Story-04
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そうしてものの数秒間で終わった路地裏の男たちの悲劇に、リゲイドは満面の笑みを携える。
「で?」
たった一言。凍てつくほどの冷笑を浴びせるようにして首を傾けるリゲイドの足元では、ところどころ血を流しながら倒れたケガ人たちが呻き声をあげていた。
誰も説明のしようがない。
ただ立っていただけなのに、一瞬にして体が八つ裂きにされるほどの激痛と灼熱に侵されたなどと、どう考えても説明のつけようがなかった。
「誰が最弱の矛だって?」
ニコリ。女、いや男たちでさえ顔を赤らめて黙りこむのも無理はない。
リゲイドが真下で身体をかかえてうずくまる男と目線を合わせるようにしゃがみ込むと、周囲に群がっていた路地裏の住人達は危険を感じてその体を硬直させる。それほどまでにリゲイドの端正な顔から作り出される笑顔は美しく、その歴然とした力の差が恐ろしかった。
「お前らが知りたがってた矛の力の一片を見せてやったんだ」
「ヒッ!?」
「ありがたく思えよ」
リゲイドは勝利したことが当然のように、無傷のままその美麗な顔に笑みを深める。
恐怖に震える男たちは青ざめた顔でリゲイドの笑顔をガタガタと歯の根の合わない音で見つめていた。
「ところでお前らさ」
「なぅなななんぁっ」
「そんなに怯えんなよ。俺たちの仲じゃねぇか、な」
「はっはははぃい!」
主従の決定とは実に容易い。
圧倒的な力の差に異論を唱える者はもちろんおらず、リゲイドは意図も簡単に、オルギス王国の裏に潜む住人達を従えることとなった。
「どこの国にもああいう奴らはいるんだな」
また一人。ようやく静かに町の探索ができると、リゲイドは家と家の隙間を歩いていく。
「石を扱う店はこっちだったか?」
十字路を左右に見渡した後で、リゲイドは右側の道を選んだ。
城はどんどんと遠ざかっていくが、気にはしない。行先は城ではなく、石の情報に詳しい主人がいる店なのだから。
「本当に平和に暮らしてるんだな、オルギスの国民は」
路地裏のけが人たちから教えてもらった目当ての店へ向かう道中、リゲイドは穏やかに日常生活を送る人々の顔を何人も見てきた。けれど、見上げてみれば澄み切った空に、時折紫色のベールが砲弾をはじき返しているのが見て取れる。
異様な光景。
空を見上げる国民は「今日もいい天気ね」と、まるでこの風景を認めるような発言をしているが、果たして本当にそうなのだろうかと疑問を抱かずにはいられない。
「祈りの力さまさまだな」
そう言ってリゲイドはまた目的地を目指す。
途中、小さな女の子がリゲイドに気づいて駆け寄ってきたが、そこはさすがというべきか、リゲイドは表向きの笑顔を張り付けて、挨拶の言葉に答えながら次期国王のふるまいを壊さなかった。
「生きにくい世の中だぜ、ったく」
伝説でも伝承でもない。この目で見たものはまぎれもなく真実。
ギルフレア帝国最強の戦士、オルギス王国の時期国王候補、最強の矛という伝説の人物。色んな肩書を羅列されるごとに息苦しくなってくる。まだ、女たらしなどと言われているほうが、リゲイドにとってはよっぽど気楽だった。
「そんなに伝説がありがたいってのは、俺にはよくわかんねぇ感覚だわ」
他の人間が人間らしくすごしていけるのは、たった一人の犠牲の上に成り立っていると、一体どれくらいの人が認識しているのだろう。毎日休むことなく捧げ続けられる少女の祈りの上で、平和が保たれているということを、一体この国の人々はどれほどありがたいと感じているのだろう。
心のどこかでは誰もが理解しているに違いない。けれど、現実が残酷なことは他の誰でもなく、最強の矛と祭り上げられてきたリゲイドの方が理解していた。
「お飾りの姫と王子が犠牲になったところで、世界平和が守られていると本気で思ってるのかねぇ」
国民だけではなく、この国の王も、自国の国の王も本当のところはどう思っているのかが定かではない。
皆、内心で恐れているだけなのだ。
盾の力がなくなれば、幻獣魔族たちの侵略に世界は脅かされることになり、矛としての力が内側に向けられれば、世界を掌握されてしまう。それはつまり、自分たちが世界を自由に動かせなくなるということ。
この国の実権を現在進行形で握っている王国貴族の面々たちは、わずらわしい伝説を受け継ぐ者たちをひとつにまとめ、籠の中の鳥として飼い殺そうとしている。
それを認識しているのはきっと、自分と姫を守るたった二人の従者だけだろう。
「フランとアキーム、か」
思い出すだけでも腹が立つ。
ラゼットの腰巾着とも表現できる二人の美男子は、なぜかラゼット同様にこの国の人々からは慕われているようだった。
「あーーーもう、うぜぇ、うぜぇ」
リゲイドは一人、頭の中をぐるぐると渦巻く陰険な思考回路を一掃する。
「俺はもう、誰かに飼いならされりしない」
そうしておもむろに取り出したのは、例の白色がかった楕円の石。
見つめているだけで不思議と心が安らぎ、温かな気持ちが胸いっぱいに広がっていく。
「お前には随分と助けられてきた」
聞いたことのない優しい声がリゲイドの口から放たれる。指で滑らかな石の表面をなぞる仕草は、すれ違う人々が思わず魅入るほどに繊細な横顔をしていた。
「次は俺が返す番だ」
そう言うと、リゲイドはその石を一度強く握りしめてから、顔をあげる。
まだ紫色の祈りの波動は、オルギスの街並みを温かな光で包んでいた。