意地悪
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2学期が始まってからというもの、夏実とまともに会話できるのは昼休みくらいだと気付いた。
その昼休みですら、彼女は毎日違う同級生と話したり昼食を取っているのだから、自席でスコアブックを見るか、野球部の部員と話すことくらいしかしない御幸にとっては、どうしたものか頭を悩ませる問題だった。
「陸部の部室、キレイだなー」
「顧問の原ちゃん、整理整頓にはキビしいからね」
そんなこともあってから今日の昼休みだが、御幸は夏実と共に陸上部の部室を訪れていた。普段は部員しか入らないであろう部屋は、部活の時間でない今、やはり誰もいない。
夏実は部室に入って扉を閉めると、腕組みしながら少しふんぞり返るようなしぐさをして、冗談混じりの笑みを浮かべる。
「『部員諸君ー、部室の乱れは心の乱れだぞー』って言うの」
「ははっ、似てる似てる。語尾伸ばすカンジ」
陸上部顧問の原は生物教師で、御幸も授業を受けたことがあった。自分のところの強面の顧問と違い、いつもニコニコしていて課題も少ないからか生徒の人気も高く、優しいイメージの教師だ。
「原先生『諸君』って言葉よく使うよな」
「でしょ?」
御幸が部室に置かれた適当な椅子──どこかの余ったような教室の椅子に腰かけると、夏実は隅にあった小さめの冷蔵庫の扉を開け、そこからファスナー付きの袋を取り出した。中から数枚の長方形が差し出される。
「はい、シップ」
「サンキュ。陸部のもらっちゃってよかったの?」
「ケガ人相手にそんなこと言わないよ」
「スプレーも使う?」と、脇に置いていた缶を持って見せるようにしている。
さっき『ちょっと筋肉痛かも』って言っただけで、『じゃあ、陸部の部室に道具あるから一緒に行こ』で、これだけしてくれるんだもんなあ。
「ん? いやー、もう大丈夫」
しかし、受け取ったばかりの湿布を机の上にポンと置いて、御幸は頬杖をついた。「ホントは大したことないんだ」
首をかしげた夏実を見て、御幸は彼女を手招きした。なんだろう、といった顔つきで、夏実は机を挟んで御幸の前の席に座る。御幸は頬杖をついた腕を机の上で組みなおして、目の前の夏実の顔を覗き込むように、少し身を乗り出した。
「なっちゃんとさ、二人だけになりたかった……って言ったら、怒る?」
そう言うと、夏実は少し見開いた目をパチパチとさせて、ゆっくりと、首をひねった。
「怒りはしないけど……」
表情も変えないまま、肩をすくめられる。
「回りくどいなー、とは思う」
「ハッキリ言うなあ」
彼女の答えに、御幸は苦笑いするしかなかった。ちょっとは動揺してほしいんだけどな。
「そこは、話したいからどっか静かなところ行こう、じゃダメなの?」
「んー」
言えたらこんな人間になってないんだよなー、と取り繕うように曖昧な返事をする。教室でそんな会話して、親しくもない誰かにそれを聞かれるのも、なんかヤだし。
「もし俺がそう言ったら、なっちゃんはオッケーしてくれんの?」
「いいよ?」
いいんだ……
「いつでも付き合うよ」
そう言ってうなずいた夏実が、真っ直ぐな目で見てくる。
それは、"俺が彼氏だから"なのだろうか。それとも、やっぱり彼女は、頼まれればどんな相手でもそういう対応をするのだろうか。御幸はそんなことを考えた。
そんなことはつゆ知らず、夏実は「でも陸部の部室は、みゆきちゃん部外者になっちゃうから、今日だけね」と、人差し指で"ナイショのポーズ"をして笑っている。
「橘は、俺なんかよりよっぽどイケメンだなあ……」
「なにそれ」
「え? よく言われない?」
呆れたように肩を揺らす夏実に対し、御幸は至って真面目に聞いたつもりだった。クラスメイト、特に女子によく言われているイメージだ。背が高いから余計にかもしれないが。彼女が気にしているので、そこには触れないでおく。
「みゆきちゃんはイケメンだよ? それこそよく言われてるし、モテるし」
「なっちゃんだって、みんなにモテモテじゃん」
「えー?」
照れたように笑われる。橘の言う『モテる』とは、ちょっとちがう気もするけど。異性だけでなく、人に好かれるという意味で、だった。
「でも、さすがに"物好き"とか言われちゃわない?」
「俺が?」
「うん。だって、もっとカワイイ女のコはいっぱいいるじゃない」
「その基準は、人それぞれだよ」
なんて、まともなこと言ってる風で、それは答えになってないと、自分では気付いている。気の利いた答え一つも返せないのか、俺は。
「だからって別に、あたしみたいなの選ばなくたってさ……」
そこで少しだけ、目の前の御幸から目をそらすようにして、夏実は続けた。
「御幸みたいな男子に言われたら、からかわれてるのかと思うじゃない? 気まぐれだったのかな、とか」
彼女は、恋愛に関して不慣れそうな見た目に反して、意外に鋭い発言をするんだな、と告白したときもチラッとよぎったことを思い出した。
「それに野球、忙しいだろうし……なんとなく、付き合ってみるか、みたいな」
さっきからホント、核心をついてくるなあ。付き合うのをオッケーしてくれるまで、同じようなこと考えてたんだろうな。
御幸の本心までバレているような気がして、それでも、そんなわけないだろ、と口に出そうとしたところ、その前に「あーいや、」と夏実は両手を上げて顔を伏せた。
「ごめん、嫌な言い方だったね」
「せっかく告白してくれたのに」
それを聞いて御幸は、夏実に対して単純に、いいコだなあ、という感想を持った。その瞬間にそういったことが頭をよぎっても、とっさに口に出せるかどうかというのは、結局その人間によるだろうから。彼女はそれができてしまう人なのだ。
でも、そんなことを悪く思う必要なんてない。むしろ、「ううん」と首を横に振ってから御幸は笑ってみせた。
「俺は、橘の嫌なところ知れたら、嬉しいけどな」
「えっ」
『嬉しい』という言葉に驚いているらしく、夏実は目を見開いている。
「言ったろ? 橘のこと『もっと知りたいって思ったから』、付き合ってほしいって言ったんだよ」
ニヤリと笑ってみせる。ほくそ笑む、という表現が正しいかもしれない。
「むしろ、優しすぎるくらいのなっちゃんに、嫌なところがないか探してるんだ、俺」
あー、我ながらヤな奴だなーと、他人事 みたいに御幸は自分に呆れた。気付けば口をついて出るのはこういう言葉ばかりだ。似たようなシチュエーションで、野球部の部員たちが冷や汗をかいている姿を思い出してしまう。
そんな言葉を聞いて、夏実はというと、見開いていた目は視線が宙をさまよっている。困惑しているのがわかって、片手で自身の短髪を掻き乱すと、ぐしゃ、と前髪がその視線を隠すようにした。その隙間から、困ったように細めた目がちらりと覗く。
「……イジワルだなあ、みゆきちゃん」
初めて見る、どこか照れたような、でも苦い表情にゾクゾク、と体が震えた。その表情やしぐさに、何かそそられるものを感じて、御幸の口角は上がってしまう。
「そ。俺、イジワルなの。気付かなかった? こないだお菓子あげたときも」
「差し入れのやつ?」
「うん」
先日、昼休みに差し入れのクッキーを食べていたときのことを挙げる。
「そうだったんだ……てっきり」
「なんだと思ったの?」
「モテることを自慢されたのかなって」
「なんで彼女にそんなことすんのよ」
夏実が終始真面目な顔で答えるのがおかしくて、御幸はさっきまでとは別の笑いが込み上げてきた。
「うん。だから、なんでそんなことするんだろうって思ってた」
「ははは!」
我慢できずに声を上げて笑う御幸のことは気にもならないのか、彼女のほうは相変わらず「イジワルだったのかーそうかー」と、一人うんうん唸っている。ああ、このコはホントに、ある意味期待を裏切らないというかなんというか。
「その様子じゃ、意味なかったみたいだけどね」
「んー」
「怒んないの?」
「え、なんで?」
始めと同じような質問に、夏実は心底不思議そうな顔をしていた。
「怒るようなことっていうのは、お菓子もらったこと? それとも、イジワルしたこと?」
「両方かな」
「うーん」
「別に……」と、夏実は変わらず鈍い反応を返してくる。やはりどうも、御幸の思っていたような言葉は出てきそうにない。
「御幸はあたしに、怒ってほしいの?」
「その言い方だとヘンな誤解が生まれそうだな……」
性癖か何かを勘違いされそうなフレーズに、つい眉をひそめる。
というか、もうちょっとは意識してほしい。それはいわゆる"ヤキモチ"とは違うかもしれない。夏実にとって"彼氏"という肩書きは、実はそんなに大したものでもないのだろうか?、とまで思ってしまう。だっていまだに彼女は御幸の前で、「よくわかんないなー」と首をひねっているのだから。
ところが、夏実は突然顔を上げたかと思うと、自身の顔を指差して、いつもの調子で聞いてきた。
「みゆきちゃん、あたしのこと好き?」
え、と御幸は夏実の言葉に一瞬固まってしまった。付き合っているのに、付き合ってくれと言ったのは自分なのに──ギクッ、と不意をつかれた気になった。
しかし、口から出てきた台詞は、やっぱり答えになっていなかった。
「じゃなきゃ付き合ってないよ」
「じゃあ、いいよ」
「あたし、ムズかしいこと考えるのニガテだから。御幸が好きでいてくれるなら、それだけで嬉しいから」
「ね?」と軽やかな、その夏実の笑顔がまぶしくて、目の前の御幸は目を細めたくもなった。
そんなことを言われて、嬉しさよりも先に、申し訳なさが出てくる、なんていったら──君もさすがに、ひどい男だと思うだろうか。
(御幸くんの、みんなが言う"性格の悪さ"を程よく出していけたらなと思っています。)</font>
その昼休みですら、彼女は毎日違う同級生と話したり昼食を取っているのだから、自席でスコアブックを見るか、野球部の部員と話すことくらいしかしない御幸にとっては、どうしたものか頭を悩ませる問題だった。
「陸部の部室、キレイだなー」
「顧問の原ちゃん、整理整頓にはキビしいからね」
そんなこともあってから今日の昼休みだが、御幸は夏実と共に陸上部の部室を訪れていた。普段は部員しか入らないであろう部屋は、部活の時間でない今、やはり誰もいない。
夏実は部室に入って扉を閉めると、腕組みしながら少しふんぞり返るようなしぐさをして、冗談混じりの笑みを浮かべる。
「『部員諸君ー、部室の乱れは心の乱れだぞー』って言うの」
「ははっ、似てる似てる。語尾伸ばすカンジ」
陸上部顧問の原は生物教師で、御幸も授業を受けたことがあった。自分のところの強面の顧問と違い、いつもニコニコしていて課題も少ないからか生徒の人気も高く、優しいイメージの教師だ。
「原先生『諸君』って言葉よく使うよな」
「でしょ?」
御幸が部室に置かれた適当な椅子──どこかの余ったような教室の椅子に腰かけると、夏実は隅にあった小さめの冷蔵庫の扉を開け、そこからファスナー付きの袋を取り出した。中から数枚の長方形が差し出される。
「はい、シップ」
「サンキュ。陸部のもらっちゃってよかったの?」
「ケガ人相手にそんなこと言わないよ」
「スプレーも使う?」と、脇に置いていた缶を持って見せるようにしている。
さっき『ちょっと筋肉痛かも』って言っただけで、『じゃあ、陸部の部室に道具あるから一緒に行こ』で、これだけしてくれるんだもんなあ。
「ん? いやー、もう大丈夫」
しかし、受け取ったばかりの湿布を机の上にポンと置いて、御幸は頬杖をついた。「ホントは大したことないんだ」
首をかしげた夏実を見て、御幸は彼女を手招きした。なんだろう、といった顔つきで、夏実は机を挟んで御幸の前の席に座る。御幸は頬杖をついた腕を机の上で組みなおして、目の前の夏実の顔を覗き込むように、少し身を乗り出した。
「なっちゃんとさ、二人だけになりたかった……って言ったら、怒る?」
そう言うと、夏実は少し見開いた目をパチパチとさせて、ゆっくりと、首をひねった。
「怒りはしないけど……」
表情も変えないまま、肩をすくめられる。
「回りくどいなー、とは思う」
「ハッキリ言うなあ」
彼女の答えに、御幸は苦笑いするしかなかった。ちょっとは動揺してほしいんだけどな。
「そこは、話したいからどっか静かなところ行こう、じゃダメなの?」
「んー」
言えたらこんな人間になってないんだよなー、と取り繕うように曖昧な返事をする。教室でそんな会話して、親しくもない誰かにそれを聞かれるのも、なんかヤだし。
「もし俺がそう言ったら、なっちゃんはオッケーしてくれんの?」
「いいよ?」
いいんだ……
「いつでも付き合うよ」
そう言ってうなずいた夏実が、真っ直ぐな目で見てくる。
それは、"俺が彼氏だから"なのだろうか。それとも、やっぱり彼女は、頼まれればどんな相手でもそういう対応をするのだろうか。御幸はそんなことを考えた。
そんなことはつゆ知らず、夏実は「でも陸部の部室は、みゆきちゃん部外者になっちゃうから、今日だけね」と、人差し指で"ナイショのポーズ"をして笑っている。
「橘は、俺なんかよりよっぽどイケメンだなあ……」
「なにそれ」
「え? よく言われない?」
呆れたように肩を揺らす夏実に対し、御幸は至って真面目に聞いたつもりだった。クラスメイト、特に女子によく言われているイメージだ。背が高いから余計にかもしれないが。彼女が気にしているので、そこには触れないでおく。
「みゆきちゃんはイケメンだよ? それこそよく言われてるし、モテるし」
「なっちゃんだって、みんなにモテモテじゃん」
「えー?」
照れたように笑われる。橘の言う『モテる』とは、ちょっとちがう気もするけど。異性だけでなく、人に好かれるという意味で、だった。
「でも、さすがに"物好き"とか言われちゃわない?」
「俺が?」
「うん。だって、もっとカワイイ女のコはいっぱいいるじゃない」
「その基準は、人それぞれだよ」
なんて、まともなこと言ってる風で、それは答えになってないと、自分では気付いている。気の利いた答え一つも返せないのか、俺は。
「だからって別に、あたしみたいなの選ばなくたってさ……」
そこで少しだけ、目の前の御幸から目をそらすようにして、夏実は続けた。
「御幸みたいな男子に言われたら、からかわれてるのかと思うじゃない? 気まぐれだったのかな、とか」
彼女は、恋愛に関して不慣れそうな見た目に反して、意外に鋭い発言をするんだな、と告白したときもチラッとよぎったことを思い出した。
「それに野球、忙しいだろうし……なんとなく、付き合ってみるか、みたいな」
さっきからホント、核心をついてくるなあ。付き合うのをオッケーしてくれるまで、同じようなこと考えてたんだろうな。
御幸の本心までバレているような気がして、それでも、そんなわけないだろ、と口に出そうとしたところ、その前に「あーいや、」と夏実は両手を上げて顔を伏せた。
「ごめん、嫌な言い方だったね」
「せっかく告白してくれたのに」
それを聞いて御幸は、夏実に対して単純に、いいコだなあ、という感想を持った。その瞬間にそういったことが頭をよぎっても、とっさに口に出せるかどうかというのは、結局その人間によるだろうから。彼女はそれができてしまう人なのだ。
でも、そんなことを悪く思う必要なんてない。むしろ、「ううん」と首を横に振ってから御幸は笑ってみせた。
「俺は、橘の嫌なところ知れたら、嬉しいけどな」
「えっ」
『嬉しい』という言葉に驚いているらしく、夏実は目を見開いている。
「言ったろ? 橘のこと『もっと知りたいって思ったから』、付き合ってほしいって言ったんだよ」
ニヤリと笑ってみせる。ほくそ笑む、という表現が正しいかもしれない。
「むしろ、優しすぎるくらいのなっちゃんに、嫌なところがないか探してるんだ、俺」
あー、我ながらヤな奴だなーと、
そんな言葉を聞いて、夏実はというと、見開いていた目は視線が宙をさまよっている。困惑しているのがわかって、片手で自身の短髪を掻き乱すと、ぐしゃ、と前髪がその視線を隠すようにした。その隙間から、困ったように細めた目がちらりと覗く。
「……イジワルだなあ、みゆきちゃん」
初めて見る、どこか照れたような、でも苦い表情にゾクゾク、と体が震えた。その表情やしぐさに、何かそそられるものを感じて、御幸の口角は上がってしまう。
「そ。俺、イジワルなの。気付かなかった? こないだお菓子あげたときも」
「差し入れのやつ?」
「うん」
先日、昼休みに差し入れのクッキーを食べていたときのことを挙げる。
「そうだったんだ……てっきり」
「なんだと思ったの?」
「モテることを自慢されたのかなって」
「なんで彼女にそんなことすんのよ」
夏実が終始真面目な顔で答えるのがおかしくて、御幸はさっきまでとは別の笑いが込み上げてきた。
「うん。だから、なんでそんなことするんだろうって思ってた」
「ははは!」
我慢できずに声を上げて笑う御幸のことは気にもならないのか、彼女のほうは相変わらず「イジワルだったのかーそうかー」と、一人うんうん唸っている。ああ、このコはホントに、ある意味期待を裏切らないというかなんというか。
「その様子じゃ、意味なかったみたいだけどね」
「んー」
「怒んないの?」
「え、なんで?」
始めと同じような質問に、夏実は心底不思議そうな顔をしていた。
「怒るようなことっていうのは、お菓子もらったこと? それとも、イジワルしたこと?」
「両方かな」
「うーん」
「別に……」と、夏実は変わらず鈍い反応を返してくる。やはりどうも、御幸の思っていたような言葉は出てきそうにない。
「御幸はあたしに、怒ってほしいの?」
「その言い方だとヘンな誤解が生まれそうだな……」
性癖か何かを勘違いされそうなフレーズに、つい眉をひそめる。
というか、もうちょっとは意識してほしい。それはいわゆる"ヤキモチ"とは違うかもしれない。夏実にとって"彼氏"という肩書きは、実はそんなに大したものでもないのだろうか?、とまで思ってしまう。だっていまだに彼女は御幸の前で、「よくわかんないなー」と首をひねっているのだから。
ところが、夏実は突然顔を上げたかと思うと、自身の顔を指差して、いつもの調子で聞いてきた。
「みゆきちゃん、あたしのこと好き?」
え、と御幸は夏実の言葉に一瞬固まってしまった。付き合っているのに、付き合ってくれと言ったのは自分なのに──ギクッ、と不意をつかれた気になった。
しかし、口から出てきた台詞は、やっぱり答えになっていなかった。
「じゃなきゃ付き合ってないよ」
「じゃあ、いいよ」
「あたし、ムズかしいこと考えるのニガテだから。御幸が好きでいてくれるなら、それだけで嬉しいから」
「ね?」と軽やかな、その夏実の笑顔がまぶしくて、目の前の御幸は目を細めたくもなった。
そんなことを言われて、嬉しさよりも先に、申し訳なさが出てくる、なんていったら──君もさすがに、ひどい男だと思うだろうか。
(御幸くんの、みんなが言う"性格の悪さ"を程よく出していけたらなと思っています。)</font>
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