「横槍」(W & BEN)

「うっそマジかよ、サラトガじゃん!」
「サングラスなら使うだろう」

「俺のためにお前がこれを選んで買うところ、見たかったなぁ〜。毎日持ち歩く!」
「かけないのかよ」
「もちろんかけるけどォ。えーどうしよう、マジで嬉しい。サンキューな、ウェブスター」

「で、何才になった?」
「えー!それ訊くぅ!?知ってるじゃん、性格悪いなぁ」
「おまえに言われたくない」

ウェブスターは歯を見せて笑った。笑うと男前だよなぁ。

ああ、何か俺、今…。
なぁ、頼むからー

「俺のこと愛人にしてよ」

自然と滑り出た言葉に一瞬の間があった。

「愛人?」
「うん。ビブセントとの関係をジャマしようとか思わないから愛人にしてくんない?俺、セックス上手いよ」

ウェブスターは眉ひとつ動かさず、睨むような目つきで俺をじっと見た。

「ダメだ」

"イヤ"じゃなくて"ダメ"と答えるところが憎い。

「えー、何でだよォ。女の愛人はいるクセにぃ〰︎〰︎!」

親にキャンディをねだる5歳児の調子でごねてみる。

「自分からはいかねーし欲張らないからぁ〰︎、したい時だけ来てくれりゃいいからぁ〰︎〰︎」
「横に坊主がいることを忘れてないか」
「お願いダーリン〰︎」

ウェブスターは呆れ顔でコーヒーを啜(スス)った。

「結構マジなのにィ」
「人のものを欲しがるのは癖だろう」

パンケーキを食べ終えた息子が隣で俺の口元を見つめ、解析を試みている。

「そんなんじゃねーや」

ウェブスターはタバコが吸いたくなったのか、残りのコーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。

「馬鹿だな、お前は」

側を通る時にそう言って、カップを流しに置いた手で俺の髪を揉(モ)みくちゃにした。
さっきフランツ•ペーターにも同じことをしたじゃねぇか。

「子供扱いすんなよ。俺の方が11上だぜー?」
「そうか、34才か」
「あ!」

図ったな、この野郎。

「ズリぃ〰︎」
「セックスなしの関係でも守ってやるから安心しろ」
「ひどい、生殺しー!」

地団駄を踏んでも若造は振り返らず、息子に別れの挨拶をしている。

「もう行っちゃうの?」
「10時にベルギノ本部で会議がある」
「短い逢瀬、悲しい」

俺の言葉にウェブスターが冷徹な一瞥(イチベツ)をくれた。

「真面目な話だ。"あの男"のことは俺しか知らないし、おまえは太刀打ち出来ない。もし現れたらすぐに連絡しろ」

「んー…わかった。ねぇ、ダーリン」
「何だ」
「……」

返事するのかよ。

振り返ったウェブスターに柄でもなく俺は躊躇(チュウチョ)した。

「んーん、何でもない。いってらっしゃい」
「? 坊主を任せたぞ」
「はぁい」

姿が見えなくなり扉が閉まっても、俺はしばらくの間目の前の無機質な鋼鉄の隔たりを眺めていた。

いつの間にかフランツ•ペーターが足元にいて、きょとんとした顔で俺を見上げている。

「フランツさぁ…
俺がパパのこと好きになっても、俺のこと嫌いにならないでいてくれる?」

尋ねて見下ろすと坊やはふいと身を翻し、何事もなかったかのようにリビングルームの方へ引き返して行った。

んなわけねーか。
おまえの一番はビブセントだもんな。

マジに柄でもねぇよな。
俺みたいな人間が、人生を真面目に考えようったって無理な話だ。

けどさっき言ったことは結構本気。

今日みたいにお前が予告なしにこのドアを開けて、"相手をしろ"って言うのを期待してる。

別にいいだろう?

期待と妄想は自由だ。なぁ、ダーリン?







2026.10.7
「 横槍(よこやり) 」ー完ー
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