Story-03
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(Story-03:信頼できる者)
昨夜、結婚初夜をいいことに幻獣魔族たちがいくら襲ってこようと関係ない。
オルギス王国の祈りが破られない以上、朝は当然のようにやってくる。
どれだけ激しい砲弾に見舞われようと、まるで何事もなかったように太陽は温かな光を地上に届けるため、今日も優雅に上っていた。
「ラゼット様、そろそろお目覚めの時間ですよ」
「……っ…ん」
突然、室内に差し込んだ陽の光にラゼットの顔がまぶしそうに歪む。
「ふ…っ…らん?」
シャッと勢いよく開かれていくカーテンに、室内が明るく変わっていく。
いつもであれば、ラゼットの目が朝の明るさに慣れるように計算された光の密度も、今日はなぜか強烈にたたき起こすかのような勢いで差し込んでくる。
「ラゼット様、起きていらっしゃいますか?」
「ッ!?」
耳元で囁くように近づいたフランの声に反応して、パチッとラゼットの瞳が開いた。
「ふっフラン?」
ドキドキと嫌な目覚め方だと、ラゼットは心臓が止まりそうなほど早くなった鼓動を抑えるかのように目の前のフランを見つめていた。
熱を感じるほどの至近距離から覗き込まれた深碧の瞳。
朝の光のすべてが遮られるほどの距離で囁かれた名を呼ぶ声に、ラゼットの顔が寝起きから青ざめる。
「ふ、らん?」
幼いころから傍にいるのだ。
その瞳がうつす自分の顔を見てすぐに、フランが不機嫌なことをラゼットは悟っていた。
「リゲイド様はもう出られましたよ」
「え?」
「ラゼット様も早くお召し物を」
「あ」
そこで初めてシーツの下が全裸のことに気づいたのか、ラゼットの顔が青から赤に染まる。
恥ずかしい。
別に見られることに今更抵抗がない間柄とはいえ、昨夜の出来事を思い返してみれば、まるで違う体のように感じるのだから仕方がない。幼いころからラゼットはフランに何でも伝えてきた。
フランが知らないことは何もないと昨日までは胸をはって言えていたのに、もう言えなくなってしまった。兄のようであり、教師のようであるはずのフランだからこそ、知られたくない自分がいる。
「ふっフラン、あの」
「夫婦となられたのですから当然です。私に気兼ねも遠慮も必要ありません」
フランが明らかに不機嫌な理由は何か。
言えないことが生まれたことによる後ろめたさから、あまり深堀もしたくない。
「早く起きられた方がよろしいかと」
「あ、はい」
すっと離れていったフランが、いつも通り背中を向けて朝の給仕を始めていく。
いつもならフランが温かな飲み物を入れて戻ってくるのを待つのだが、今日はそれをどこかありがたいと思いながらラゼットは起き上がった。
「え?」
「え?」
ベッドから降りようとシーツを体に巻き付けて立ち上がろうとしたラゼットは、いつもであればしない行動をみせたフランに戸惑いの瞳を向ける。
同じように、フランも戸惑ったような眼差しでラゼットに手を差し伸べたまま固まっていた。
「腰がだるく感じられるかと思ったのですが、案外、平気そうですね」
「え?」
差し伸べた手とは逆の手をアゴに添えて何か思案するような素振りを見せたフランは、ラゼットのつま先から頭の先まで見つめて腑に落ちないように深い息を吐いた。
「あの人がラゼット様に何もしないとは思えないのですが」
「リゲイド様がどうかしたの?」
「いえ、何もありません」
ニコリ。フランが笑顔だけで応えるときは、大抵本当の答えは教えてもらえない。
「ラゼット様、ひとつよろしいでしょうか」
「な、なに?」
その笑顔が妙に気になったが、ラゼットは固まったまま差し伸べられていたフランの手を取ってベッドから立ち上がる。
「本当にリゲイド様と初夜を過ごされました?」
難色を示したフランの声に、ラゼットはどういう意味だろうと不可解な顔でそれを見上げる。
抱きしめられるほど近寄ったフランの体に、なぜかドキリと胸が音をたてていた。
「え、ええ」
誤魔化すようにパッと視線をそらせたラゼットをどう思ったのかはわからない。それでもフランは疑心暗鬼な眼差しのまま、ラゼットの様子をうかがっていた。
そして今度は、ふぅっと何かに区切りをつけるような息を吐き出す。
「まあ、いいでしょう。それよりもラゼット様、早速ですが王より伝言がございます」
手を引かれるままに連れてこられたバスルームで、フランから背を向けるように指示されたラゼットのシーツがはぎとられる。スルスルと衣擦れの音と共に、ラゼットの白い肌が朝日の差し込むバスルームの中にさらされた。
「痕もつけられていないようですね」
「ねぇ、お父様からの伝言って?」
フランの声にかぶせるように、ラゼットは顔だけで背後の従者を振り返る。
「あ、ええ。はい」
驚いたように半身後退したように見えたフランだったが、すぐに咳ばらいをすると疑心に満ちたラゼットを誤魔化すように、またニコリと得意の笑顔を張り付けた。