Endlogue
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額にキスをおとして離れていくリゲイドの温もりに名残り惜しさを感じたが、ラゼットはその目の端にフランをとらえて気まずそうに顔をそらした。
「今日は大事な日なのですから、お二人とも。お戯れはそのくらいにして、さっさと準備をしてください」
呆れたように嘆息したフランの声が、リゲイドとラゼットの顔を見合わせる。
「「大事な日?」」
そろって首を傾げた二人に、今度こそフランの顔が無表情に凍り付いた。
「本日はリゲイド様の王位継承日です。王権移行の大事な日だと、昨夜申し上げたはずですが?」
ヒクヒクと眉をしかめるフランの伝達に、リゲイドとラゼットは「あっ」と顔を見合わせて肩をすくめる。
すっかりと忘れていた。
テゲルホルム撃退とラゼットの奪還が認められ、リゲイドをオルギスの王にと望む民の声が耳に新しい。その声に後押しされるように現国王はついにその王冠を脱ぎ捨て、退去することを決めたのだった。
「しっかりなさってください。ギルフレア帝国とオルギス王国がひとつになる大事な日なのですから」
「あと、テゲルホルムもな」
「アキームっ!?」
ラゼットは部屋の入口に見えた黒髪の青年に気づいて顔をほころばせる。
ベッドから降りたリゲイドのおかげでようやく解放されたラゼットの体は、シーツを巻き付けるようにしてアキームの元まで駆け寄っていった。
「足はもう大丈夫なの?」
一週間前。
祈りの塔で起こったテゲルホルム連邦との戦で負傷したアキームは、病棟で治療に専念していたはずだった。
「ええ、ご心配にはおよびません」
その手に持った書状にラゼットは顔をあげる。
「テゲルホルムとの友好条約をとりつけたの!?」
「祈りの塔はオルギスの領地とし、彼らとの国交を徐々に増やしていきたいとラゼット様が望まれましたので」
そう言って苦笑するアキームの行動力にラゼットの顔は驚きを隠せない。
小さなころからラゼットの願いを必ず叶えてきてくれた男だったが、まさかここまでの働きをしてくれるほどだとは思ってもみなかった。
「ありがとう」
ラゼットはその紙を受け取りながらアキームにお礼を言う。
涙が零れ落ちそうになったが、ラゼットは頑張って微笑みながらアキームを見上げてみせた。
「お礼など必要ありません」
照れたように笑うアキームの顔が赤く染まる。
「それに、うかうかと休んではいられませんので」
そういう割には、まだどこか足の痛むような顔をしているように見えないこともない。ラゼットは心配そうにアキームの顔を覗き込んだが、アキームが目のやり場に困るといった風に小さくせき込んでくれたおかげで、ハッとシーツを巻きつける手に力を込めて距離をとった。
「もっと休んでてもよかったんだぜ?」
「リゲイド様」
下半身だけ羽織を着こんだリゲイドがラゼットの肩を引き寄せる。
「オルギス国の戦士は全快じゃねぇと面白くねぇからな」
「きさまのようなやつにラゼット様は任せられん」
「またまた素直じゃねぇなぁ」
クスクスと笑うリゲイドの顔が、数か月前とは全然違って見えた。
いつの間に仲良くなったのかはわからないが、フランやアキームともそれなりに口数があるところをみると、どこか頼もしく感じてくるから不思議だった。
「ん?」
ラゼットの視線に気づいたリゲイドが笑うのをやめて首をかしげる。
亜麻色の髪に深い紺碧の瞳。
最初に見たあの日から心奪われたあの感覚は、今もラゼットの胸の中でくすぶっていた。
「ラゼット様、離縁するのであれば今のうちですよ」
「フランったら」
「ラゼット様を泣かせるようなことがあれば即刻切り捨てる」
「アキームまで、もう」
リゲイドとラゼットを囲むように、フランとアキームの声がどこか弾んで聞こえてくる。
それを頼もしく思いながら、ラゼットはふわりと三人を見つめて微笑んだ。
「私はフランもアキームも大好きよ。でも、リゲイド様。私はあなたと一緒に生きていきたい」
たとえ、最強の矛と盾の伝説がなかったとしても。
希叶石がめぐり合わせてくれた運命は、これから先も語り継がれる永遠に違いない。
「ああ。ずっと傍で俺も守ると誓おう。最強の矛ではなく、一人の男して」
世界は祈りで支えられている。
人々が平和で過ごせるように、愛する者たちが明日を笑顔で過ごせるように、祈り続けることが世界を守り、そして絶望から救い、未来へ希望を届けていく。
ここは世界の中心、オルギス王国。
最強の盾と矛が出会うとき、争いは終焉し、人々に心の安寧と救済を与えるだろう。
そこに時代を超えて愛し合う一組の男女の姿を重ねながら。
《完》