Story-03
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ここで反抗すれば、ものの数秒で身体は八つ裂きにされるだろう。
だが、リゲイドは常人とは違う。抵抗されれば戦闘は必須。
しかし、ここで血の雨の攻防をするつもりもないのか、意外にもすんなりとリゲイドは聞く姿勢を見せた。
「で、王からの伝言ってなんだよ?」
「幻獣魔族たちから攻撃されていることは?」
「ああ、昨晩も激しかったようだな。けど、それがどうしたってんだよ」
まるで自分には関係ないといった風に、リゲイドはアキームの手が離れた肩をぐるぐると回す。
「祈りで守られてるんだろ。俺の出番はないはずだぜ」
「まさか」
「は?」
「本気で言っているのではないでしょう?」
笑顔のフランに見送られるようにして、リゲイドはアキームに回していた肩を再びつかまれる。
その重さは言葉では表現しにくいと、リゲイドは現在、交わる剣の振動を肌で感じ取りながら思い返していた。
「すげぇな。リゲイド様」
「ああ、あのアキーム様とほぼ互角じゃね?」
「ギルフレア帝国の最強の矛って肩書もダテじゃなさそうだよな」
衛兵たちが口々に言葉を飲んでその剣技に見惚れるのは仕方がない。けれど、その賛辞の声の中には明らかに悪意のこもった揶揄(ヤユ)が含まれている。
「噂には聞いていたけど、さすが軍事大国の王子様だよな。女だけヤるんじゃ足りねぇってか?」
「アキーム様やフラン様のお気持ちを考えるとこっちがやりきれねぇよなぁ。そりゃ、こうして剣も振るいたくなる衝動にかられるわ」
「女とヤりまくっても矛ってだけで重宝されんだもんなぁ」
クスクスとあざけり笑う声は止まらない。
「ギルフレア帝国の最強たって、俺らには本当かどうか知らねぇ話だし」
「あのギルフレア帝国だぜ。どうせ戦禍に巻き込まれたら尻込みして逃げるに決まっているさ」
「レルムメモリアの時のように裏切るだろう」
「それは言えてるな。ラゼット様もお可哀想に」
自分たちを遠巻きに取り囲む兵たちのざわめきに、リゲイドはうんざりしたような視線を流す。その一瞬のすきに、アキームの力技がリゲイドのわき腹をねらっていた。
「ッ?!」
キンと高い剣の音に合わせて火花が散る。
「っと。未来の主君相手に少しは手加減しろよ」
流れに身を任せるように向きを変えたリゲイドの剣が、アキームの技を受けてビリビリと振動していた。
「きさまを主君だと認めた覚えはない」
どこか忌々しそうな顔でアキームがリゲイドに押し迫る。
それをどこかいたずらな顔で跳ね返したリゲイドが、今度はアキームめがけて飛び込んでいった。
「ラゼットの夫に向かってあんまりだろ?」
耳に響く高鳴りの中、額が引っ付きそうなほどの至近距離でリゲイドがアキームに囁く。
「大事にしていたラゼットを横取りされたからって俺にあたるなよ。嫉妬にかられた男ってのは見苦しいぜ、アキーム」
「ッ!?」
明らかに顔つきが変わったアキームの鼻息が、リゲイドを吹き飛ばそうと大きく膨らんでいた。
「ラゼット様を泣かせることがあれば、俺はきさまの命をもらう」
「いいじゃねぇか。たとえ泣こうがわめこうが、そうだな、無理矢理犯そうが、妻をどう扱おうと俺の勝手だろ?」
「きさまっ!?」
そうして怒りに任せたアキームの剣は、リゲイドの剣をはるか上空へ吹き飛ばし、その勢いで倒れたリゲイドの首元に剣を突き付ける。
「きさまが主君だと俺は認めん」
はぁはぁと肩で息をするアキームの怒りは、その剣すらも相手の血をのまなければ収まらないとでもいう風に太陽の光を浴びてギラついていた。
「別にいいぜ」
ふっと、のどに剣を当てられたままのリゲイドが軽く自虐の笑みをこぼす。
「俺は背中を預けられるほど、お前らを信頼できるとは思ってないしな」
「俺はラゼット様のために生きている」
「俺は俺のためだけに生きているよ」
突き付けられた刃先を指で挟みながらリゲイドは立ち上がっていく。
「大体、こんな茶番なんかして何か意味でもあるわけ?」
「ッ!?」
一見、アキームが力を抜いたと思わせるほど、たった二本の指先で挟まれた剣がリゲイドを傷つけることなく軌道をそらしていく。
「なっ!?」
それは信じられない現象だった。
アキームが両手に力をこめても、リゲイドのたった二本の指に食い止められた剣はびくりとも動かない。
負けじとアキームの手に力がこもったのは、軍人としてのプライドか。それでも剣は微弱に振動を繰り返すばかりで、リゲイドの肌にかすり傷ひとつつけられない。
「俺が最強の矛なのかどうか、疑うことは同盟を復活させたばかりの国を疑うってことだぜ?」
自嘲気味に笑うリゲイドの視線が、見上げるようにアキームの瞳をとらえた。
どういうわけか、理解しがたい現象に混乱するアキームの瞳は状況を探るようにリゲイドの次の行動を警戒していた。
「証拠である紋章が見たいなら、命を失う覚悟くらいあるんだろ?」
「ッ」
「ラゼットを犯されたとか思ってるなら、それこそただの嫉妬だってことはわかるよな?」
ニヤリと勝者の笑みをこぼしたリゲイドの瞳に、アキームの背中を冷や汗が伝う。