Candy Pop
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
来週にはセンバツが始まる。教室では、もうすぐ一年生の教室とも離れることになる寂しさだとか、とはいえ春休みが待ち遠しいだとか、そんな空気が漂っているが、野球部にとっては二の次だった。
その日の練習を終え、寮の部屋に戻り着替えたところで食堂に入ると、まだ洗い物をしているジャージ姿の彼女を見つけた。今は一人でいるようだ。
「宮城」
声をかけると、ジャグやタッパーを洗っている手を止め、彼女が振り向く。
「奥村くん。どうしたの?」
「コレ」
奥村はそう言って、部屋から持ってきた紙袋を差し出した。
「今日、ホワイトデーだから」
「そんな。あのチョコはマネージャー全員からの差し入れみたいなものだから、気を遣わないでって、みんなにも言ったのに」
「いや……お返しなんて立派なものじゃない。実は、処理に困ってて」
「『処理』?」
そばに掛かっていたタオルで濡れた手を拭いたあと、宮城は首をかしげながら紙袋を受け取って、その中を覗いた。「コレは……ティーバッグ?」
「母親が紅茶好きで、たまに仕送りに入ってるんだよ。男が寮で飲むわけもないのに……マネ四人分入ってるから、宮城から渡しておいてくれないか」
「そういうことかあ」
宮城は納得したようすでほほ笑むと、紙袋の持ち手を片方の手首に引っかけて笑った。「奥村くんのおうち、お洒落そうだもんね」「さあ」
「ありがとう。春乃先輩と、茜ちゃんと、杏奈ちゃんにも、ちゃんと渡しておくね」
「助かる」
奥村が軽く頭を下げると、「あ、そうだ」と宮城は思い出したように口にして、一度周りの部員たちのようすを確認してから、すこし声をひそめてこちらを見た。
「ねぇ、奥村くん。17日って、拓くんの誕生日なんだよね?」
「よく覚えてるな」
そういえば──今日という日に、宮城の口から彼の名前がい ま 出たということは──もしかして拓の奴、まだ渡せていないのか?
「実は、いまだにプレゼント迷ってて……どうしよう、なにあげたらいいかな?」
「迷ってるって……もう三日後だぞ」
「そうなの……! 悩んでたらどんどん近付いてきちゃって……!」
やってしまったとばかりに、手のひらをぺち、と額に当てて、宮城は困った顔をしていた。
「バレンタインはあたしの言葉が足りないせいで勘違いさせちゃって、ある意味大失敗しちゃったし……奥村くんにも迷惑かけちゃったから、今度はちゃんとしたくて」
「アレは早とちりした拓が悪い」
迷惑とまでは思っていない。少なくとも、どのみち同学年の部員たちには、二人の間柄はだいたい知られていることだろう。
「ねぇ、どうしたらいいと思う……!?」
「……それを俺に聞くのか?」
「だ、だって、拓くんのことを一番知ってるのは奥村くんだと思うし」
「そうでもないと思うけど」
拓と付き合いが長いのは事実だが、互いに知 ら な い こ と だってある。それに、『プレゼントに迷っていた』のは、何も宮城だけじゃない──
直近の部活が休みの日、拓の買い出しに付き合って、駅前に並ぶ店を回った出来事が思い起こされる。
『なあ、光舟知ってたか? ホワイトデーのお返しってさ、“意味”とかあるらしいぜ』
『知らない。聞いたこともないぞ』
『九鬼が言ってたんだよ。お菓子によっては“特別な人”とか“友達でいよう”とか』
『……誰が考えたんだ、それ』
くだらないな、という感想を持ったが、真剣にそれを考えている彼には、さすがに言ってやる気にはならなかった。
『俺もなんだそれって思ったけどさ、もし宮城がそれ知ってたらマズいだろ? ……いやでも、たかがお菓子でこんなに悩んでもなあ』
『どうすっかなあ……!』ぐおお、と謎にうなりながら、隣で文字どおり頭を抱えてうつむく親友を見下ろす。中学のときだって、ホワイトデーのお返しはしていたはずだが、彼のそんな姿は奥村も初 め て 見た。
──と、思い出していたが、目の前の宮城は不安そうな表情のまま続けている。
「バレンタインのときから、ちょっとよそよそしくなっちゃった気がして……やっぱり、迷惑だったんじゃないかなって……」
それは拓がこの一ヶ月、宮城への“返事”とお返しの品をどうするか迷っていたからではないだろうか──と、言ってやりたい。もう一度確かめるが、決して迷惑ではない。迷惑ではないが、いい加減、巻き込まれている気がして面倒臭い。
「拓くんは優しいからなんでもないふうにしてくれるだろうけど……これ以上“重い”とも思われたくない……」
「どうしよう……!」頬を両手で押さえて目をぎゅっ、と伏せている宮城を前に、……どこかで見た光景だな、と先日の彼の姿が再び奥村の目に浮かぶ。彼女の悩みに対しては正直、いらぬ心配をしているなとしか思わなかったが。
「別に──拓は宮城からもらったなら、なんでも嬉しいんじゃないか?」
「そ、」
我ながら、半ば投げやりなフォローをしてしまったのだが、宮城は言葉に詰まったようすで、頬を赤く染めている。
なんだその反応、と脈絡がわからずに眉をひそめていたところ、奥村が視線を感じて顔を上げると、彼女の背後にこちらをじっと見つめて立ち尽くしている彼がいて、目が合った。……なぜ棒立ち?
「そこで何してるんだ、拓」
「ぁ、えっ!? いや、その、順番待ち、的な?」
「……宮城のか?」
声をかければいいものを、意味がわからず呆れて聞くと、宮城は振り返り、「た、拓くん」と赤い顔のまま慌てていた。
「なんの話して……あ、いや! わりぃ、無神経だよな、おれ」
どうした、そんなに取り乱して。らしくもない。バレンタインのときもそうだったが、どうやら宮城のことになるとこれだ。
「……心配しなくても、お前の話してただけだ。『誕生日に欲しいものないか』って」
「「えっ!?」」
二人がこちらの顔を見て、同時に驚いた声を上げた。……さっきも思ったが、意外とこの二人は似た者同士なのだろうか。
「な、なんで言っちゃうのぉ!?」と、宮城はまたあわあわと動揺している。いや、もう直接話したほうが早いだろ。お互いに。俺を介すな。
「心配って……べ、別に気にしてたわけじゃ──ってか、えっ、誕生日? 俺の?」
「それはそうだろ。今の会話の流れで、お前以外に当て嵌 まるか?」
「やめて。光舟のその顔でマジレスはこわいからやめて」
冗談混じりに引きつって笑う拓を見て、ハァ、とため息を吐きながら、彼の手に握られた紙袋を指さしてやる。「それ」
「渡すんだろ?」
「お、おう」
先日購入していたのを見た、お返しの品。なんのために買い出しに付き合ってやったと思ってるんだ。まあ、自分は本当についていっただけで、悩んでいたのは本人だけれども。
「あ……えっと、宮城」
こちらに指摘されて、拓はようやく彼女に向きなおった。
「先月は……ありがとな。あと、勘違いしててホントごめん」
「い、いいよいいよ、もう何回も謝ってもらったから」
「コレ、お返し」
緊張の面持ちで手渡した拓から、紙袋を受け取った宮城が中から取り出したのは、ころんとした無色透明の小瓶に詰まった、色とりどりのキャンディーだった。
「わぁ! かわいいっ」と、顔を綻ばせた彼女を見て、ほっとしたように拓は表情を和らげた。宮城のあの反応を見る限りでは、お返しの“意味”は知らなさそうだ。やはり杞憂だったんじゃないか。
「ありがとう。大事にたべるね」
「いやいや、手作りしてくれた宮城に比べたら。店で買ってきただけだし」
「ううん、すごく嬉しいよ」
「そ、そうか? ならよかった。宮城の作ってくれたチョコもすげー美味 かったから──」
「奥村、奥村」
少し離れた場所から自分をこっそりと呼ぶ声がして振り向くと、そこにはこちらを手招きする九鬼をはじめ、同学年の部員たちが息をひそめて二人のほうを見つめていた。
「マジマジ! 今まであんな美味いチョコ食ったことねーもん」
「もう……大げさだなあ、拓くんは」
会話に夢中の二人から距離をとるように九鬼に近付くと、親指で外への扉を示しながらひそひそ声で言ってきた。「中庭出とこうぜ」チームメイトたちも続けて声を上げる。
「今は邪魔しちゃ悪いだろ」
「奥村、あとで瀬戸から何話してたか聞きだせ」
「なんで俺が……」
「とはいえ気になるじゃん」
「俺にも教えてくれよ」
「もう、みんな。ほら、いこいこ」
見かねた浅田が眉をハの字にして、自身の身長の高さを利用するように、皆の背中を後ろから軽く押しながら退室を促す。すっかり二人だけの世界の拓と宮城を置いて、食堂にいた部員たちはぞろぞろと出ていった。
「俺に、プレゼント?」
「う、うん。何がいいかなあって」
「気持ちだけで嬉しいけど……ていうか、俺は宮城からならなんでも──」
最後に扉から出る際、奥村がちらっと振り返ってみると、そこにははにかむ宮城の前で、照れたように頭を掻いている、嬉しそうな親友の姿があった。
「付き合うかな?」
「いやあ、センバツ始まるのにそれはないんじゃない?」
「それに、それなら先月の時点で付き合ってるって」
「言えてる。みんな知ってるのにな」
「むしろなんか最近ずっとぎこちねーし、あの二人。じれってぇな~」
「『やらしい雰囲気』にはしてやんなよ」
あははは、と中庭で冗談ぽく笑っている同級生たちの中、奥村は少し前を歩いていた九鬼を呼び止めた。「九鬼」「ん?」
「『お返しに意味がある』ってこと、宮城に教えたほうがいいと思うか?」
振り向いた九鬼は、その話か、と腑に落ちた表情をすると、ニッとどこかいたずらっ子のように、けれど爽やかに笑って言ってみせた。
「じゃあ、小田と黒木に、伝えるように言っとこうぜ」
同学年の女子マネージャーの名前を出す九鬼に、それが最適解だろうな、とうなずいてみせる。
ただ、と奥村は思い返した──彼の体面のために、彼女へのお返しを一所懸命悩んでいたことは、親友として、やっぱり黙っておいたほうがいいのかもしれない。ふぉい
(彼からの『あなたのことが好きです』が伝わったら、彼女はどんな反応をするのだろう。)
その日の練習を終え、寮の部屋に戻り着替えたところで食堂に入ると、まだ洗い物をしているジャージ姿の彼女を見つけた。今は一人でいるようだ。
「宮城」
声をかけると、ジャグやタッパーを洗っている手を止め、彼女が振り向く。
「奥村くん。どうしたの?」
「コレ」
奥村はそう言って、部屋から持ってきた紙袋を差し出した。
「今日、ホワイトデーだから」
「そんな。あのチョコはマネージャー全員からの差し入れみたいなものだから、気を遣わないでって、みんなにも言ったのに」
「いや……お返しなんて立派なものじゃない。実は、処理に困ってて」
「『処理』?」
そばに掛かっていたタオルで濡れた手を拭いたあと、宮城は首をかしげながら紙袋を受け取って、その中を覗いた。「コレは……ティーバッグ?」
「母親が紅茶好きで、たまに仕送りに入ってるんだよ。男が寮で飲むわけもないのに……マネ四人分入ってるから、宮城から渡しておいてくれないか」
「そういうことかあ」
宮城は納得したようすでほほ笑むと、紙袋の持ち手を片方の手首に引っかけて笑った。「奥村くんのおうち、お洒落そうだもんね」「さあ」
「ありがとう。春乃先輩と、茜ちゃんと、杏奈ちゃんにも、ちゃんと渡しておくね」
「助かる」
奥村が軽く頭を下げると、「あ、そうだ」と宮城は思い出したように口にして、一度周りの部員たちのようすを確認してから、すこし声をひそめてこちらを見た。
「ねぇ、奥村くん。17日って、拓くんの誕生日なんだよね?」
「よく覚えてるな」
そういえば──今日という日に、宮城の口から彼の名前が
「実は、いまだにプレゼント迷ってて……どうしよう、なにあげたらいいかな?」
「迷ってるって……もう三日後だぞ」
「そうなの……! 悩んでたらどんどん近付いてきちゃって……!」
やってしまったとばかりに、手のひらをぺち、と額に当てて、宮城は困った顔をしていた。
「バレンタインはあたしの言葉が足りないせいで勘違いさせちゃって、ある意味大失敗しちゃったし……奥村くんにも迷惑かけちゃったから、今度はちゃんとしたくて」
「アレは早とちりした拓が悪い」
迷惑とまでは思っていない。少なくとも、どのみち同学年の部員たちには、二人の間柄はだいたい知られていることだろう。
「ねぇ、どうしたらいいと思う……!?」
「……それを俺に聞くのか?」
「だ、だって、拓くんのことを一番知ってるのは奥村くんだと思うし」
「そうでもないと思うけど」
拓と付き合いが長いのは事実だが、互いに
直近の部活が休みの日、拓の買い出しに付き合って、駅前に並ぶ店を回った出来事が思い起こされる。
『なあ、光舟知ってたか? ホワイトデーのお返しってさ、“意味”とかあるらしいぜ』
『知らない。聞いたこともないぞ』
『九鬼が言ってたんだよ。お菓子によっては“特別な人”とか“友達でいよう”とか』
『……誰が考えたんだ、それ』
くだらないな、という感想を持ったが、真剣にそれを考えている彼には、さすがに言ってやる気にはならなかった。
『俺もなんだそれって思ったけどさ、もし宮城がそれ知ってたらマズいだろ? ……いやでも、たかがお菓子でこんなに悩んでもなあ』
『どうすっかなあ……!』ぐおお、と謎にうなりながら、隣で文字どおり頭を抱えてうつむく親友を見下ろす。中学のときだって、ホワイトデーのお返しはしていたはずだが、彼のそんな姿は奥村も
──と、思い出していたが、目の前の宮城は不安そうな表情のまま続けている。
「バレンタインのときから、ちょっとよそよそしくなっちゃった気がして……やっぱり、迷惑だったんじゃないかなって……」
それは拓がこの一ヶ月、宮城への“返事”とお返しの品をどうするか迷っていたからではないだろうか──と、言ってやりたい。もう一度確かめるが、決して迷惑ではない。迷惑ではないが、いい加減、巻き込まれている気がして面倒臭い。
「拓くんは優しいからなんでもないふうにしてくれるだろうけど……これ以上“重い”とも思われたくない……」
「どうしよう……!」頬を両手で押さえて目をぎゅっ、と伏せている宮城を前に、……どこかで見た光景だな、と先日の彼の姿が再び奥村の目に浮かぶ。彼女の悩みに対しては正直、いらぬ心配をしているなとしか思わなかったが。
「別に──拓は宮城からもらったなら、なんでも嬉しいんじゃないか?」
「そ、」
我ながら、半ば投げやりなフォローをしてしまったのだが、宮城は言葉に詰まったようすで、頬を赤く染めている。
なんだその反応、と脈絡がわからずに眉をひそめていたところ、奥村が視線を感じて顔を上げると、彼女の背後にこちらをじっと見つめて立ち尽くしている彼がいて、目が合った。……なぜ棒立ち?
「そこで何してるんだ、拓」
「ぁ、えっ!? いや、その、順番待ち、的な?」
「……宮城のか?」
声をかければいいものを、意味がわからず呆れて聞くと、宮城は振り返り、「た、拓くん」と赤い顔のまま慌てていた。
「なんの話して……あ、いや! わりぃ、無神経だよな、おれ」
どうした、そんなに取り乱して。らしくもない。バレンタインのときもそうだったが、どうやら宮城のことになるとこれだ。
「……心配しなくても、お前の話してただけだ。『誕生日に欲しいものないか』って」
「「えっ!?」」
二人がこちらの顔を見て、同時に驚いた声を上げた。……さっきも思ったが、意外とこの二人は似た者同士なのだろうか。
「な、なんで言っちゃうのぉ!?」と、宮城はまたあわあわと動揺している。いや、もう直接話したほうが早いだろ。お互いに。俺を介すな。
「心配って……べ、別に気にしてたわけじゃ──ってか、えっ、誕生日? 俺の?」
「それはそうだろ。今の会話の流れで、お前以外に当て
「やめて。光舟のその顔でマジレスはこわいからやめて」
冗談混じりに引きつって笑う拓を見て、ハァ、とため息を吐きながら、彼の手に握られた紙袋を指さしてやる。「それ」
「渡すんだろ?」
「お、おう」
先日購入していたのを見た、お返しの品。なんのために買い出しに付き合ってやったと思ってるんだ。まあ、自分は本当についていっただけで、悩んでいたのは本人だけれども。
「あ……えっと、宮城」
こちらに指摘されて、拓はようやく彼女に向きなおった。
「先月は……ありがとな。あと、勘違いしててホントごめん」
「い、いいよいいよ、もう何回も謝ってもらったから」
「コレ、お返し」
緊張の面持ちで手渡した拓から、紙袋を受け取った宮城が中から取り出したのは、ころんとした無色透明の小瓶に詰まった、色とりどりのキャンディーだった。
「わぁ! かわいいっ」と、顔を綻ばせた彼女を見て、ほっとしたように拓は表情を和らげた。宮城のあの反応を見る限りでは、お返しの“意味”は知らなさそうだ。やはり杞憂だったんじゃないか。
「ありがとう。大事にたべるね」
「いやいや、手作りしてくれた宮城に比べたら。店で買ってきただけだし」
「ううん、すごく嬉しいよ」
「そ、そうか? ならよかった。宮城の作ってくれたチョコもすげー
「奥村、奥村」
少し離れた場所から自分をこっそりと呼ぶ声がして振り向くと、そこにはこちらを手招きする九鬼をはじめ、同学年の部員たちが息をひそめて二人のほうを見つめていた。
「マジマジ! 今まであんな美味いチョコ食ったことねーもん」
「もう……大げさだなあ、拓くんは」
会話に夢中の二人から距離をとるように九鬼に近付くと、親指で外への扉を示しながらひそひそ声で言ってきた。「中庭出とこうぜ」チームメイトたちも続けて声を上げる。
「今は邪魔しちゃ悪いだろ」
「奥村、あとで瀬戸から何話してたか聞きだせ」
「なんで俺が……」
「とはいえ気になるじゃん」
「俺にも教えてくれよ」
「もう、みんな。ほら、いこいこ」
見かねた浅田が眉をハの字にして、自身の身長の高さを利用するように、皆の背中を後ろから軽く押しながら退室を促す。すっかり二人だけの世界の拓と宮城を置いて、食堂にいた部員たちはぞろぞろと出ていった。
「俺に、プレゼント?」
「う、うん。何がいいかなあって」
「気持ちだけで嬉しいけど……ていうか、俺は宮城からならなんでも──」
最後に扉から出る際、奥村がちらっと振り返ってみると、そこにははにかむ宮城の前で、照れたように頭を掻いている、嬉しそうな親友の姿があった。
「付き合うかな?」
「いやあ、センバツ始まるのにそれはないんじゃない?」
「それに、それなら先月の時点で付き合ってるって」
「言えてる。みんな知ってるのにな」
「むしろなんか最近ずっとぎこちねーし、あの二人。じれってぇな~」
「『やらしい雰囲気』にはしてやんなよ」
あははは、と中庭で冗談ぽく笑っている同級生たちの中、奥村は少し前を歩いていた九鬼を呼び止めた。「九鬼」「ん?」
「『お返しに意味がある』ってこと、宮城に教えたほうがいいと思うか?」
振り向いた九鬼は、その話か、と腑に落ちた表情をすると、ニッとどこかいたずらっ子のように、けれど爽やかに笑って言ってみせた。
「じゃあ、小田と黒木に、伝えるように言っとこうぜ」
同学年の女子マネージャーの名前を出す九鬼に、それが最適解だろうな、とうなずいてみせる。
ただ、と奥村は思い返した──彼の体面のために、彼女へのお返しを一所懸命悩んでいたことは、親友として、やっぱり黙っておいたほうがいいのかもしれない。ふぉい
(彼からの『あなたのことが好きです』が伝わったら、彼女はどんな反応をするのだろう。)
1/1ページ