「秘密」(ミト→イフ)

「ミトニス様、見張りを交代致します」

ミトニスに声をかけてきたキアラは、この屋敷の主人であるイフィーの身辺警護を務める一人だ。ミトニスの後輩にあたり、ウルスコ一族に生涯忠誠を誓った同志でもある。

年は20代半ば、あるいは後半くらいだろうか。琥珀の豊かな長い髪を持ち、腰元に長い剣を携えている。女性でありながら男に勝る身体的なタフさと凛々しさを備えているが、女性特有の包容力と優しさも併せ持っている。

今日のような華やかな舞台にあっても引け目なく堂々と立ち振る舞う彼女の姿は貴人と遜色なく、会場にいた貴族の独身男たちの興味をさらった。

彼らは慣れた口振りで代わる代わる誉めそやしの言葉を投げかけたが、プロ意識の強いキアラの鉄壁の表情を崩すことは叶わなかった。彼女は屋敷の守りを担う者として、ミトニスに次いで従事者たちから厚い信頼を得ていた。

「しかし、まだ時間ではないぞ。キアラ」
「はい。ですがイフィー様のご命令です」

キアラの言葉を受け、ミトニスは会場内に主人の姿を探した。

「イフィー様でしたら、ヒルダを伴い先ほど自室に向かわれましたよ。少々お疲れのご様子でした。パーティーは続きますから、あなたにも一時間ほど息抜きを…と」

キアラはミトニスの様子がいつもと違うことに気付いていた。少し間を置いて物思いに耽る彼の表情は硬い。女の勘がミトニスの衰弱した精神を見抜き、寄り添った。

「あの…ミトニス様。パーティーの準備で今週は激務だったこととお察しします。今のところ宴の進行に問題はありません。この場は私に任せていただき、どうか休息を…。」

男たちが束になっても崩せなかった彼女の鉄壁は、ミトニスの為に容易に解(と)かれた。

「ああ、そうだな…。イフィー様のお心遣いに甘えて、私はしばらく休憩を取らせてもらうとしよう。キアラ、すまないが後を頼む」

「はい、仰せのままに」

彼女は穏やかな微笑みを浮かべた。
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