「横槍」(W & BEN)
フランツの見事なクルクルの巻き毛は、アルビノを先祖に持つというウェブスターの真白い髪に似ている。そして目鼻立ちは、幼くして死んだビブセントの末弟にそっくりらしい。
つまりどちらにも似ていて、ウェブスターがビブセントを孕(ハラ)ませた末に生まれてきたような形(ナリ)をしているんだ。
一体ビブセントはいつウェブスターに惚れたんだろう?でもって、ウェブスターはいつビブセントに惚れた?
まさか女好きのウェブスターが男のあいつを、しかも家族のような間柄になっていたビブセントを性愛の対象として見る日が来るなんて、さすがの俺も思わなかったな。
……
待てよ?もしかして元からバイだった?
いやいや、それは有り得ねぇ。女は大歓迎だが男には指一本だって触れられるのを嫌う奴だ。
……。
「でもさー、ビブセントの甘ちゃんになびくんなら俺にも可能性があったってことじゃねーか、こん畜生。」
俺は体を翻して天井を仰 ぎ、腹に乗せたままのフランツを相手に無意識に呟いた。平気だ。坊やは耳が聴こえない。ましてや俺のスラングまみれの"崩れ言葉"など、読唇出来やしない。
人は俺とビブセントが似ていると言う。
うーむ。俺と奴が似ている?
共にブロンド。
身長、体重、スリーサイズも同じ。
揃って三十路で男色。性格は真逆だ。
奴は生真面目、堅物、利他的、一途。
俺は不真面目、適当、利己的、多情。
ほらな?……ああ、なるほど!
無いものねだりの理屈で、嫌悪の下にあるのは相反するものへの羨望。つまり羨ましく思う部分があるが直視できず、互いにふんぞり返って毛嫌いしている。同じへそ曲がりってことか。
白状するが、俺がビブセントの恋人になったウェブスターにときめいた回数は一度や二度じゃない。
第三者の前でビブセントに対する好意を見せることはしないが、元親友を見る時のアイツは時々男の目をしている。
仕留める獲物を見定めたような、激しい性の願望を含んだ冷徹な目。その眼差しを認めた時、俺は自分がその視線に射抜かれているようにゾクゾクするんだ。
最近のアイツは体も出来てきて男が増しているし、背丈も俺らを超えて更に迫力がついた。
あの目でビブセントを抱くのかと考え、そのビブセントを自分にすり替えて想像すると、あらぬところの血が滾 る。
何にも執着しないあの無頓着が男に熱中しているという事実は、俺にとってとんでもない誘発因子なんだ。
渇望と不服の感情を抱えたままベッドから起き上がり、俺は坊やの手を引いてリビングルームへ向かった。
リビングに入るとフランツ•ペーターは自発的に手を解き、アームレストを頼りに椅子をよじ登って食卓についた。
防犯上の理由で、窓がないこの建物内からは外の景色は見えない。孤児院にいた頃にいつも大きな出窓から外を見ていたという坊やのことを思うと、窓付きの部屋をこしらえてやりたくなるが、父親たちの職業がら無理なことだろう。
「もう11月だもんなぁ。外は冷えてるだろうね」
独り言のような言葉をフランツに向けながら、ポットに水を張り湯を沸かす。俺の動作を見たフランツがお気に入りのマグカップを両手で持ってスタンバイする。
丸い大きな目がせがむように俺を見た。
「熱いから気をつけな。ビブセントには内緒な、甘いものを食わせるなってうるさいから。おめぇに似たんだろって話だよなァ?」
甘いココアから、坊やの一日は始まる。
クリスマスが近いが、フランツ•ペーターはキャンディケーンがお好みではないのでマシュマロだけを多めに盛る。目で口裏合わせをして、共謀のイタズラしている気分だ。
坊やがちゃんとした言葉を発したことはまだない。重度の先天性難聴で、フランツ•ペーターの耳が音を拾うことはないと医者は言ったらしいが断言する必要なんてないと俺は思う。
ある日突然坊やが物を言う可能性はある。
今は呻きに近い声を発するだけだが、言葉なんてのはその延長上のものだし10年話しかければ突然感音性が機能して音を拾い始めることもあるかも知れない。そのために奇跡って言葉はあるんだろ?
ビブセントの心配は度が過ぎるが、ウェブスターはフランツが言葉を話さないことを気にしていないようだ。
そもそも子供嫌いのウェブスターに父性が芽生えているか疑問だが、大した問題ではないとタバコをふかすウェブスターと、心痛するビブセントを能天気な顔をして眺めるフランツ•ペーターはやっぱり似ている。
パンケーキを焼きながら血筋の有無をすっ飛ばした考えをしていると、来訪者を知らせる呼び鈴が鳴った。
誰だ?
今日は家事手伝いのロマーノは休みのはずだが。玄関を映す監視カメラの映像を確認した俺は、ベルを鳴らした人物の姿を見て思わず叫んだ。
「ダーリン!」
浮かれた態度に、フランツ•ペーターが口いっぱいにマシュマロを頬張った顔を上げた。
つまりどちらにも似ていて、ウェブスターがビブセントを孕(ハラ)ませた末に生まれてきたような形(ナリ)をしているんだ。
一体ビブセントはいつウェブスターに惚れたんだろう?でもって、ウェブスターはいつビブセントに惚れた?
まさか女好きのウェブスターが男のあいつを、しかも家族のような間柄になっていたビブセントを性愛の対象として見る日が来るなんて、さすがの俺も思わなかったな。
……
待てよ?もしかして元からバイだった?
いやいや、それは有り得ねぇ。女は大歓迎だが男には指一本だって触れられるのを嫌う奴だ。
……。
「でもさー、ビブセントの甘ちゃんになびくんなら俺にも可能性があったってことじゃねーか、こん畜生。」
俺は体を翻して天井を
人は俺とビブセントが似ていると言う。
うーむ。俺と奴が似ている?
共にブロンド。
身長、体重、スリーサイズも同じ。
揃って三十路で男色。性格は真逆だ。
奴は生真面目、堅物、利他的、一途。
俺は不真面目、適当、利己的、多情。
ほらな?……ああ、なるほど!
無いものねだりの理屈で、嫌悪の下にあるのは相反するものへの羨望。つまり羨ましく思う部分があるが直視できず、互いにふんぞり返って毛嫌いしている。同じへそ曲がりってことか。
白状するが、俺がビブセントの恋人になったウェブスターにときめいた回数は一度や二度じゃない。
第三者の前でビブセントに対する好意を見せることはしないが、元親友を見る時のアイツは時々男の目をしている。
仕留める獲物を見定めたような、激しい性の願望を含んだ冷徹な目。その眼差しを認めた時、俺は自分がその視線に射抜かれているようにゾクゾクするんだ。
最近のアイツは体も出来てきて男が増しているし、背丈も俺らを超えて更に迫力がついた。
あの目でビブセントを抱くのかと考え、そのビブセントを自分にすり替えて想像すると、あらぬところの血が
何にも執着しないあの無頓着が男に熱中しているという事実は、俺にとってとんでもない誘発因子なんだ。
渇望と不服の感情を抱えたままベッドから起き上がり、俺は坊やの手を引いてリビングルームへ向かった。
リビングに入るとフランツ•ペーターは自発的に手を解き、アームレストを頼りに椅子をよじ登って食卓についた。
防犯上の理由で、窓がないこの建物内からは外の景色は見えない。孤児院にいた頃にいつも大きな出窓から外を見ていたという坊やのことを思うと、窓付きの部屋をこしらえてやりたくなるが、父親たちの職業がら無理なことだろう。
「もう11月だもんなぁ。外は冷えてるだろうね」
独り言のような言葉をフランツに向けながら、ポットに水を張り湯を沸かす。俺の動作を見たフランツがお気に入りのマグカップを両手で持ってスタンバイする。
丸い大きな目がせがむように俺を見た。
「熱いから気をつけな。ビブセントには内緒な、甘いものを食わせるなってうるさいから。おめぇに似たんだろって話だよなァ?」
甘いココアから、坊やの一日は始まる。
クリスマスが近いが、フランツ•ペーターはキャンディケーンがお好みではないのでマシュマロだけを多めに盛る。目で口裏合わせをして、共謀のイタズラしている気分だ。
坊やがちゃんとした言葉を発したことはまだない。重度の先天性難聴で、フランツ•ペーターの耳が音を拾うことはないと医者は言ったらしいが断言する必要なんてないと俺は思う。
ある日突然坊やが物を言う可能性はある。
今は呻きに近い声を発するだけだが、言葉なんてのはその延長上のものだし10年話しかければ突然感音性が機能して音を拾い始めることもあるかも知れない。そのために奇跡って言葉はあるんだろ?
ビブセントの心配は度が過ぎるが、ウェブスターはフランツが言葉を話さないことを気にしていないようだ。
そもそも子供嫌いのウェブスターに父性が芽生えているか疑問だが、大した問題ではないとタバコをふかすウェブスターと、心痛するビブセントを能天気な顔をして眺めるフランツ•ペーターはやっぱり似ている。
パンケーキを焼きながら血筋の有無をすっ飛ばした考えをしていると、来訪者を知らせる呼び鈴が鳴った。
誰だ?
今日は家事手伝いのロマーノは休みのはずだが。玄関を映す監視カメラの映像を確認した俺は、ベルを鳴らした人物の姿を見て思わず叫んだ。
「ダーリン!」
浮かれた態度に、フランツ•ペーターが口いっぱいにマシュマロを頬張った顔を上げた。
