鐘が鳴る
やっぱり帰ろうかな……と、差し入れの入った紙袋を胸に抱えたまま、あたしはすでに弱気になってしまっていた。
学校が終わったあと、一目散に成孔学園にやってきたはいいものの……。
だけど、野球部の建物の近くで集まっている大きな体の部員の人たちがたくさんいる中、少し小柄で逆に目立っている目当ての彼を見つけて、安心してしまう。夕焼けが、彼の濃い影を作っている。とっても綺麗──その顔を見られただけでも、来てよかったと思う。
でも、せっかくここまで来たんだもの、この差し入れ渡さないと……あたしは、思い切って彼の名前を呼んだ。
「し、伸 ちゃん」
すると、弾 けるようにこちらを振り向いた彼が、あたしの顔を見てぎょっ、と驚いた顔をした。そのあと、凛々しい眉がすぐにつり上がったので、びくついてしまう。
「バカヤロウ!! なんでいるんだよ!」
ああ、やっぱり──悲しいけれど、予想どおりの第一声に、逆に肩の力が抜けてしまった。伸ちゃんが、ずんずんと大股の早歩きであたしの方へ近付いてくる。
「部棟 には近付くなっつったろ! もう忘れたんか!? お前のその耳は飾りか!?」
「うぅ……ちゃ、ちゃんと聞こえてます……」
久しぶりに直接話したっていうのに、その厳しい言葉に心が折れそうになる。幼なじみだということと、慣れのせいで耐性はついてしまっているのだけど(これもまた悲しい事実)、キャプテンになってから、伸ちゃんの物言いはますます荒っぽくなった気がする。
「枡ぅ、女子相手にもそんなだったら嫌われんぞー」
「え? 枡さんの彼女さんスか? 青春スか?」
「カワイイ……」
「怖がられてんぞ、キャプテーン」
「うっせぇぞコラァ! 外野はすっこんでろぉ! 散れぇ!」
さっき伸ちゃんの周りにいた野球部員の人たちが、囃 し立てるようなことを言っている。あ れ は怒ってるわけじゃないと思うけど、伸ちゃん曰く『ウチの部は俺以外のツッコミ不在』らしい。
あたしがおろおろしていると、「こっち来いっ」と伸ちゃんがあたしの肩をつかんだ。そのまま体をくるっと反転させられて、背中を押される。部員のみんなから、少し離れたところで立ち止まった。
「俺、何度も言ったよな? ココには来るなって」
振り返ると、眉間のシワを深くした伸ちゃんがあたしを睨みつけている。こ れ はちょっと怒ってる……そう思ってあたしは「ご、ごめん」と一言謝った。
「つかなんで初めて来たのに、部棟 の場所がわかった?」
「えっと……」
「チッ……翔平だろ、お前とちゃんと話したことあんの、アイツくらいだもんな?」
うっ、さすがご明察──グラウンドの入口でウロウロしてたあたしに気付いた長田翔平くんが、快く伸ちゃんのいる場所を教えてくれたのだ。
「お、怒らないであげてね……」
「アイツも気が利くんだか利かねーんだか……」
そう言った伸ちゃんが、親指で後ろのほうにいる部員のみんなを指す。
「だいたい、あんな縦にも横にもデカくてイカツイ奴らが近付いてきたら、フツー怖いだろ?」
「え? べつに……おっきいクマさんみたいで、カワイイと思うけど」
「熊……?」と伸ちゃんが眉をひそめた。そんなにおかしなこと言ったかな。「……いいとこゴリラだろ」こらこら。
「……お前のその感覚は、たぶんどうかしてるぞ」
「そ、そんなことないよ! みんな優しいもん」
確かに成孔学園の野球部の人たちは、みんな体ががっしりしている。最初は伸ちゃんの言うとおり、彼よりもずっと大きい男のコたちにびっくりはしたけど、みんな伸ちゃんのチームメイトだとわかれば、別に怖いと思ったことは一度もない。
その証拠に、というわけではないけれど、前に観戦しに行ったとき話したことのある部員の人たちが「カノジョちゃ〜ん」と向こうからあたしにニコニコと手を振ってくれていた。体が丸くて大きくて、やっぱりマスコット的な可愛さがある。つい小さく手を振り返すと、伸ちゃんがムスッと不機嫌な顔になった。「俺と話してんのによそ見してんな」
「……そりゃお前には優しいだろうよ」
「女子だから気を遣ってくれてるのかな……だとしたら、やっぱり申し訳ないね」
「そう思うんなら来なきゃよかったんだ。なんで来た?」
そんなに来てほしくなかったのかな……さっき会った翔平くんに聞いたら、ココは見学のギャラリーは普通にいるみたいだし、来ちゃいけないってことはないみたいなのに……よっぽどあたしがいると迷惑なのかな……。
「だ、だって……伸ちゃん、寮に入ってるから試合観に行くときくらいしか会えないし……こういう差し入れとかも渡したかったし」
手に持っていた紙袋をそっと持ち上げて、伸ちゃんに見せる。でも差し入れは、どちらかといえば口実。あたしは、ただ、
「それに、伸ちゃんに会いたかったから……会って話だけでもしたかったから……やっぱり迷惑、だったかな?」
伸ちゃんの顔色をうかがうようにすると、「ハァ〜…………」と大きな大きなため息を吐かれて、それからガシガシと頭を掻 いていた。呆れられちゃったかな……。
でもあたしだって、“幼なじみ”ってだけで電車乗り継いでまで、わざわざ彼の学校に来たりはしない。幼なじみとして好きなんじゃなくて、一人の男のコとして──そう思ってるのは、あたしだけだろうけど。
「……ヤなんだよ」
「え?」
いつもハッキリと物を言う伸ちゃんにしては、めずらしくボソッと言うものだから、あたしも聞き返してしまった──と思ったのも束の間、次には大声で彼が言った。
「だから! イヤなんだよ!! お前をアイツらにジロジロ見られるのが!」
一瞬、なんのことを言っているのかわからなかったあたしは、伸ちゃんの言葉を目を見開いて聞くことしかできなかった。
ずっと声を荒げながら、まくし立てて、「ただでさえ、女子に飢えてる野郎共の巣窟なんだぞ! 案の定いまも、お前見つけたらすぐカワイイカワイイ言いやがるし!」「アイツらすぐ脱ぐし! んで裸でウロウロしてる奴らもいるし!」
「お前も! いちいち手とか振らなくていい! お前がホイホイ愛想振り撒 くからアイツらも優しく……というか調子乗るんだよ! すぐ脱ぐし!」それ2回言ったなあ、とかのんきなことを考えてしまう。「つかコレ、さっきも言ったな!」あ、気付いた。
「とにかく! アイツらとお前を会わせたくなかったんだよ! 悪いか!」
結局最後は開き直ってるみたいなことを、ちょっと赤くなった顔で放つ伸ちゃんの言葉に、あたしはニヤけてしまう口角を抑えられない。あたしのことを心配して、来るなって言ってくれてたのかなあ。「おい! ニヤニヤすんな!」
「お! 枡んとこのカノジョちゃん来てるぞ」
「なに!? キャプテン彼女いたの!?」
「いつも応援来てくれるコだろ?」
「相変わらずカワイイな〜」
「あ、あの……あたし、彼女じゃな、」
また集まってきた部員のみんなの言葉を遮 ろうとあたしが口を開くと、伸ちゃんがまた頭をガシガシ掻いた。
「あ゛〜〜〜、ったくこれだから……!」
それから、バッと振り返ってみんなに向かって大声で叫んだ。
「そうだよ、俺の彼女だよ! めちゃくちゃカワイイだろうが! だからお前ら手ぇ出したりしてみろ、ブッコロスからな!?」
えっ、とあたしは固まってしまう。みんなは伸ちゃんに怒鳴られてもなんだか飄々としていて、いつものこと、みたいにしている。
「いや出すわけねーじゃーん」
「キャプテンったらなにムキになってんスか〜」
「おかしくないスか? 枡さんにいて、なんで俺には彼女いないんスか?」
「ヤキモチ? ノロケ? 意外と子どもっぽいトコあんだなー」
「……お前らあとで覚えてろよ?」
伸ちゃんがそう言って凄むと、「怖ぇ!」とみんなが蜘蛛の子を散らすように離れていく。体が大きいから、ドタドタと足音も大きい。
「オラ、いつまでもこんなトコにいさせられっか」
「え?」
固まったままのあたしに、伸ちゃんが「ん」と手を差し出してきた。あ、さっさと差し入れ寄越せってことかな、と紙袋を渡そうとすると、「バカ!」となぜか罵られてしまった。えぇっ、ちがうの?
まださっきの言葉の衝撃が残ってて、ぼうっとしてたあたしの手を、伸ちゃんの手が引っつかんで握る。
「え?」
「……駅まで送ってってやる。とっとと行くぜ、走るぞ!」
「きゃっ! ちょっと、伸ちゃん!」
伸ちゃんはあたしの手を取ると、突然走り出して、部員のみんなが集まってるところを突っ切っていく。待って待って、速いよ伸ちゃん!
「あ! にげた!」
「自分だけイチャイチャして!」
「彼女を守ろうとする枡さん、カッコいいっス!」
「俺たちのキャプテン!」
「うっせぇ!! 戻ったら全員、漏れなくシバく!!」
みんなに向かってそんなことを吐き捨てるように言った伸ちゃんとあたしは、駅の方へ走り続けた。そのとき、校舎からチャイムの鳴り響く音が聞こえてきた。ウチの学校のチャイムよりも、すこし高い気がした。
手、繋いだの、小学生以来かなあ、なんて思い出しながら、あたしはさっきの伸ちゃんの言葉を確かめたくて、走る足を止めずに聞いた。
「ねぇ! さっきの!」
「みなまで言うな! そういうことだよ!」
そういうこと──いいの? あたし、みんなに伸ちゃんの彼女だと思われたままで。伸ちゃん、まだ顔が赤いけど、あたし調子乗るよ? ああ、また怒られそうだな。
「今度から来るときは連絡して来い!」
「来て、いいの!?」
「もうそれでいい!」
「だからちったぁ、彼氏の言うこと聞きやがれ!」
彼氏──伸ちゃんが、彼氏かあ──ふふ、と嬉しくってつい浸ってしまう。よかった、そう思っているのが、あたしだけじゃなくて。
「うん!」
「ニヤニヤすんなっつったろ!」
(女のコに「伸ちゃん」って呼んでほしかっただけまでありますね。愛されキャプテン。)
学校が終わったあと、一目散に成孔学園にやってきたはいいものの……。
だけど、野球部の建物の近くで集まっている大きな体の部員の人たちがたくさんいる中、少し小柄で逆に目立っている目当ての彼を見つけて、安心してしまう。夕焼けが、彼の濃い影を作っている。とっても綺麗──その顔を見られただけでも、来てよかったと思う。
でも、せっかくここまで来たんだもの、この差し入れ渡さないと……あたしは、思い切って彼の名前を呼んだ。
「し、
すると、
「バカヤロウ!! なんでいるんだよ!」
ああ、やっぱり──悲しいけれど、予想どおりの第一声に、逆に肩の力が抜けてしまった。伸ちゃんが、ずんずんと大股の早歩きであたしの方へ近付いてくる。
「
「うぅ……ちゃ、ちゃんと聞こえてます……」
久しぶりに直接話したっていうのに、その厳しい言葉に心が折れそうになる。幼なじみだということと、慣れのせいで耐性はついてしまっているのだけど(これもまた悲しい事実)、キャプテンになってから、伸ちゃんの物言いはますます荒っぽくなった気がする。
「枡ぅ、女子相手にもそんなだったら嫌われんぞー」
「え? 枡さんの彼女さんスか? 青春スか?」
「カワイイ……」
「怖がられてんぞ、キャプテーン」
「うっせぇぞコラァ! 外野はすっこんでろぉ! 散れぇ!」
さっき伸ちゃんの周りにいた野球部員の人たちが、
あたしがおろおろしていると、「こっち来いっ」と伸ちゃんがあたしの肩をつかんだ。そのまま体をくるっと反転させられて、背中を押される。部員のみんなから、少し離れたところで立ち止まった。
「俺、何度も言ったよな? ココには来るなって」
振り返ると、眉間のシワを深くした伸ちゃんがあたしを睨みつけている。
「つかなんで初めて来たのに、
「えっと……」
「チッ……翔平だろ、お前とちゃんと話したことあんの、アイツくらいだもんな?」
うっ、さすがご明察──グラウンドの入口でウロウロしてたあたしに気付いた長田翔平くんが、快く伸ちゃんのいる場所を教えてくれたのだ。
「お、怒らないであげてね……」
「アイツも気が利くんだか利かねーんだか……」
そう言った伸ちゃんが、親指で後ろのほうにいる部員のみんなを指す。
「だいたい、あんな縦にも横にもデカくてイカツイ奴らが近付いてきたら、フツー怖いだろ?」
「え? べつに……おっきいクマさんみたいで、カワイイと思うけど」
「熊……?」と伸ちゃんが眉をひそめた。そんなにおかしなこと言ったかな。「……いいとこゴリラだろ」こらこら。
「……お前のその感覚は、たぶんどうかしてるぞ」
「そ、そんなことないよ! みんな優しいもん」
確かに成孔学園の野球部の人たちは、みんな体ががっしりしている。最初は伸ちゃんの言うとおり、彼よりもずっと大きい男のコたちにびっくりはしたけど、みんな伸ちゃんのチームメイトだとわかれば、別に怖いと思ったことは一度もない。
その証拠に、というわけではないけれど、前に観戦しに行ったとき話したことのある部員の人たちが「カノジョちゃ〜ん」と向こうからあたしにニコニコと手を振ってくれていた。体が丸くて大きくて、やっぱりマスコット的な可愛さがある。つい小さく手を振り返すと、伸ちゃんがムスッと不機嫌な顔になった。「俺と話してんのによそ見してんな」
「……そりゃお前には優しいだろうよ」
「女子だから気を遣ってくれてるのかな……だとしたら、やっぱり申し訳ないね」
「そう思うんなら来なきゃよかったんだ。なんで来た?」
そんなに来てほしくなかったのかな……さっき会った翔平くんに聞いたら、ココは見学のギャラリーは普通にいるみたいだし、来ちゃいけないってことはないみたいなのに……よっぽどあたしがいると迷惑なのかな……。
「だ、だって……伸ちゃん、寮に入ってるから試合観に行くときくらいしか会えないし……こういう差し入れとかも渡したかったし」
手に持っていた紙袋をそっと持ち上げて、伸ちゃんに見せる。でも差し入れは、どちらかといえば口実。あたしは、ただ、
「それに、伸ちゃんに会いたかったから……会って話だけでもしたかったから……やっぱり迷惑、だったかな?」
伸ちゃんの顔色をうかがうようにすると、「ハァ〜…………」と大きな大きなため息を吐かれて、それからガシガシと頭を
でもあたしだって、“幼なじみ”ってだけで電車乗り継いでまで、わざわざ彼の学校に来たりはしない。幼なじみとして好きなんじゃなくて、一人の男のコとして──そう思ってるのは、あたしだけだろうけど。
「……ヤなんだよ」
「え?」
いつもハッキリと物を言う伸ちゃんにしては、めずらしくボソッと言うものだから、あたしも聞き返してしまった──と思ったのも束の間、次には大声で彼が言った。
「だから! イヤなんだよ!! お前をアイツらにジロジロ見られるのが!」
一瞬、なんのことを言っているのかわからなかったあたしは、伸ちゃんの言葉を目を見開いて聞くことしかできなかった。
ずっと声を荒げながら、まくし立てて、「ただでさえ、女子に飢えてる野郎共の巣窟なんだぞ! 案の定いまも、お前見つけたらすぐカワイイカワイイ言いやがるし!」「アイツらすぐ脱ぐし! んで裸でウロウロしてる奴らもいるし!」
「お前も! いちいち手とか振らなくていい! お前がホイホイ愛想振り
「とにかく! アイツらとお前を会わせたくなかったんだよ! 悪いか!」
結局最後は開き直ってるみたいなことを、ちょっと赤くなった顔で放つ伸ちゃんの言葉に、あたしはニヤけてしまう口角を抑えられない。あたしのことを心配して、来るなって言ってくれてたのかなあ。「おい! ニヤニヤすんな!」
「お! 枡んとこのカノジョちゃん来てるぞ」
「なに!? キャプテン彼女いたの!?」
「いつも応援来てくれるコだろ?」
「相変わらずカワイイな〜」
「あ、あの……あたし、彼女じゃな、」
また集まってきた部員のみんなの言葉を
「あ゛〜〜〜、ったくこれだから……!」
それから、バッと振り返ってみんなに向かって大声で叫んだ。
「そうだよ、俺の彼女だよ! めちゃくちゃカワイイだろうが! だからお前ら手ぇ出したりしてみろ、ブッコロスからな!?」
えっ、とあたしは固まってしまう。みんなは伸ちゃんに怒鳴られてもなんだか飄々としていて、いつものこと、みたいにしている。
「いや出すわけねーじゃーん」
「キャプテンったらなにムキになってんスか〜」
「おかしくないスか? 枡さんにいて、なんで俺には彼女いないんスか?」
「ヤキモチ? ノロケ? 意外と子どもっぽいトコあんだなー」
「……お前らあとで覚えてろよ?」
伸ちゃんがそう言って凄むと、「怖ぇ!」とみんなが蜘蛛の子を散らすように離れていく。体が大きいから、ドタドタと足音も大きい。
「オラ、いつまでもこんなトコにいさせられっか」
「え?」
固まったままのあたしに、伸ちゃんが「ん」と手を差し出してきた。あ、さっさと差し入れ寄越せってことかな、と紙袋を渡そうとすると、「バカ!」となぜか罵られてしまった。えぇっ、ちがうの?
まださっきの言葉の衝撃が残ってて、ぼうっとしてたあたしの手を、伸ちゃんの手が引っつかんで握る。
「え?」
「……駅まで送ってってやる。とっとと行くぜ、走るぞ!」
「きゃっ! ちょっと、伸ちゃん!」
伸ちゃんはあたしの手を取ると、突然走り出して、部員のみんなが集まってるところを突っ切っていく。待って待って、速いよ伸ちゃん!
「あ! にげた!」
「自分だけイチャイチャして!」
「彼女を守ろうとする枡さん、カッコいいっス!」
「俺たちのキャプテン!」
「うっせぇ!! 戻ったら全員、漏れなくシバく!!」
みんなに向かってそんなことを吐き捨てるように言った伸ちゃんとあたしは、駅の方へ走り続けた。そのとき、校舎からチャイムの鳴り響く音が聞こえてきた。ウチの学校のチャイムよりも、すこし高い気がした。
手、繋いだの、小学生以来かなあ、なんて思い出しながら、あたしはさっきの伸ちゃんの言葉を確かめたくて、走る足を止めずに聞いた。
「ねぇ! さっきの!」
「みなまで言うな! そういうことだよ!」
そういうこと──いいの? あたし、みんなに伸ちゃんの彼女だと思われたままで。伸ちゃん、まだ顔が赤いけど、あたし調子乗るよ? ああ、また怒られそうだな。
「今度から来るときは連絡して来い!」
「来て、いいの!?」
「もうそれでいい!」
「だからちったぁ、彼氏の言うこと聞きやがれ!」
彼氏──伸ちゃんが、彼氏かあ──ふふ、と嬉しくってつい浸ってしまう。よかった、そう思っているのが、あたしだけじゃなくて。
「うん!」
「ニヤニヤすんなっつったろ!」
(女のコに「伸ちゃん」って呼んでほしかっただけまでありますね。愛されキャプテン。)
1/1ページ