きみと幼なじみ

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「いや、マジ鬼畜なんだわ、顔に似合わずな!」
「顔は関係ないだろ」
「ふふ、もう……南朋もあんまり部員みんなにイジワルしちゃダメだよ」
「イジワルなんて言うなよ、鍛えてるんだから」

 部活の練習が終わって、三人で夕暮れの中帰り道を歩く。南朋の車椅子を洋子が押して、洋子の通学カバンは俺が持ってやる。最近の下校時は大抵このスタイルだ。

「梅宮くんも、南朋が無茶なこと言うようだったら、もっと文句言っていいんだよ?」
「南朋の無茶はいつものことだからな! 今さらどうってこたぁねーよ」
「それもそれでどうかと思うけど……」

 俺が笑ってみせたら、隣の洋子も苦笑いしている。その目線がなんとなくむずがゆくて、俺は頬を爪の先でいた。
 南朋の幼なじみの洋子は帰宅部で、いつも放課後図書室で勉強してから南朋を迎えに来る、真面目で優しいヤツだ。俺は見た目もこうだし、怖がられんのも自覚してっから、親しい女子なんてのはそういないが、そんな俺にも彼女はいつも優しい。
 だから、惹かれるのは自然なことだったのかもしれねーなあ。それでもときどき、彼女の度胸に驚かされることもある。





 まだ入学して間もない頃、部活が終わった後に、南朋と買い出しに行ったときだったと思う。いつもどおり南朋を迎えに来た洋子も、付き添いで店までついてきたことがあった。

「お、そいつは重いから、俺が取ってくるわ」
「頼むよ」

 買い出しリストを見た俺は、南朋に言われてそれを探しに行った。んでもって、バカデカいプロテインの袋を担いで南朋たちの元へ戻ってみたら、ちょうど二人のそばを通り抜けようとする奴らを見かけた。男たちは大学生くらいに見えた。

「んだよジャマだな」
「どけや」
「わっ!」

 ガツンッ、と──あろうことか男の一人が、南朋の車椅子のタイヤを蹴っ飛ばしやがった。驚いた南朋が、グラついて慌ててんのが声でわかる。

「アイツら、ふざけやがって……!」

 当然怒りが湧いてくる。けど、俺と南朋の二人だったり、野球部の連中と一緒のときはそんな目に遭ったことがなかった。
 それが、女子と二人になった途端これだ。弱い立場の人間には、平気でそういうことできる奴らがいる──その現実がショックでもあって、同時に、絶対許さねぇと俺は息巻いた。

「ちょっと!」

 ところが、俺が出ていく前に声を上げる人物がいた。洋子だった。男たちが振り向く。

「あ? なに?」
「確かに少し狭かったかもしれません。でも、彼にとってこの車椅子は足の代わりなんです。人の足を通りすがりに蹴るなんて、どういうつもりなんですか?」

 彼女は怒っていた。てっきり大人しいタイプかと思っていた俺は、初めて見るその言いぐさに驚いちまった。男たちはというと、まさか言い返されると思ってなかったのか、ポカンと間抜けヅラをしている。

「謝ってください。彼に失礼です」

 洋子は毅然とした態度で、ハッキリとそう言った。相手が変に言い返してくる人間だったらマズいから、彼女のやり方を賢くないという奴らもいるかもしれねぇ。けど、他人のために怒ってやれる人間ってのは、やっぱすげぇと思うんだ。
 やるじゃねぇか、あいつ。
 俺は、その出来事をきっかけに、洋子には一目置いていた──今思えば、それが気になりだしたきっかけだったかもしれない。





「梅宮くん?」

 思い出していると、突然洋子に呼ばれてハッとした。そしたら、彼女の顔が思ったより近くにあって、今さら緊張しちまう。

「な、なんだ洋子、どうした?」
「このあいだ、次のテスト範囲のところ、教えてほしいって言ってたよね?」
「お、おお。おまえ、頭良いからな。前回のノートのコピーもすげぇ助かったし」
「だから、ね。今度部活お休みのときに、一緒に勉強とか……」
「はっ?」
「帰りに、駅前のカフェとかで……どう、かな?」

 いやいやいや、なんで俺? つーか、それは……と、俺は少し前の南朋を見た。この位置からじゃ、座ってる南朋の表情はわからねぇ。
 けど俺は、しばらく足りねー脳みそで考えを巡らせて、ああ、そういうことかと一つの答えに辿り着いた。

「わかった! 南朋に言われたんだな? 俺が赤点取って補習になったら部活出らんなくなるから。そうだろ!?」
「えっ? ち、ちが、」
「そういうことなら心配すんな。俺も二人ほど頭良かねーが、自分でなんとかすらぁな。あ! けどノートは貸してもらえると助かる!」

 洋子は困った表情をしている。やっぱりいくら南朋の頼みとはいえ、俺と二人なんてのは困ってただろうしな。

「俺、もう行くわ。ほら、カバン返すぜ」
「あ、ありがとう」
「じゃ、気ぃ付けて帰れよ! 南朋、また明日な!」
「ああ」

 車椅子に座る南朋の肩を軽く叩いてから、俺はその場からとっとと離れるように、左肩のエナメルバッグを持ち直して走った。これで良いんだろう、あの二人は、俺が割り込んでいいような軽い関係じゃねぇことはわかってる。
 十分走っただろうところで、つい振り返って遠目に見ちまった──屈んで南朋に目線を合わせて寄り添う、洋子の姿──誰がどう見てもお似合いの二人だ。ズクズクと胸がうずく……いてぇ。なんだよ、コレ。
 こんな痛みなんざ、知らないほうが良かった。俺はそれ以上見てられなくなって、その痛みもぜんぶ振り払うように、家まで一目散に駆け出した。

─────────────────────────

「……梅宮の奴、全然わかってないなあ」

 走り去る梅宮を見つめながら苦笑いしてつぶやくと、幼なじみの洋子が僕の隣でしゃがんで、ため息を吐いた。

「あたし、梅宮くんに嫌われてるのかなあ……」
「いや、アレはそういうことじゃないと思う」

 むしろ、梅宮は洋子のことが好きなんじゃないかなと僕は思うんだけど、実際どうなんだろう。聞いたことはないから知らないが、基本的にわかりやすい奴だからなあ。

「まあ、めげずに頑張れよ。テストまでまだ少しあるし。応援はしてるから」
他人事ひとごとだと思って……ちょっとは協力してくれたっていいのに」

 ぷ、とすこし赤い顔でわざとらしく頬を膨らませては、カバンを抱えたまま、横目で僕をにらんでくる。それを見て、思わず吹き出してしまった。

「だって、それじゃあ面白くないだろう?」
「幼なじみの恋を面白がらないでよ……!」

 梅宮の奴も、何を勘違いしてるのか知らないが、やたらと僕と洋子をくっつけようとするのは、今に始まったことじゃない。ただの幼なじみだ、って何度も言ってるはずだけど。
 それに、の気持ちも全くわかっていないみたいだ。僕は始めから、とっくに気が付いているというのに。





 梅宮は、覚えているだろうか。

「謝ってください。彼に失礼です」

 あのときは、まだ1年生だった。梅宮との買い出しに洋子がついてきたとき、店で僕の車椅子を通りすがりに蹴ってきた男に、洋子がそう言って注意したことがあった。

「はぁ? な、なんだよ、そっちがジャマなのは事実だろうが」
「だいたい、車椅子が店に入って来んなよ」
「このお店は、そもそもバリアフリーステッカーが入口に貼ってあります。ちゃんとルールは守っています」

 制服で相手が女子高生だとすぐにわかって、プライドが許さなかったのか、しつこく食い下がる男たち。そんな彼らに一歩も引かない彼女を、僕はその手を引いて制した。

「おい洋子、もういいからっ……」

 正直、これくらいの小言は慣れていた。別に僕が我慢すればいいだけのことだ。だけどこうなってしまうと、僕のこんな身体からだでは彼女を守れない。そんな自分も情けなかった。

「待てやコラ」

 ふいに、商品を探しにいっていた梅宮が戻ってきて、男たちに声をかけた。その、まるで地を這うようなドスの効いた声は、僕も初めて聞く。
 彼の容姿で真っ先に他人の目を引く、そのリーゼントの生え際──こめかみ辺りに、青筋が浮き出ているのが見えた。怒っていることが手に取るようにわかって、僕も洋子もびっくりした。こっちまで縮こまってしまうほどだった。
「下がってろ」と、洋子の肩を引き寄せるようにして、梅宮は男たちとの間に割って入った。

「お前ら……相手が女子だからってナメてんじゃねぇのか? あ゛ぁ!?」

「ひっ、」と男の一人が怯えたような声を上げた。そりゃあ、ただでさえ梅宮の風貌は初対面の人が見たら怖いものだろうし、180センチ超えの男に本気で凄まれたら、誰だってそういう反応になる。

「彼女言ったろ。謝れよ」
「す、すいませんっ!」
「んだよ、こんなヤベェ彼氏いたのかよ……」
「お、おい、もう行こうぜ」

 さっきまでの威勢が嘘のように、男たちはすごすごと店から出て行った。あの様子だと、しばらくココで買い物できないだろうなあ……少し気の毒だった。

「俺にじゃなくて、南朋に謝れや! ったく……」

 最後男たちの背中に向かってそう怒鳴ってから、梅宮は振り返り、僕と洋子のほうを心配そうにうかがった。

「大丈夫か?」
洋子……おまえさ、ああいうのはほっとけばいいんだよ。僕は別に気にしてないし、洋子が危ないだろ」
「ごめんなさい……」

 僕が洋子をそうたしなめると、彼女はしょんぼりとうつむいて謝った。そんな顔をさせたかったわけじゃないんだけどな。
 すると、梅宮がその落ち込んだ雰囲気を気にしてか、さっきと打って変わって、妙に明るい声で僕の肩を叩いた。

「まあまあ、いいじゃねぇか! 南朋がガマンすんのも、本来おかしいって」
「梅宮……お前も迷惑かけて悪かったね」
「いいや、俺はカッコよかったと思うぜ! ダチのために怒れるってのは良いことだろ? イイ幼なじみ持ったな、南朋」

 前からお人好しでいいヤツだとは思っていたけど、そんなことをさらっと言える彼は、やっぱり頼りになる。それから梅宮は、今度は洋子のほうを向いた。

「けど、ああやって絡んでくるタチの悪ぃ連中もいるからな。気ぃ付けろよ」

 ぽんぽん、と洋子の頭をでて、その風貌とは裏腹に、ニカッと子どもみたいに笑う梅宮。それを受けて、洋子はどこかぽうっと彼の顔を見つめていた。そのやりとりを、僕は静かに見上げている。
 そこでようやく、ちょっぴり呆けていた洋子はハッとして、梅宮にお礼を言った。

「あ、ありがとう。梅宮くん」
「気にすんな。ああいうのは男が出ばってナンボだろ」

「よし、買うぞー」と、大きなプロテインを担いだ梅宮は、ついでに洋子が持っていた買い物カゴも奪い取って、レジの方へ歩いていった。
 そんな彼を、やはりポーッとした表情で見つめながら、洋子は梅宮に撫でられて少し乱れた髪を、おもむろにぐしで直していた──のを、僕は横で見つめていた。

 ああ、やっぱり、そうなんだな。僕の口からは、ふっ、と笑みが漏れた。彼女の頬がちょっと赤いのも、気のせいじゃなさそうだ。
 それにしても、人が誰かを好きになる瞬間って、存外ロマンチックな光景なんだな。身内でもなんだか当てられてしまって、僕の体温まで上がった気がした。

「一応、伝えておくけどさ」
「えっ」

 しばらく動かなかった洋子に唐突に声をかけると、何のことだかわからない、といった感じの反応を返された。

「梅宮、今は、彼女いないらしいよ」

 そう言うと、僕を見下ろす洋子の頬が、ボッとさらに赤くなった。加えて、あたふたと口ごもっている。

「どっ……! どういう意味!?」
洋子も大概わかりやすいよね」

 彼女とは長い付き合いだけど、思い返すと、好きな男子がいるとかそんな話は、聞いたことないなあ。初恋だったりして?

「ま、まだ言わないでね?」
「僕からは言わないよ」

 なるべく優しく答えたつもりだけど、ちょっと面白がってるの、バレたかな。

「けど、よりによって梅宮かあ……僕って今、二人のダシに使われた?」
「南朋!」
「はは、冗談だよ」

 からかう僕を遮るように、洋子が僕の肩をバシッと叩いた。案外、不良っぽいタイプが好きだったのかな。だとしたら、幼なじみの僕も知らなかったことだった。

「確かに今のは、男から見てもカッコよかったからな」
「うん……」

「おーい南朋ー、財布お前が持ってんだろ? 会計頼むわー」
「いま行くよ」

 レジで手を振る梅宮の声につられて、洋子が僕のことを押す。

 その足取りは、ゆっくりと、それでも確かなもので、背後からはさっきまでは感じなかった彼女が彼を想う熱もおぼえて、僕は自然とほほ笑んでしまった。









(たぶん両片想いに気付いてないのは、野球部で梅ちゃんだけだと思います。)
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