいね待ったなし!」
手慣れた動きで、画面の上で指を滑らせるケイトを黙って見ていると、ふいに目が合った。
一瞬、ピタ、とケイトの動きと表情が固まるのに違和感をおぼえるが、彼はすぐにソファから立ち上がってこちらに歩み寄ってきた。
ケイトが腰掛けたままのトレイに顔を寄せるようにして屈んだかと思うと、ヴィオラに聞こえないくらいの小声になる。
「ちょっとー、そんなカオしないでよトレイくん」
「そんなおかしなカオしてたか? 俺」
ひそひそと話すケイトに対し、思わず自分も声のトーンを落として彼の顔に耳を寄せた。
「すっっっごい無表情で、逆に怖い」
パッ、とケイトに目をやる。ケイトは眉をひそめていたかと思うと、次に困ったように苦笑いをして見せ、トレイの肩に軽く手を置いた。
「もー、あからさまに感情押し殺さないで?」
なんとなく思い当たる節があり、ついその表情のまま「あー」と生返事をしてしまう――ぽかん、と口を開けていては少々間抜けだった。その隙にケイトは、「ジャマしてゴメーンね?」と顔の前でスマホを両手で挟み、謝罪のポーズを取りながら、自室へと戻っていく。
ケイトの背中を見送ったあと、視線だけをヴィオラに移すと、彼女は相変わらずスマホの画面に集中していた。ふと我に返ると、談話室に二人きりになっていたことに気付き、ああ、気を遣われたのか、と少し力が抜ける。
「ケイトの奴も飽きないよな」
「好きだよね」
マジカメ投稿のことだろうか。「まあ、ホントに好きなのかは知らないけど」というトレイのつぶやきが聞こえていたのかいないのか、ヴィオラはスマホから視線を離さないまま、それを見かねてトレイはふぅ、と一息ついて立ち上がり、対面のソファに歩み寄った。
「こら、食べこぼし」
「あんまり美味しくって、つい夢中で」
「乗せられないぞ、寮長が来たらどうする気だ」
ヴィオラの前に膝をつき、スカートの太ももの上に散らばったスコーンの欠片をパッパッと手で払って集め、もう片方の手のひらに落とす。
すると、ようやくヴィオラが画面から顔を上げたが、その表情はどこか気まずそうな様子で、跪くトレイを見下ろしていた。
「……そう言って甲斐甲斐しくしてくれるんだから、甘えちゃうんだよなあ」
「甘えられるのは嫌いじゃないぞ」
「俺が気になっただけだしな」と言いつつ、眼前の制服のスカートからのぞく膝頭、直接触れる肌の感触を惜しむように指先を掠める。それに反応したのか知らないが、ゆっくりした動作で両膝を擦り合わせるようにする、そのしぐさがいじらしくて笑ってしまう。
「あーんトレイといるとダメ人間になるー」
「俺はなってくれても構わないよ?」
「……ああ、おそろしい」
「そのうちあたしが"トレイがいないとダメな人間"になる」「そういう作戦なんだ」と、頭を抱えてぶつぶつ一人ごちている彼女を横目に、小さく肩を揺らして、スコーンだった屑を空いている皿にパッパッと両手で払う。
「やっぱりヴィルの忠告は聞いておくべきね」
「なに言われたんだよ」
ただし、その類の言葉はヴィル本人にも言われたことがあるので、ある程度予想はつくけれど。
「こっちの話。ハイッ、"トレイくん"もどーぞ?」
「えぇ?」
「ほら、隣座って」
ごまかすように、膝をつくトレイの腕をヴィオラが引っ張り上げると、その手と反対の手に握りしめていたスマホのインカメラを起動した。つられて立ち上がり、座り込むトレイの体重でソファが沈むと、反動に合わせてヴィオラが跳ねるようにこちらへ近寄ってくる。
「もっと寄らないと入らないよー」
「入ってるよ」
「だーめ、こういうのは角度が大事なの。"トレイくん"、目線ちょーだーい」
「はいはい」
先ほどのケイトを真似するような調子でぐいっ、と身を寄せてくるヴィオラに苦笑いが漏れる。くっつきすぎて帽子がズレてしまったのを直すのも面倒なので、諦めて手に取り、髪をかき上げた。
「コレでいいか?」
「イイカンジ。目ぇ閉じないでね」
斜め上に伸ばされたヴィオラの腕の先で表示されるスマホ画面に映る
口元あたりに彼女の髪が触れているのを感じると、カシャ、とシャッター音が鳴り、一瞬画面の中の二人の動きが停止される。すかさず、ヴィオラは元の位置に戻って撮影できたか確認し始めた。
「どう?」
「トレイは乗り気じゃないことも多いから、ケイトがうらやましがるね」
「そうなの?」
二人の中で俺はどういう扱いなんだ、とよくわからないがひとまず帽子を被り直して、冗談混じりに笑ってみせる。
「さっきのケイトの写真に比べたら、それは"映えない"んじゃないのか?」
「ううん、もったいないから、マジカメには載せない」
そういうものなのか。いつも撮っているようなお菓子や級友との写真は投稿して、せっかく撮れたモノは投稿しない──SNSにあまり明るくない自分にはピンと来ないものだ。
「でも、ときどき眺めてニヤニヤするの」
うふ、と思わず上がってしまうといった様子の口角を、スマホで隠しながら膝を抱えるようにこちらへ流し目を向けてくる彼女の言動は、嫌いじゃなかった。
「はは、ヴィオラの好きにしてくれ」
「今、トレイのスマホにも送った」
肩をすくめていると、ピコン、と制服のポケットからスマホの通知音がする。取り出して画面を確認すれば、確かに画像がメッセージとして送られてきていた。
ふと、さっきのケイトの言葉が頭をよぎる。
「……なあ、俺の
「ん? ハンサムに映ってるよ」
「そういう意味じゃなくて」
画面の中でお互いの顔を寄せて微笑む、瞬間の二人。
感情はそこに
嫉妬とか、嫌悪とか、そんな自分に嫌気がさしたり、彼女すら嫌いになったらと、また自己嫌悪が邪魔をする。けれどそれもぜんぶ、丁寧に上から塗り潰してしまえば同じ。
「……赤く塗った白いバラも、案外バレないもんなあ」
「なんの話?」
「"なんでもないパーティー"の話」
ただ"誤魔化し上手"なだけなんだよな。
最後の仕上げの
やっぱり、愛がいいかなあ──
君からどう見えるかくらいは、気にしてみるべきだろうか。
《バラの花に願い込めてさ 馬鹿な夢で踊ろう》『愛/を伝えたい/だとか』あいみ/ょん
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