「横槍」(W & BEN)

もうちょっと、
あともうちょっとだけ寝かせてくれー……

「うぎゃっ!」

そう思った瞬間にドシンと隕石が堕ちたような衝撃を腰に受けた俺は、カエルが潰れたような声を上げて目を覚ました。

「いってー!!……っ!
フ、フランツ〜!坊や〜?あのねぇ、起こす時は腰にダイブしないでって言ってるじゃないのォ」

うつ伏せに寝ていた俺は、痛みに悶えながら自分の腰にまたがる3歳児を振り返った。

フランツは悪戯を働いた幼児らしからぬ無に近い表情で俺を見下ろしていた。確実に狙ったと思うが、お前はいつからそこにいたんだと言わんばかりの目をしている。

このフランツ•ペーターは、俺の仲間であるビブセントとウェブスターの息子だ。

面倒をみることになった当初は呼びかけても反応に乏しく大人しかったが、良いのか悪いのか最近では怪獣のようなわんぱくさを露呈して容赦ない。

平日ほとんど不在の父親たちとのコネクターとなるのは俺の携帯電話だが、既に2台壊され現在の3台目こそは死守せねばならない。

物を破壊する癖が付くような環境は与えていないから、生まれ持った性分か?

俺の腰に爆弾を投下して素知らぬフリをするところなんかは、無理難題を発令しておきながら存じぬを通す旦那(ウェブスター)の方に似ている。

「なぁに、お腹すいた?
ん〜…まだ7時になってないけど、起きろってことよな?」

俺は孤児院にいたフランツを養子としたビブセントとの出会いが何年前だったか、もう正確に覚えちゃいない。仲がいい訳ではなく、むしろ存在を認めた瞬間、互いに本能的な嫌悪を抱いたところから関係は始まったように思う。

俺は慎みもなく思ったことを言っちまう。色恋の面でのみ奴が発揮する絵に描いたようにひどい純朴さをからかうのが面白かったから、大いに笑い飛ばしてよくビブセントをキレさせたっけ。俺は、いい年をした奴が童貞だと本気で思っていたんだ。

今だって壊滅的に恋愛下手なあいつが、女を取っ替え引っ替えして喜ばせているウェブスターとデキてるって聞いても、ちょっと信じられないもんな。

まぁとにかく、俺たちを繋ぐのは良縁ではなく腐れ縁というやつだ。

で、軍場(イクサバ)を仕事場とする同業であるが故に、当時ツラを合わせれば口論になるのをその場にいるだけで中和したのがビブセントが弟のように可愛がっていた新米のウェブスターだった。

俺らと出会った頃のウェブスターはまだ10代だったが、俺たち"犬と猿"の喧嘩を何の感情も含まない顔で見ていた。

基本的に他人に無関心。まだ本格的に漕ぎ出してもいない社会に対してはその仕組みに呆れ、静かな瞳で侮蔑(ブベツ)しているようにも見えた。

気だるそうな若造だったが、ビブセントの脇から正面を見据える眼光はぎょっとするほど鋭かった。

何もしなくてもいるだけで周囲に対し効力を発揮する人間がいる。間違いなくウェブスターはその類だった。

一度見たら忘れられないその目は言葉少なな若造の人相と印象を一際悪いものにしていたが、俺はウェブスターに対して好感を持った。

まだ何の関係値もないに等しいビブセントの脇に黙って立つ姿は真っ白なサルーキを思わせた。まるで昔からずっと"そこ"にいたように、自然で違和感がなかった。

一見ビブセントが連れ回し、その脇にただ受動的に突っ立っているように見えるアイツの瞳に俺は予兆のようなものを嗅ぎ取ったように思う。

射撃の経験を持つビブセントにしても、日頃から背後に人が立つことを許さないはずが、若造の立ち位置については気にもしていなかった。

ほぼ他人の状態なのにマヌケなほど互いに無防備で、『出会う前から出会っていた』ーまさにそんな感じだったな。

世話病のビブセントはウェブスターの無関心に動じずよく面倒をみたし、奴の強烈な"他愛"を四六時中浴び続けたウェブスターも、終(シマ)いにはビブセントを兄貴のように思っていただろう。
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